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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
9/60

第12善「もしかして治安悪い?」

9〜11話が抜けているのは仕様です


『一日七善さもなくば死』

 異世界での旅の末に歪んでしまった倫理観を正すため、神から課せられた使命。あるいは呪い。

 一日に七回も良い事をして、人から感謝を貰わなければならないのだ。失敗すれば、待つのは死。


 週の頭から始まった善行生活も今日で五日目を迎えた。今のところ、なんとか日々のノルマは達成できている。


 だが安定してゲットできる善行は未だに委員長の朝のボディーガードのみ。確実に一善獲得できるのは良いが、その他の善行は日々その場その場で何とかやり繰りしている状態だ。

 時に老人の荷運びを手伝ったり。時にコンビニを強盗を撃退したり。時にひったくりを捕まえたり。

 ——あれ、俺の住んでる街って、もしかして治安悪い?


 ともかく、委員長のボディーガード以外の善行は運でゲットしているような状況だ。運頼みは良くない。委員長のような、安定して善行を確保できるカモを見つけたいと常々思っている。


「吉井くん、今日もありがとうね、一緒に登校してくれて」


 いつものようにボディーガードの責務を全うすると、横を歩く委員長が俺の顔を覗き込むようにして微笑んだ。その頬は少し汗ばみ、ほんのりと赤らんでいる。彼女自身もそれを自覚しているのか、自分の顔をパタパタと手で仰いでいた。満員電車で密着状態だったのだ。


「委員長、仰いでやろうか?」

「だ、大丈夫。自分でやる」

「委員長、喉乾かない?」

「平気。水筒持ってるし」

「委員長、お腹空いてない?」

「全然。朝ごはん食べた」

「委員長、鞄重そうだな。持とうか?」

「そんな重くないから大丈夫。……わたしで手取り早く善行のノルマ稼ごうとしないでくれる?」


 委員長は善行ノルマの存在に薄々勘付いているようだった。もちろん『一日七善さもなくば死』の呪いの話自体はしていない。俺の行動から察したらしい。さすが委員長。勘も鋭い。


「委員長、体重そうだな。持とうか?」

「殴るよ?」


 最初こそガバガバ委員長から善行を稼ぐ作戦は上手く行っていた。しかし最近は下心に気付いてか、そう簡単にヤらせてくれないのだ。


「くそ〜ガード固くなったな〜。前はもっと簡単にヤらせてくれたのに……」


 思わずそう呟くと、すれ違う通行人の顔がガバっ!と一斉にこちらに向けられた。


「ぜ、善行の話だよね!?」

「なぁ、また揉ませてくれよ? 俺、上手くて気持ちいいんだろ?」

「肩の話だよね!? 誤解を招くような言い方しないで!」


 まるで周囲に主張するかのような大声だな。さすが委員長。朝から元気だ。

 通行人が過ぎ去って行くと、委員長はおほんと咳払いをして乱れた呼吸を整える。


「そんなに善行をしたければ、ボランティアでもやれば?」

「いやぁ、ボランティアって何か大変そうじゃん。俺はもっとこう、手っ取り早く楽に善行をしたいんだよ」

「なんかすごく矛盾してるような……」


 例えば清掃ボランティアで掃除でもしたとして、得られる善はきっと一つだけだ。拘束時間の割にコスパが悪い。もっと短時間でサクッと稼げる善行がしたいのだ。


「はぁ〜。そんなに感謝の言葉が欲しいなら何回でも言ってあげるよ。ありがとうありがとうありがとう」

「いや、感謝の言葉が聞ければ良いってワケじゃないんだ。具体的な行動に対して言ってくれないといけないというか」

「変なところでストイックなんだよねぇ……」


 ストイックというか、そういうルールなんだよねぇ。


「えーっと。じゃあ、昨日わたしの荷物をひったくりから取り返してくれてありがとう。それから一昨日、コンビニ強盗の人質になったわたしを助けてくれてありがとう……この街って、もしかして治安悪い?」


 気付いてしまったか……。


「あー、言ってもらって悪いが、過去の分の感謝は意味が無いんだ。リアルタイムというか、生の感謝がいいんだ。……ナマがいいんだ!」

「なんで急に叫ぶの!?」


 いや、ちょうどトラックが横を通ったから。良く聞こえるようにと思って。


「あ、そうだ。そんなに善行がしたいなら、《お助け部》に入ってみれば?」

「お助け部? 何それ?」

「わたしも詳しくは知らないんだけど、今年出来た新しい部活なんだって。名前の通り、困ってる人を助ける部活らしいよ」


 なるほど、善チャンスが勝手に転がってくる部活なのか。最強の環境じゃないか。どんな仕事内容が来るのかは知らないが、誰かをボコボコにして欲しい、なんていう俺向きの案件もあるかもしれない。

 さっそく今日の放課後、訪ねてみるとしよう。


 ——それが地獄への入口だとは、この時の俺は知る由も無かった。


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