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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第1章 やさしい委員長編
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第6善「なんだか照れちゃうね」


「もー! 普通に感謝して欲しかっただけなら最初からそう言ってよね!?」

「いや、言ったじゃんか。口で感謝してくれ、って」

「『お口で感謝』だと意味変わってきちゃうから!」

「え、そうなの? どういう意味?」

「そ、それは……」


 委員長とパンツ少女は気まずそうに顔を見合わせるだけで、結局最後まで意味を教えてくれなかった。

 一悶着あったが無事に誤解が解け、パンツ少女はペコリと頭を下げてくる。


「あ、あの……パンツ拾ってくださってありがとうございました」


 俺が拾ったのはハンカチだったと思うんだけど。まぁなんでもいいや。ようやく三善目獲得だ。そして、やはり善行認定に感謝が必要なことも確認できた。


「それで? 吉井くんは、良い行いをしたかったのね?」


 パンツ少女を見送ったのち、委員長が俺の顔を覗き込んでくる。

 誤解が解けたため、彼女の表情も柔らかくなっていた。


「そうだな」

「一体どういう風の吹き回し?」

「なんて言うか……善人になりたいというか……」


 一日七善のことは言えない。適当にボカすしかない。


「すごい! ついに更生したんだね!」


 元々グレてたつもりはないんだがな。


「……確認したいんだけど、今日一日の吉井くんの行動は全部、善行のつもりだったってこと?」

「そうだな」

「今のハンカチの件も……」

「善行のつもりだった」

「クラスの女子が『誰かお手洗い行くの付き合って〜』って言うのに付いて行こうとしたのも……」

「善行のつもり」

「『トマト嫌いなのか? 食ってやろうか?』って言いながら食堂を回ってたのも……」

「善行のつもりだ」


 思い返せば今日一日で沢山の善行をしたものだ。しかしどれもこれも善行認定はされず。無駄な善行ばかりだった。


「……吉井くん的には大真面目だったんだよね?」

「当然」


 そこまで聞いて、はぁ〜、っと溜め息ひとつ。委員長は大きく頭を抱える。


「いろいろと言いたい事はある。あるんだけど……まずは力を抜こう? 顔が怖いよ?」

「それは元々だぞ」

「そ、そうじゃなくて。もっと笑顔を見せようって話。ちょっと笑ってみて?」

「いひひひひ」

「やっぱり笑顔は見せないでおこっか?」


 なんなん。


「……なぁ、俺がやってた事って、もしかして善行じゃないのか?」


 良い機会だ。善行ヤリまくりで経験豊富な委員長に相談してみよう。


「なんか失礼なことを考えられてる気がするけど……。そうだね。ちょっと……いや、かなり違うかもね……」


 なんだと。俺はずっと空回りしてたのか。


「じゃあ善行って何だ? 何をすれば善行なんだ?」

「うーん、確かに言われてみれば難しいかもね。あ、ゴミ拾いとかは? ほら、そこにゴミ落ちてる」

「ゴミ拾いは専門外なんだ」

「なにそれ……」


 ゴミを拾ったところで誰からも感謝されないからな。

 俺が拾いに行かないのを見ると、呆れ顔の委員長は自らゴミを拾ってゴミ箱へ捨てに行った。優しいやつめ。


「正確に言うと、人から感謝されるような善行をしたいんだ」

「感謝ねぇ。なら、相手が喜ぶことをしてみればいいんじゃない?」

「相手が喜ぶ……」


 正直、俺には他人が何を考えているのか分からない。何をすれば相手は喜ぶのだろう。


「委員長は何をされたら嬉しい?」

「わたし? そうだねー」


 数秒の沈黙。ややあって、委員長は伏し目がちに俺の顔を窺いながら、冗談めいた声色で呟いた。


「一緒に帰ってくれたら嬉しいかなぁ、なんて」

「は? そんなんが善行なのか?」

「い、いや、ほら、なんか最近物騒じゃない? 今朝も不審者出たみたいだし。なんか人の荷物を奪おうとするらしいよ。『お前の荷物をよこせ』って」


 それ俺だわ。


「まだ犯人捕まってないらしいし。だ、だから、一人で帰るの怖いなー、っと思って」


 心配するな。犯人はここにいるから。


「わかった。家まで送るよ」

「ほ、ほんと?」


 小さく『やった』と口走る委員長。しかし意図せず漏れてしまった言葉だったのか、咳払いをして誤魔化していた。


「家に送るだけで善行になるなら、他のクラスメイトも家まで送ってやるか」


 七人だけ家に送り届ける。それで日々のノルマが達成できれば簡単なのだが。しかし、委員長は独り言のような小さな声で否定した。


「それで喜ぶの、わたしだけじゃないかなぁ」


 理由を聞いたが、『なんでもない!』と顔を真っ赤にするだけで、答えてはくれなかった。



****



「吉井くん。家まで送ってくれて、どうもありがとう」


 委員長を家の前まで送り届けると、彼女は太陽のように輝く笑みを見せてきた。呼応するように左手が暖かくなる。よし。これで四つ目。残り三つ。ようやく折り返しだ。


「もう、ニヤけ過ぎ! 感謝されるのがそんなに嬉しいの? 変なのー」


 おっと、喜びが顔から漏れていたか。

 さて、善行をゲットできたことだし帰るとしよう。と思ったのだが、ちょっと待ってと引き止められた。


「……今日、わたしが夕飯当番なんだ」

「へー」

「その……お礼と言ってはなんだけど、もし良かったら……うちで夕飯食べてく? わたしの家族と一緒で良ければだけど」

「まじ? いいのか? 助かるわ」


 善行をヤラせてくれただけでなく飯まで恵んでくれるとは。委員長は良い奴だな。


「あ、そうだ。お米切れてるんだった。買いに行かなきゃ。あーあ。ひとりでお米運ぶの大変だろうなー。誰か手伝ってくれないかなー」


 ちらっ、ちらっと向けられる意味深な視線。


「あー、手伝ってやろうか?」

「えー、いいのー? ふふふっ」


 ……もしかして、俺に善行をヤらせてくれると言うのか? どこまで優しいんだ。よく考えたらこれも委員長の善行か。しかし、善行をされてムカつく、という気持ちはもう湧いて来なかった。


「思い付きで言っちゃったけど、ほんとにいいの? 重いよ?」

「任せろ。米運びは得意なんだ」

「なにそのピンポイントな特技」


 米を運んで善行認定されるのは朝の米婆さんで実証済みだからな。

 さっそく俺達は最寄りのスーパーへと移動した。


「吉井くん、なにか食べたいものある?」

「人が食える物ならなんでもいい」

「ハードルが低すぎる……。吉井くんって一人暮らしだよね? 普段なに食べてるの?」

「最近は土ばっかだったなー」

「冗談だよね……?」


 最終決戦の舞台であった魔王城付近には人間が食える物がほとんど無かったのだ。やむ終えず土で飢えを凌いでいたのは良い思い出である。


「じゃあカレーにしようかなー」


 俺がカートを押し、横に並ぶ委員長がポイポイと商品をカゴに入れていく。


「えへへっ。男の子と一緒に夕飯の買い物なんて……なんだか照れちゃうねっ」


 やけに楽しそうな委員長と共にスーパーをくまなく練り歩き、米やら野菜やら目的の物を全て揃えた後、レジへと向かった。


「俺も金出すよ。銅貨一枚で足りるか?」

「えっ、なんで? わたしの家の買い物だし、そんなのいいから。というかなんで十円だけ?」


 しまった。通貨の単位間違えてた。


「じゃあ金貨の方を……」

「いいって。……もしかして、お金出すのも善行だと思ってる?」


 バレたか。さすが委員長。鋭い。


「言っておくけど、そんなの善行でも何でもないからね?」


 そういうものなのか。金を出してあげれば喜ぶと思ったのに。

 やはり俺はその辺の感覚が大きくズレているのかもしれない。神はそれを見抜いていて、その感覚を正すための『一日七善』なのだろうか。


「あらぁ、新婚さんかしらぁ?」

「ち、違いますっ!」


 レジの店員にからかわれ、委員長は顔を真っ赤にして否定していた。『店員殴ろうか?』という善行を小声で提案してみるも、脛を蹴られて文字通り一蹴されてしまう。

 そんなこんなで買い物は終了。委員長の家まで戻り、食材をキッチンへ運んで任務完了だ。


「すごーい、力持ちだね。さすが〜」


 俺が欲しいのはそんな言葉じゃない。感謝の言葉だ。

 感謝を貰いたくてソワソワしていると、その様子に気が付いたのか、彼女はクスリと微笑んだ。


「なぁに? そんなに感謝の言葉に飢えてるの?」

「ああ」

「仕方ないなー。でも改まって言うとなると、なんかちょっと恥ずかしいね……」

 

 おほん、と咳払いし、


「吉井くん。荷物を運んでくれて、どうもありがとう」


 ペコリ、とお辞儀。その隙に左手の甲を確認。よし。よし! 刻印が減った。これで残りあと二回だ。ゴールが見えてきた!


「それじゃ、夕飯の準備するね。一時間くらいかかるからテレビでも見て待ってて?」

「あー、準備、手伝おうか?」

「ほんと? あ、言わなきゃね。どうもありがとう!」


 チラリと左手を確認。しかし刻印の線に変化は無い。善行の口約束をしただけで、実際に完遂した訳ではないからだろうか?


「あれ、さっきより反応薄くない?」

「まだ実際に善行をしてないからな。善行をした後の感謝じゃないと意味ないんだ」

「なにそのストイックさ……」


 そんなこんなで二人で仲良くカレーを作ることに。

 委員長が米を研ぎ、その横で俺が野菜を——握り潰す!


「ちょっ!? なにやってるの!?」

「いや、切るの面倒だから」

「ちゃんと皮剥いて切って! というかよくジャガイモ粉々に握り潰せるね!?」


 これが俺の料理スタイルなんだがな。だが仕方ない。郷に入っては何とやら。彼女の言う通りちゃんと切ってやろうじゃないか。ただし、魔法で。


「風よ切り裂け——《ウィンド・カッター》」


 中級魔法・《ウィンド・カッター》。風の斬撃を無数に放ち、対象を八つ裂きにする魔法。その魔法を人参に向けて放つ——が、何も起こらない。


「……なにしてるの?」


 しまった。《ウィンド・カッター》は封印対象だったか。


「なに? 《ウィンド・カッター》って?」


 赤っ恥だよ。人参を指差して変なポーズ決めちゃったよ。


「吉井くんってそういうキャラだっけ?」


 やめて。言わないで。めっちゃ恥ずかしい。


「ふざけてないで、ちゃんと包丁で切ってくれる?」


 仕方ない。剣こそ俺の真髄。華麗なる剣技を見せてやろうじゃないか。


「いくぞ人参! ソードスキル発動!」

「もう! 真面目にやらないならあっち行って!」


 キッチンから追放されてしまった……。


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