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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第4章 かわいい天使編
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第60善「パンツで許してくれませんか?」


「吉井くん、おはよっ」


 委員長との待ち合わせのために途中下車。

 電車から降りるなり、彼女の眩しい笑顔が出迎える。


「……なんか疲れた顔してない?」

「犯罪者に追いかけ回された」

「なにを言ってるの?」


 あの少女の脚力は驚異的だった。風魔法スカイウォークで空中を走って逃げなければ危なかっただろう。

 ちなみに、運び屋少女の荷物を運んでやったのがまさかの善行認定されていた。それでいいのか神……。


「つか、待ち合わせの時間よりまだ大分早くねーか?」

「今日は吉井くんの最終試験の日でしょ? なんか緊張しちゃって、早く目が覚めちゃった」


 何で委員長が緊張するんだ、と笑い合う。


「そうだ委員長。それなんだけど、今日は俺に感謝しないでくれるか?」

「え、どうして?」

「いつも委員長には助けてもらってばっかりだ。だから、今日くらいは自分だけの力で何とかしたいんだ」


 委員長は優しい。きっと、俺が試験を突破するために色々と善行をさせてくれるだろう。

 しかし、それでは駄目な気がする。彼女の好意に甘えず、自分だけの力でクリアしないと真のクリアとは言えないと思ったのだ。俺の気持ちを汲んでくれたのか、委員長は『分かった』と嬉しそうに笑った。


「でも、今は神様と天使ちゃんもずっと見てるんでしょ? 感謝の有無関係なく、わたしのボディーガードしちゃうと善行認定されちゃうんじゃない? 別々に登校する?」


 言われてみれば確かにそうだ。一緒に登校するのは痴漢から守るため。彼女の力は借りないと決めたが、一緒に登校するだけで善行認定されてしまうかもしれない。とは言っても、この満員電車に委員長を一人で放り込むのは気が引ける。


「……いや、今日は委員長のボディガードとして一緒に登校するんじゃない」

「じゃあ、なんで一緒に登校するの?」


 俺の言葉を聞いた委員長は、悪戯っぽく微笑みながら尋ねてきた。

 なんでだろう。クラスメイトだから? 友達だから?

 色々と理由が思い浮かんだが、どれもしっくり来ない。頭で色々考えるのは俺らしくない。心の赴くまま、俺は一番しっくりとする言葉を口に出す。


「それは……俺が委員長と一緒にいたいからだ」


 なんでそう思ったのか、自分でも分からない。でも言葉にすると、やっぱりこの理由が一番しっくりすると改めて実感する。予想外の返答だったのか、委員長は面食らったように目を見開いていた。


「委員長と一緒にいたいからだ!」

「な、なんで大声で言うのっ!?」


 天界から見ている神と天使にも伝えるためだ。

 委員長は顔を真っ赤にして俯いていたが、どことなく嬉しそうだった。



*****



「朝の学校って、なんか静かで落ち着くよな」

「ふふふ、吉井くんもようやく朝の学校の魅力を知ったか」


 いつものように俺と委員長は教室の机を整理し、落ちてるゴミを捨て、花瓶の水を変える。委員長の真似をして始めたことだったが、今ではすっかり日常の一部に溶け込んでいた。


 『何のためにやってるんだ?』

 あの日、俺は委員長にそう聞いた。仮に俺が今同じ質問をされても、明確な答えは言語化できない。

 だけど、なんとなく委員長の気持ちは分かってきたような気がする。


「さ、掃除も終わったし、勉強しよー」


 何故わざわざ勉強するのかは未だ理解できない。

 よし、寝よう。


「あ、また寝ようとするー。吉井くんも勉強しなよー。ほら、新しい教材貸してあげるから」

「いやいいよ……」


 遠慮も意に介さず、委員長は教科書を片手にこちらへやって来る。


「ね? ほら、勉強しよ? 道徳……中学生版!」

「あ、あるのか? 中学生版の道徳の教科書が!?」

「今の中学にはあるらしいよ」


 差し出されたのは『中学校 道徳』と題された教科書。

 ドキドキしながらページを捲る。だが、


「ぐっ。む、難しい……」


 小学五年生の道徳を学んだだけの俺には早過ぎたようだ。やはり、先に小学六年生の道徳を学ぶべきだったか。

 つか今の中学生はこんな難しいことを勉強しているのか……。


「俺が今の中学生だったら確実に留年してるわ」

「道徳で留年って……。ていうか、道徳に難しいとかある?」

「あぁ。そもそも読めないし」

「それは漢字力の問題だよ吉井くん……」



****



 休み時間。

 廊下を歩いていると、目の前の女子生徒がハンカチを落としたのが目に入った。

 前にもこんなことがあったな。心の中でほくそ笑みながら、素早く拾い上げ、落とし主の背中に声をかける。できるだけ優しく、気さくに。友達に話しかけるように。


「君、ハンカチ落としたぞ」


 言えた。ちゃんと言えた。成長を実感できて嬉しい。まぁ友達は相変わらずいないけど。


「えっ、あっ、はい」


 落とし主の少女が振り返る。

 あ、この子も見覚えあるぞ。例のパンツ少女だ。善行生活初日、ハンカチを拾ったら何故かパンツ見せてきた少女だ。この子ハンカチ落とし過ぎだろ。


「あ、吉井先輩……」


 向こうも俺を認識したらしい。顔を見るなり、ガタガタブルブルと震え始める。


「あ、あの、お礼はパンツでいいでしょうか?」


 おいおい、まだカラダを要求ような人間だと思われてるのか?

 しかし俺も成長した。しっかりと説明して、誤解を正すことだってできるのだ。


「いや、俺は別にカラダの要求もしないし、パンツも見たくないぞ? もちろんカネの要求もしない。『ありがとう』っていう感謝の言葉を口にしてもらえるだけで十分なんだ」


 よし、ちゃんと言えた。またまた成長を実感できて嬉しい。


「はい、分かってますよ」


 ん?


「私が見せたいんです」


 は?


「あの日……吉井先輩にパンツを見せたあの日から……私は『目覚めて』しまったんです」


 なに言ってんのこいつ?


「だから……私のパンツ、見てくれませんか?」


 なるほど。こいつが一番ヤベー奴だったのか。


「そして、カラダを差し出すよう脅迫して襲ってくれませんか? でなければ、あること無いこと大声で叫んじゃいますよ?」


 脅迫しろと脅迫されているのか?

 ……ふっ。まさか、自分でこのセリフを言うことになるとはな。


「パンツで許してくれませんか?」


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