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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第4章 かわいい天使編
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第58善「最終試験じゃー!」


「え? 神さま!?」

「神じゃないか! どうしてここに!?」

「それはこっちのセリフじゃ!」


 神だ。あの神だ。

 俺達に善行・悪行の呪いをかけた張本人が、今目の前にいた。

 部長って神のことだったのか。


「え、部長って神って呼ばれてんのぉー? ウケるんですけどぉー」

「よっ、神さまぁー」

「あーしらも神様って呼んだ方がいいっすかぁー?」


 めちゃくちゃイジられてんじゃねーか神。


「うるさいうるさい! お主らは仕事に戻りなさい!」

「はーい」


 神は顔を真っ赤にしてギャル天使に喚き散らす。彼女らは蜘蛛の子を散らしたように散り散りとなり、自分のデスクへと戻っていった。


「お主らはこっちに来なさい!」


 続けて俺達を怒鳴りつけると、勢い良く踵を返して部屋の奥へスタスタと歩んで行く。俺達も慌てて後を追った。神が向かった先には大きな扉が。神は扉近くのギャル天使に『大会議室使うからのー!』と一声かけ、扉の中へと入っていった。


「わ、我々も行こう」


 先生は少し緊張しているようだ。

 まさか、神と直接対話できる機会が来るなんて。聞きたかった事も聞けるし、言いたかった事も言える。緊張する気持ちも分かる。

 少しぎこちない足取りで、神の後に続いて俺達も大会議室とやらの中へ。


「えっ、ここって……」


 扉をくぐると、その先にあったのは何も無い真っ白な空間だった。

 異世界から現世へ帰る直前、神と対話して呪いを掛けられたまさにその現場だ。この神秘的な真っ白い空間、まさかの会議室。


「さて」


 部屋の中央まで進み、俺達は神と向かい合う。

 聞きたい事も言いたい事も山ほどある。しかし、会話の糸口を決めかねて言葉が出てこない。それは先輩も先生も同じようだ。先に口を開いたのは神の方だった。


「どうしてここにいるのか、色々と聞きたいが……」


 じろり、と冷たい視線が監視天使に向けられる。彼女は体をビクリと震わせて委員長の背へと隠れた。


「それはうちの社員から追々聞くとして。まずは、久しぶり、とでも言ったところかのぉ。元気そうでなりよりじゃ。お主は始めましてじゃな」


 髭で隠れた口角を吊り上げながら、神は一人一人の顔を順番に見据え、最後に(にこや)かな微笑みを委員長に向ける。委員長は丁寧なお辞儀をしてそれに答えていた。

 依然言葉が出てこない俺達を見かねたのか。委員長から助け舟が出される。


「あの、失礼ですが、あなたはどなたなのでしょうか?」

「ワシは神——」


 言葉がそこで途切れた。

 神は異世界帰り組の顔を再度順々に眺め、何か逡巡するような素ぶりを見せた後、ややあって決心したように顔を引き締める。


「この際じゃ。お主らには本当の事を全て話そう」


 言葉が俺達に収まるのを待つように、一呼吸。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「ワシは神。そう名乗っておった。……しかし、実は神ではないのじゃ」


 神は、神ではない。

 じゃあ一体誰だ。その疑問を発する前に、彼が続く言葉を紡ぐ。


「ワシも、お主らと同じなのじゃ」


 俺達と、同じ。それってつまり——。

 真っ先に言葉を返したのは、化学教師だった。


「……オムツを履いている、ということか?」

「そうそう、そろそろワシも介護用のオムツを——って違う! というか何でお主オムツ履いてるの!?」

「実は俺も履いてるんだ」

「お主ら何なの!? 下界ではオムツブームなの!? 数年後はあのギャル天使達もオムツを履くのか!?」

「そうだぞ!」

「そんなわけないじゃないですか! お二人ともふざけないでください!」


 大真面目だったんだが……と先生はしゅんと肩を落とした。

 こほんと咳払いをして、聖母先輩は呼吸を整える。そして、全て理解したとばかりに自信に満ちた顔で言い放った。


「わたくし達と同じ……。つまり、人間の骨を折るのが大好き、ということですね?」


 アンタと一緒にするな。


「先輩までふざけないでください! どう考えても異世界帰りってことでしょう!?」

「「「えーー!?」」」


 綺麗なハーモニーを奏でる異世界組みプラス天使。

 神と委員長はやれやれ、とばかりに首を振っていた。


「そうじゃ。ワシも異世界に召喚されたのじゃ。……初代魔王としてな」

「初代? つまり、あの銀行の支店長と一緒に?」

「その通り」


 言葉を一度区切り、神は思い出を語るように遠い目をする。


「ヤツは強かった。そして、勇者のクセに悪だった。ヤツは異世界から帰るなり、持ち帰った力を使って悪さをし始めたのじゃ。ワシは必死で止めようとしたが、力及ばず。その後どうなったかは知っておろう」


 その力を武器に犯罪組織を作り、トップになった。


「幸いだったのは、ヤツが身の程を弁えておったことと、野心がそれほど無かったことじゃな」


 曰く、支店長は他人を圧倒する力はあれど、現代の軍事力には到底敵わないことを理解していた。それに世界征服とかにも興味が無かった。だから、金を稼ぐためだけに力を使ったそうだ。


「しかしワシは憂いた。もし今後、他にも異世界に行くモノが現れたら? そのモノがワシらよりも強大な力を持って帰ってきたら? その力を使って世界征服でもしようとしたら? だから——」

「だから、異世界帰りの人間の能力を封じようとした」


 聖母先輩が神の言葉の続きを引き継ぐと、神は大きく頷いた。


「ワシは持てる力を全て振り絞り、この天界へと移住した」

「ここは……天界とは何なんだ?」

「天界は、お主らが住む現世と他の世界を繋ぐ場所じゃ。異世界で召喚魔術が使われると、必ずここを通って行き来するというワケじゃ」


 いわば空港みたいな場所じゃな、と神は補足する。


「つまり、あなたがこの場所にわたくし達を呼び寄せたのではなく、あなたが居ようが居まいがわたくし達はここを通る、ということでしょうか?」

「その通り。ワシはお主らがココを通る瞬間に、こう、バシッ! と捕まえてるのじゃ」


 神は両手をパンと合わせて、蚊でも潰すかのようなジェスチャーをして見せる。


「この白い空間でちょっと仰々しく神と名乗るだけで、みんな面白いくらいにすんなり信じてくれるわい」


 確かに。異世界から帰る直前の不思議な空間。そこにいる、それっぽい法衣を纏い、それっぽい大層な髭を蓄えた謎の老人。そいつが神を名乗ったらそう信じてしまう。実際は俺達と同じ普通の人間だったオッサンだとは夢にも思うまい。


「神のフリをして、力を奪って試練を課すのだな」

「そうじゃ」

「力を奪うのは《スキルドレイン》。呪いは《魔王刻印》、という訳ですね」


 聖母先輩はやけに腹落ちしたように、しかしどこか力が抜けた様子でグッタリと言った。

 てっきり神の偉大なる何某(なにがし)で力の制限と呪いを与えられたとばかり思っていた。まさか魔王の魔法だったとは。


「呪いとは人聞きの悪い。お主らが悪さをしないようにするための措置じゃ」


 聖母先輩の仮説は正しかったようだ。


「それに、ぶっ壊れた論理感を正して欲しかった、というのは本心じゃ。心当たりあるじゃろ?」


 確かに、論理感がぶっ壊れてしまった人間が身近にいるな。と思って聖母先輩を見るが、彼女も同じ事を考えているかのような表情で俺を見てきた。


「ちょっと待ってくれ! そしたら私の『一日七悪』は何なんだ!?」

「あー、それはのう。お主の場合は少し特別と言うか……。言ったじゃろ? お主は純粋過ぎて危なっかしい。悪行を通して悪人の心を学んで欲しいと。詐欺とかに遭いそうで心配だったのじゃ」

「そんな、純粋で純情な清楚系乙女だなんて」

「そこまで言うとらん」


 ポッ、と顔を赤らめて頬に手を当てる純粋で純情な清楚系オムツ乙女。


「いや、ほんと。軽い悪行でよかったんじゃよ? 仕事をズル休みするとか、小さなウソを吐くとか……そんなショボい悪事でよかったのに……。それがまさか、ヤツの犯罪組織を引き継ぐなんて!」

「いやぁ、はは……」


 まぁそれに関しては、化学教師がまとめ上げてくれなければ犯罪者たちが野放しになって大変なことになっていただろう。必要な悪事だったと思える。


「それに加えて、いい大人がオムツなんて!」


 それに関してはもっと言ってやってくれ。


「ま、『悪行を通して悪人の心を学んで欲しい』というのは半分は本心じゃが、半分は遊び心じゃ」

「は?」


 半分じゃなくて全部遊び心だろ。ドレッドヘアーの『一日一ゴミ拾いさもなくば定期券の感度がめっちゃ悪くなる』も絶対にふざけて決めたに違いない。


「だって仕方ないじゃろう! 天界めちゃくちゃ暇なんじゃ! ちょっとくらい遊び心出してもいいじゃろ!」


 開き直りやがった。


「遊び心って……。実際にやる私の身にもなってくれ!」

「いや、ほんと、すまんかった……」

「「そーだそーだ!」」

「善七くんらのは大真面目に考えて決めたわい」

「「……」」

「お主ら二人、歴代で一番の問題児だったからのう」

「「……」」


 ……さすがに聖母先輩と同列ってことは無いっしょ? と思って先輩を見ると、彼女も同じ事を考えている顔でこっちを見てきた。

 居た堪れなさで沈黙していると、委員長が庇うように声を張り上げる。


「でも……吉井くんは、かなりマトモになったと思います!」


 そーだそーだ! 言ってやれ委員長!


「あれ? 委員長さん? わたくしは?」

「……」

「確かにそうじゃなぁ。報告書を見る限り、善七くんはかなり改善していると思える」

「神さま? わたくしは?」

「……」


 先輩から問いかけられるが、二人はサッと顔を逸らす。誰か反応してあげて。


「吉井サ〜ン、感謝してくださいっすよぉ〜? 褒められたのはウチの報告書のお陰っすからね〜?」


 相変わらずムカつくドヤ顔だ。


「逆じゃ! お主の報告書では何となくしか分からんのじゃ! しかも報告雑だし! なにが『先輩に骨を折らせて喜ばせてました』じゃ! そんなもんが善行になるワケなかろう!」

「だってそうでもしないと終わらないんすもん……」


 一転してしゅんと顔を曇らせる監視天使。対して、その会話を聞いていた先輩の目が光輝いた。先輩、昔の話だぞ?


「そこで! 明日はワシが直々に『一日七善』を監視する! いわば、最終試験じゃ!」

「最終試験!?」

「そうじゃ。ワシが直接見て、もう大丈夫だろうと判断できれば、『一日七善』の試練を終わらせてやろう」


 マジか。ついにこの時が。予想外の展開に心臓が高鳴る。


「やったね、吉井くん! 頑張ってね!」

「あぁ、あぁ!」


 ただ単に一日七善をこなせば良いというワケではないのだろう。善行の縛りが無くとも人畜無害な善人だと証明しなければならない。絶対に成功させてやる。


「あの、神さま? わたくし達は?」

「そうだ! 吉井だけズルいぞ! 私達も最終試験を受けたい!」

「……お主らは、まだ早いんじゃないかのう?」


 神の言葉に反論しようとする二人だったが、天使によって遮られる。


「そうっす! その二人、さっきウチを殺そうとしたんすよ!?」

「「……」」

「それだけじゃなく、天界の天使全員殺そうとしてたっす!」

「「……」」

「俺はしてないよな? むしろ助けようとしたよな?」

「……まぁ、一応」


 あっぶねー! さっき魔王達に同調してなくて良かったー! 委員長マジさんきゅー!

 天使の告発に押黙る魔王二人。甘んじて受け入れたようだ。神は『いずれ時が来たらお主らも開放するから』とフォローしていた。頼むから俺の最終試験の邪魔だけはしないでくれよ?


「というワケで、いいかい? 善七くん」

「あぁ。望むところだ」


 神はニッコリと微笑むと、大きく行きを吸い込み、高らかに宣言した。


「それでは『一日七善さもなくば死』、最終試験じゃー!」


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