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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第4章 かわいい天使編
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第57善「おこだよぉー」


 骨と札幌の熾烈な争いは、ひとまず引き分けという形で終結した。


《……おっほん。それで先生? 急に念話してきて、どうかしたんですか?》

《聖母、今どこにいるんだ? まだ学校か?》


 よかった、みんなの思考回路も正常に戻ってるみたいだッポロ。


《わたくしも天界にいます》

《なにっ!? ズルイぞ! ()を仲間外れにするな!》


 魔王が仲間外れにされているのを気にするなよ。まぁでも気持ちは分かるぞ。


《我もそっちに行くぞ!》

《え、どうやって?》

《転移!》


 そう叫び声が聞こえた直後。


「ククク。ここが天界か」


 直接耳に届く化学教師の声。


「先生! 本当に来ちゃったんですか!?」

「あぁ! 聖母の魔力を辿れば場所は容易に分かったぞ!」


 お? もう念話タイム終わった?

 バーカ! バーカ! バカ聖母ー!


「吉井さん、三本折りますからね」

「えっ!? 聞こえてるッポロ!?」

「やっぱり。念話が終わるやいなや失礼なこと考えてたんですね」


 カマかけられたッポロ……。


「先輩、ごめんさないッポロ」

「そのアホっぽい喋り方やめてくれます?」


 ポロォ……。


「あの、先生。ここに来るのはマズイんじゃ……」


 見張りをしていた委員長がこちらに歩み寄ってきて、おずおずと切り出してきた。


「なぜだ! 委員長ちゃんまで先生を仲間外れにするのか!?」

「だって先生……。今も監視されてるんですよね?」

「あ」


 慌てて振り返ると、あんぐりと口を開けるミドリ髪天使と目が合った。しまった。彼女はモニターで化学教師を絶賛監視中だったのだ。


 しばし硬直していたミドリ髪天使。やがて事態を把握したのか、ポカンと開いていただけの口が言葉を発する形状となった。しかし、


「し、侵入——へぶっ!?」


 叫び声は途中で悲鳴に変わった。聖母先輩と化学教師が素早く動き、同時に彼女を殴り飛ばしたからだ。

 ミドリ髪天使は数メートル程ぶっ飛ばされ、そのままピクリとも動かなくなってしまう。音も無く行われた犯行のため、幸いにも周囲には気付かれていない。


「ちょ!? な、何してるんすか! 天使を殺すなんて!」

「殺してませんよ! 頭蓋骨は一瞬割れたかもしれませんが……ちゃんと再生しています!」


 一瞬でも天使の頭蓋骨割るなよ……。

 天使を殴り飛ばすという悪行を働いたためか、化学教師の魔王状態は若干薄れたようだ。


「みんな! 今のうちだ! この隙に——」

「先生用の監視パソコンを弄って嫌がらせするんだな!」

「あ、それ良いアイディアですねぇ」

「バカ! 逃げるんだよ!」


 先輩と共にパソコンに向かおうとしたが、化学教師に首根っこを掴まれて阻まれてしまった。残念。

 俺達を引っ張って行こうとした化学教師だったが、ふと何かを思い付いたように、はたと足を止める。どうしたのだろうと彼女の顔を見ると、その視線は気絶しているミドリ髪天使に向けられていた。


「先生?」

「そうだ。お前達の言う通りだ。これは絶好の機会じゃないか」

「お互いがお互いのパソコンを弄って嫌がらせし合うんスね。望むところだ!」

「そうじゃない! この状況を見ろ。我々は今、天界にいて、監視用パソコンを前にしている」


 化学教師の言わんとする事を察し、全員がハッとした。

 各々が同時に口を開き、化学教師の言葉の続きを同時に言葉にする。


「「監視用パソコンを破壊してしまえば、監視できない」」

「監視員を殺してしまえば、監視できない」


 おい誰か一人物騒なこと言わなかったか?


「そうだ。監視用パソコンをぶっ壊してしまわないか?」


 ニヤリ、と黒い笑みを浮かべる化学教師。

 確かにそうだ。監視自体もそうだが、『さもなくば死』の方の罰もパソコンもしくはスマホアプリから実行するようだった。つまり、罰の自動実行を止めたうえで監視用パソコンとスマホを全て破壊してしまえば、罰の実行ができなくなる可能性が高い。


 思わぬ光明に口元が緩んでしまったが、そこで委員長が待ったをかける。


「ちょっと待ってください。今ここにある監視用パソコンを壊しても、別のパソコンを用意されてしまうだけなのでは?」

「それはそうだな。だから天界にある全てのパソコンを破壊しよう」

「それは現実的ではないかと……」

「じゃあ天界そのものを破壊しよう」

「何を言ってるんすか!」

「となると、やはり監視員を全員殺すのが適切でしょうか?」


 さっき物騒なことを言っていた犯人はやはり聖母先輩か。


「待て! それも同じだ! 仮にここにいる天使を全員殺しても、他の天使が補充されるだけだ!」


 よかった。化学教師は賛同しないみたいだ。


「だから、天界にいる天使を全員殺そう」

「いいですねぇ」


 こいつらマジかよ。


「まず一人目は……」

「え? え? 冗談っすよね!?」


 魔王二人の妖しい視線が、俺の監視天使へと向けられる。


「ちょ!? ちょっと待ってくださいっす!」


 天使に手を伸ばす魔王二人。逃げる天使。止める委員長。傍観する俺。

 しかし魔王達の動きは素早く、天使の腕は両サイドからガッチリと掴まれてしまう。


「裂くか」


 まさかの牛裂き。エグい殺し方しやがる。


「えー、わたくしは折り畳みたいですー」


 知らないのか? 人は折り畳めないんだぞ?

 てか殺し方で揉めるんじゃない。てか殺すんじゃない。


「いやあああ! 死にたくないっす! 吉井サン助けてえぇ!!」


 ピーピーと泣き喚きながら、縋るような視線が向けられる。

 だが魔王二人に目を付けられたら終わりだ。残念だが諦めてくれ。


「吉井くん! 助けてあげてっ!」


 だよな! 助けてやろう!


「あー、二人とも? その辺にしとこうぜ?」

「吉井さんが代わりになりますかー?」

「すまん委員長、助けられなかったわ」

「諦めがはやいっ!」


 つか天使の代わりに俺が殺されるのは意味が分かんないだろ。

 いよいよヤバいと思ったのか、天使は叫び声を張り上げる。しかし、それは決して断末魔という訳ではなかった。


「サーバー!」


 突然聞こえてきた不可解なワードに、魔王二人の力が緩まった。好機とばかりに天使は早口で捲し立てる。


「サーバーっす! 皆さん自身の情報、そして試練や罰の情報は、この会社にあるサーバーに全て保存されてると聞いたことがあるっす!」


 まさかのデジタルデータ保存。

 なるほど。サーバーに保存されているデータをパソコン・スマホで参照しているのか。サーバーごと元データを破壊してしまえば、パソコン破壊も天使虐殺もしなくていいというワケだな。


「天界にあるサーバー。雲の上にあるサーバー。……まさにクラウドサーバーだな!」

「そのサーバーはどこにあるんだ?」

「さ、さぁ。ウチは知らないっす……」


 めちゃくちゃ無視された。


「誰か他に知っている方は——」


 周囲をキョロキョロと見渡す聖母先輩。直後にその体が固まる。不審に思い彼女の視線を追うと、大勢のギャル天使達の顔が視界に入った。


「えーなにー、あの人達ぃー?」

「下界の人ぉー?」

「まじぃー? 勝手に入って来たのぉー? おこだよぉー」


 めっちゃ注目されてた。いつの間にか俺達の周囲には、天使による人だかりが形成されていた。あんだけ騒いでたんだ。当然と言えば当然である。


「どどど、どうするんですかっ!?」

「やはり皆殺し作戦か?」

「そうしますか〜」


 どんだけ天使殺したいんだコイツら。


「なにー? あーしら殺すってぇー? そんなこと言うとおこだよぉー」

「おこだよぉー」

「激おこぷんぷん丸だよぉー」


 なんかムカついてきた。

 よし、殺すか。全面戦争だ。


「ま、待ってくださいっす! あのー! どなたかサーバールームの場所知らないっすかー!?」


 問いかけに、ギャル天使達は互いに顔を見合わせて肩を(すく)める。


「サーバールームはぁー、部長しか入れないんじゃないかなぁー?」


 天界にも部長とかいるのか……。


「あ、噂をすれば。ちょうど部長来たぁー」

「部長ぉー、なんかお客さんっすよー」


 ギャル天使達が俺達の背後に向け声をかける。

 釣られて振り返る。


 そこにいたのは、立派な白髭を蓄え、仰々しい法衣を(まと)った老人。


「お、お主ら、どうしてここに……?」


 俺に、善行の呪いを課した張本人。

 神だった。


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