第56善「札幌♡ 札幌♡ 札幌♡」
先輩監視用のパソコンを勝手に拝借し、監視天使が自身のアカウントでログイン。すると、俺を監視するための画面が表示された。
「よ〜し、これで任務達成っす!」
監視天使の操作により、俺への『天罰』がようやく解除された。折れ曲がっていた左手の指が元通りになり、痛みが嘘のように引いていく。
同時に『さもなくば死』の自動実行も解除してくれようだ。これによって一日七善の報告が無くとも死ぬことは無くなった。
ちなみに先輩により、俺の刻印のデザインが『骨』という字に編集されてしまいそうになったが、なんとか阻止した。
「あとはバレないように帰るだけだな」
「えぇ。吉井さん、帰ったら覚悟を——」
《おい、聖母! 今どこにいるんだ!》
突如、脳内に響く化学教師の声。念話だ。びっくりした。
不意打ちを食らった先輩は舌を噛んでしまったようだ。ざまぁみやがれ。
《吉井さーん、聞こえてますからねー?》
え? この独白って念話相手に聞こえてるの? おいバカ聖母、聞こえてんのか? あ、やべ、マジで聞こえてるっぽい。めっちゃ睨んできた。化学教師から発せられる念話は心の声まで拾ってしまうほど強力なのか。
……いやー、先輩は今日も美しい! スレンダーでスタイルが良くて……それから美しい! 委員長がなんか睨んできた! こわ……いや、可愛い! 睨んでても委員長は可愛い! 委員長は顔を赤らめて俯いてしまった。なんか知らんが勝ったぜ。
《吉井さんは後ほど二本折りますからね》
先輩美しい! 先輩美しい! 先輩美しい!
《……まったく、調子良いん骨折りたい骨折りたい骨折りたい骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨骨》
先輩、心の声というか欲望ががダダ漏れだぞ。先輩は裏表が無い素敵な人なんだな。
……なるほど。相手に意識を集中すれば心の奥の声が聞こえるんだな。ついでだし、委員長の心の中も覗いてみるか。
《なっ!? ちょっとやめて! 勝手に覗か吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡》
やるな委員長。心の中で俺の名前を連呼することで思考を読むのを妨害しているのか。顔めっちゃ赤いけど大丈夫か。
《ふっふっふ〜、吉井サン。ウチの心を覗こうとしても無駄っすよ〜?》
お前の心の中なんか興味ねーよ。
《委員長サンのアイディアを頂くっす! 別の事を考えて思考盗聴を妨害するっすよ〜! さざんが、きゅう! さんし、じゅうに! さんご、さんご、さんご……サンゴといえば、札幌!》
なるほど想像以上にバカだということは分かった。
《おいお前ら! 我のこと無視するなオシッコしたいオシッコしたいオシッコしたいおしっこおしっこおしっこおしっこおしっこ……あっ♡》
うるせーなトイレ行ってこいよ。最後ちょっと出ちゃってんだろ。
《骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡》
《吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡ 吉井くん♡》
《おしっこ♡ おしっこ♡ おしっこ♡ おしっこ♡ おしっこ♡ おしっこ♡ おしっこ♡》
《札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ 札幌♡》
うるさっ。こいつら心の声うるさっ。聞きたくないのに勝手に流れ込んで来る。つか札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ってなんだよ。お前そんな札幌ラブなキャラだったのか?
《吉井くん♡ 吉井く骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 》
あぁ! 委員長の思考が骨に汚染されてしまった! 俺が骨♡に負けてしまった!
《おしっこ♡ おしっ骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡ 骨♡》
せんせー! 先生までも! 聖母先輩の思考汚染は強力すぎ骨♡ 骨♡ 骨♡……ハッ!? あぶねー、俺も危うく汚染されるところだった!
《札幌♡ 札幌♡ 札幌♡ さっぽ……ほ……ね……さ……札幌♡ 札幌♡ 札幌♡》
おお! 監視天使の札幌への愛が骨を押し返した! 頑張れ札幌! 札幌頑張れ! 札幌♡ 札幌♡ 札幌♡
《骨♡ 札幌♡ 骨♡ 札幌♡ 骨♡ 札幌♡ 骨♡ 札幌♡》
骨と札幌の一騎打ち。骨♡と札幌♡が交互に頭に流れ込んで来て気が狂いそうだ。早く終結させないと札幌♡だ。このままでは本当に札幌♡してしまう。ほら、なんかもう俺の思考が札幌♡だもん。
くそ! こうなったら俺が第三勢力となって骨♡と札幌♡の戦いを止めてやる!
くらえ! うんこ! うんこ! うんこ!
《吉井くん女の子相手にそれはどうかと思うよ》
急に正気に戻るなよビックリするだろ。
《下ネタ禁止だホネ》
ぜんぜん正気に戻ってなかったッポロ。




