第50善「ヤッホーヾ(*ゝω・*)ノ」
「ううう、ひっぐ。ひっぐ……」
押し殺した涙声が車内に響く。出処はファンの子だ。
ファンの子は猿轡を咥えさせられ、後ろ手に紐で縛られてガタガタと震えている。相変わらずフードに隠れて顔は見えないが、声からして女の子のようだ。色白の頬に涙が流れているのがフードの隙間から垣間見える。
「うるせーぞクソチビ。黙らねーと殺すぞ」
「んんん〜!」
俺達を拉致した犯人グループは四人。後部座席に二人、運転席と助手席に一人ずつ。
皆、パーティグッズのようなマスクを被っている。後部座席には馬のマスクと豚のマスクを被った男。運転手はプロレスの覆面で、助手席はひょっとこのお面だ。服装はバラバラ。Tシャツやポロシャツ等ごく普通の私服で、統一感が無い。
リーダー格と思しき馬マスクの男の視線が、ファンの子から俺達へと移動した。
「……逆に、お前らは冷静過ぎないか?」
「いやぁ、なんていうか、なぁ?」
「もう慣れました……」
「どんだけハードな人生送ってんだ」
ショッピングモールのテロリストに銀行強盗(委員長は夢だと思っているはずだが)。数多の事件に巻き込まれ過ぎて、今さら本職の犯罪者と出会っても何も感じない。
やけに落ち着いているせいか、俺達は手は縛られているものの猿轡はされず自由に喋れる状態で放置された。
「一応確認なんだが、あんたらは先生の差し金じゃないんだよな?」
「あ? 先生って誰だ?」
「なんだ、野良の誘拐犯か」
「野良ってなんだ!?」
化学教師が犯罪組織を動かしたのかと思ったが、そういうワケではないらしい。
さて、どうするか。俺がコイツらをボコってしまうのが手っ取り早いが、あいにく今は三車線にも渡る大きな通りを走行中。下手に手を出して事故られても困る。人通りが少ない道に出るのを待つか、どこかで停車するのを待った方が良さそうだ。
「それで? お前は一体なんなんだ?」
「あ? 見りゃ分かんだろオレ達は誘か——」
「ちげーよ、俺はその子に聞いてるんだ」
「お前状況分かってんのか?」
行動に移すまで暇なので、せっかくだしファンの子から話を聞きたいと思ったのだが、馬マスクの男に遮られてしまった。
「うるせー。どうせお前らも異世界帰りのパターンだろ?」
俺が巻き込まれる事件の犯人は大抵異世界帰りだ。
これで三度目。いい加減飽き飽きしている。
「……異世界? お前は何を言ってるんだ?」
違うのかよ。
「あれか? ゲームと現実の区別がつかないタイプかお前?」
「う、うるせーな。なんでもねー」
やばい。ドヤ顔で言った手前めっちゃ恥ずかしい。
そこで、豚マスクの男が会話に加わってきた。
「あれじゃないか? 四丁目に出来た新しいフーゾク店。たしか『ソー○ランド★異世界』って名前じゃなかった?」
「あー、あれか。オレは行ったことねぇなぁ」
「ボクは先週行ってきた。結構良かったよ」
「吉井くーん? なんでそんなお店知ってるのカナー?」
ゲスな会話を始める横で、満面の笑みで微笑みかけてくる委員長。誘拐犯より余程怖い。
当然そんな店知りもしなかったが、変な流れになりつつあったので、慌てて話題を変えた。
「お、俺はその子に話が聞きたいんだ! おい、お前は一体なんなんだよ!? あ!?」
「うぅ、ぐすっ……ぐすっ」
「おい、怖がってんじゃねぇかよ。小さい子にはもっと優しくしろ」
「それはそうだな。悪い」
「誘拐犯に諭されないでよ吉井くん……。というか怖がってるのは誘拐されてるからだと思いますよ……」
「それはそうだな。すまない」
深々と頭を下げる誘拐犯。
やはり委員長がこの中で一番強い。
「それで、どうして誘拐なんかしたんですか?」
「いや、なんか、ノリというか……」
「ノリ!? ノリで誘拐しちゃダメですよ!」
計画性の無い突発的な犯行ということか。確かにマスクを除いたらどこにでも居るようなごく普通の服装だし、武器なども用意してないみたいだった。猿轡もただのタオルだし、手を縛る紐に至っては靴紐か何かだ。聞くところによると、マスクはハロウィンで使ってそのままずっと車に積んであったモノらしい。
「なんでノリで誘拐なんか……」
「いや、オレら釣りに行くところだったんだけど……車止めて休憩してたらさ、偶然この子見つけたんだよね。そんで、可愛いなーと思って見守ってたわけ」
それはそれで既に犯罪臭がするが。
馬マスクの言葉の続きを豚マスクが引き継いだ。
「そしたらさー。何か怪しい女二人組が『あの子を誘拐する』みたいな話してるのが聞こえてさー。やべ、助けなきゃ! と思って。気付いたらやっちゃったわけ」
なるほど、つまり悪いのはその怪しい女二人組か。そいつらに責任取らせようぜ。
委員長は何かを悟ったのか、探るような目付きで馬マスクをジトっと見る。
「……もしかして、わたしと吉井くんは、ついでに誘拐された感じですか?」
「まぁ、そうだな。そこにいたから」
「……」
ついでに誘拐しないでほしい。
話したことによって落ち着いたのか、先程の気迫とは一転して、誘拐犯たちは憑き物が落ちたように冷静になった。というか動揺し始めていた。
「なんでこんな事やっちまったんだろう……」
「なぁ、俺らどうしたらいいと思う?」
知らんがな。後悔するならやるなよ。
そんな誘拐犯二人に、委員長は優しく微笑みかける。
「自首、しましょ?」
「自首かぁ。あんたら降ろすから見逃してくれねぇかなぁ?」
「自首、しましょ?」
さすが委員長。悪人には厳しい。
「まぁそんな心配すんなって。良い刑務所知ってるからよ。紹介してやるよ」
「なんで良い刑務所知ってるんだよ……」
もちろん俺は入ったことないぞ。テロリスト二人組および支店長の面会に足を運んだのだが、存外楽しそうにしているのだ。きっと良い刑務所に違いない。俺も捕まった時はそこに入れてもらうと心に決めている。
「さぁ、自首しましょ?」
委員長の圧に誘拐犯がたじろいでいる最中、
「ぷはっ! す、すみませんっす!」
と、猿轡をされていたファンの子が突然大声を発した。どうやら口を上手いこと動かして、喋れる程度に猿轡を自力で解いたらしい。
「その人達は悪くないんっすよぉ〜! ウチが誘拐されるように仕向けたんっす!」
甲高い声で必死に主張するファンの少女。口ぶりから誘拐犯と面識があるのかと思ったのだが、当の犯人達は心当たりが無さそうな顔で首を傾げる。
「仕向けた? どういうことだ?」
「ほら、ウチってめちゃ美少女じゃないっすかぁ?」
証拠と言わんばかりに首を上下に振り、その勢いでフードが脱がれる。その下から現れたのは、予想通り小学校高学年くらいの女の子だった。
肩口くらいまで伸びた銀髪は輝きを放ちながらウェーブをしており、くりくりとした瞳はルビーのように紅く煌めいている。多少そばかすが目立つものの、白い肌はこれまた輝きを放っているようだ。
キラキラと眩しい輝きを発しているとさえ錯覚しそうになる少女。美少女を自称するのも頷ける。
「美少女のウチがこの人達を魅了して、誘拐したい心をつっついた、的な?」
ドヤ顔気味なのは少々鼻につくが。可愛いでしょ?とばかりにパチクリとウィンクするのはかなり癪に障るが。
「仕向けたって、何のために?」
可憐な外見には似合わぬその口調と態度に男性陣が面食らっていると、委員長が先陣を切って疑問を呈する。
「いや、まぁ、なんというか……吉井サンに善行してもらうため、的な?」
「え? なんで吉井くんのこと知ってるの?」
「ファンだからだろ」
「ウチが? まっさかー、ファンなんかじゃないっすよー。仕事で仕方なく監視してるだけっすー。誰が好き好んで吉井サンのことなんか監視するんすかーワラワラ〜」
……あれ、なんかだんだんムカついてきたぞ。
なんて言うか、喋り方がひと昔のギャルみたいだ。そんでウチというように、『ウ』にアクセントを置く一人称が妙にイラッとくる。
「仕事? 監視? 一体なんのこと? 吉井くん、この子知り合い?」
「いや、全く知らん。知らんけど、俺の敵であることは分かった」
「またまたぁ〜、ウチが可愛いからって照れなくていいんすよぉ〜?」
こいつと喋っていると苛立ちの感情がふつふつと沸き起こってくるようだった。よし。車が停車したら、まずはコイツの顔面に一発叩き込もう。そうしてから誘拐犯どもを捕まえよう。
と、その前に、まずはコイツの正体を確認しておかないと。
「監視って、もしかして俺が『一日七善』をやってるところを見てるってことか?」
「そうっす〜! ウチが吉井サンの《監視天使》でぇ〜す」
《監視天使》。
監視する天使。神の手先か? なんにせよ、何者かが俺達の行動を常に見ているという仮説は正しかった。
「お前には聞きたいことが山ほどある」
「メールで送ったもの以上のことは教えられないっすけどね〜。てか、聞きたいことあったならメールしてくれればいいのに。このこのー、恥ずかしがり屋さん〜」
「は? メール? なんのことだ?」
「え、メール。届いたっすよね? 異世界から帰ってきた日に」
一体何を言ってるんだコイツは。メールなんか貰った覚えはないぞ。
俺は腕に力を込め、手を縛っていた紐を引きちぎった。犯人連中と委員長が驚いていたが、構わずスマホを取り出す。
ファンの子もとい《監視天使》とやらはメールと言っていたので、SNSではなく普段は全く開かないメールアプリを開いてみる。そして異世界から帰ってきた日。五月上旬まで遡る。メルマガや迷惑メールが並ぶ中、一つだけ異質なタイトルを見つけた。
『ヤッホーヾ(*ゝω・*)ノ あなたの天使チャンだよ〜ミ☆』
「……これか?」
スマホの画面を見せると、《監視天使》と名乗った少女は大きく頷いた。
「それっすそれっすー! え、てか、見てない?」
見てない。見るわけない。明らかに迷惑メール。それも一昔前の。通知で気が付いていたとしても、絶対に無視する。
しかしなんということか。俺は最初から全ての答えを持っていたのか。善行認定される条件を散々検証したのが馬鹿みたいだ。はやる気持ちでメールを開いてみる……。が、読めない。意味不明な文字列が並んでいるのだ。文字化けか、はたまた暗号だろうか。
委員長が気になっている素振りでソワソワしていたので、助けを求める意味でも画面を見せてみた。
「読める?」
「うわ、これギャル文字? 全然読めない」
なるほど、ギャル文字か。そう言われれば、文末にある『力゛`ノノヽ゛レ o(`・ω・´)o』は『頑張れ』と認識できる。しかしその他は全く解読できない。
仮にメールの存在に気が付いていたとしても、その内容を理解することはできなかったであろう。
「おい、読めねーよ。なんでギャル文字で送ってくるんだよ」
「いま、天使の間ではギャルがブームなんっすよ〜」
なんで天使がギャルなんだよ。しかもひと昔前の、下手すると俺が生まれる前のギャルだろ。なんでそんな古いのが流行ってるんだよ。
「お前、解読しろよ」
天使の眼前にスマホを突きつける。天使は眼球を動かして文面を読むものの、たはは、と苦笑いをする。
「よ、読めないっす」
「なんでだよ。お前が書いたんだろーがよ」
「ウチ、まだギャルの修行中なんっすよ〜! だから先輩天使に書いてもらったんす〜。あ、書いてもらった、みたいなー?」
だから微妙に中途半端なギャル感なのか……。
コイツの口ぶりからすると、どうも他にも天使がいて、そいつらも同じくギャルらしい。もしかすると先輩や先生にも同じようなギャル文字の怪文メールが届いていて、迷惑メールだと思って読んでいないのかもしれない。
どうにかして解読できないか。スマホと睨めっこしていると、委員長がおずおずと気まずそうな表情で切り出してきた。
「あ、あの、吉井くん……」
まずい。うっかり委員長の前で異世界の話をしてしまった。
これはもう正直に話すしかないだろうか。
「異世界って……本当にえっちなお店行ったの?」
なんだそうなるんだ。
否定しようとするが、思わぬところから横やりが飛んでくる。豚マスクの男だ。
「『天使』ってあれだろ? 『ソー○ランド★異世界』のキャストさんのことだろ? 『妖精』とか『エルフ』とか、色んな種類のキャストさんがいるんだよなぁ」
マジで黙っててくれ。
「吉井くん……」
「違うって! 異世界って言うのは、この世界とは違う別の世界のことで——」
まさか、フーゾクに行ってないことの弁明としてカミングアウトすることになるとは。
まぁいい。この際だから全て話してしまおう。信じてもらえないと思っていたから話さなかっただけで、別に隠していたワケではないし。
異世界に勇者として召喚されたこと。やんちゃし過ぎて『一日七善さもなくば死』という呪いをかけられたこと。そして、聖母先輩と化学教師も同じような境遇だということを包み隠さず話した。二人には事後承諾をもらうつもりだ。
委員長は真剣な表情で俺の話を聞いてくれた。
「——ってな感じで、俺は『一日七善』の生活をしてたってワケだ」
「うそ、まさか、そんなことって……」
話を聞き終えた委員長は、見るからに狼狽している様子だった。いきなり突拍子も無い話を聞かされたのだ。無理もない。
「急にこんな話されても困るよな」
「……でも、今までの吉井くんの言動を振り返れば、なんかちょっと納得かも」
意外。異世界なんてファンシーな話、まさか信じてもらえるとは。しかもこんなにあっさりと。
委員長は自身の考えを纏めるように、『もしかしてナンパから助けてもらった時……』『そうか、ショッピングモールの時も……』などブツブツと呟いている。
「……信じてくれるのか?」
「うん。まだちょっと頭の中ごちゃごちゃしてるけど……吉井くんは嘘を吐くような人じゃないしね!」
委員長っ……!
「オレも信じるぜ! 夢のある話だしな! な!?」
「ああ! ボクも信じるよ!」
誘拐犯さん達っ……!
「オレも信じる」
その声が発せられたのは、助手席からだった。今までずっと黙っていたひょっとこ面の男。彼はおもむろに仮面を外すと、その顔をこちらに向けてきた。
「なんたって、オレはその力を目の前で見たからな!」
チャラ男だ。委員長と聖母先輩をナンパしていた、あの茶髪のチャラ男だ。
「え、お兄さん、あの時の?」
「お? 覚えててくれたかい?」
パチリ、と委員長にウィンクが飛んでいく。
「お前、ナンパでは飽き足らず、ついに誘拐まで……」
「いやぁ、あはは……。つい、ね……」
「お前は俺が見込んだ通りの男だ!」
「オレなんで褒められてるの?」
やはり、この男は世の中に迷惑をかける才能のある男だった。今後も彼の活躍にも期待したい。
「……あの、吉井くん?」
躊躇いがちに声をかけてくる委員長。
「なに?」
「ひとつ確認なんだけど、あの……逆・銀行強盗したのって?」
「あぁ。あれは現実だぞ」
「うわあああ!!」
体を折り曲げ、自身の太ももに顔を埋めて叫び出す。幼児退行していた事を思い出しているのだろうか。
「お前ら銀行強盗したの? ガチ犯罪者じゃん」
うるせーお前らもガチ犯罪者だろうが。
委員長は数十秒ほど絶叫していた後、何事も無かったかのようにスッと顔を上げた。さすが委員長。切り替えが凄い。おほん、と咳払いをすると、監視天使に向き合った。
「そ、それで? 天使ちゃんは吉井くんの『一日七善』を監視してたってこと?」
「そうっすねー」
「お嬢ちゃん、さっき言ってたよな。『誘拐するように仕向けた』って。この金髪に善行をさせるために、オレ達に誘拐させたってことか?」
「そうっすね……」
神の手先であれば魔法も使えそうだ。洗脳なり魅了なりの魔法を使って操ったのだろうか。
「なんでそんなことを?」
「いや、あの。とっとと仕事終わらせたくて……」
監視天使は歯切れ悪くモゴモゴと言葉を濁す。
「だってだって! 吉井サン、善行めっちゃヘタクソなんすもん〜!」
人のせいにするんじゃない。否定はしないが。
これまでの情報を総合すると、監視天使の仕事は俺を監視して善行の現場を確認すること。俺が七善達成すれば仕事が終わるというわけか。
つまり、七善のノルマを早々に達成するために、自ら誘拐事件を起こして手を貸してくれたということだ。……あれ、コイツひょっとして良いヤツ?
「おいおい、よく分からんが、オレ達は利用された被害者ってことか?」
「と言ってもあれっすよ? あなた達の悪の心を刺激して増大させただけっていうか。もともと誘拐してみたい気持ちが燻ってたのを、ウチが後押ししてあげた的な〜?」
「……」
犯人連中は押し黙る。図星だったのだろうか。
「ま、ウチみたいな美少女がいたら誘拐したくなるのも無理ないっすよ〜」
パチ、パチと下手くそなウィンクをする監視天使。
その様子を呆然と見ていた馬マスクが、ポツリと呟く。
「オレ、なんでこんなヤツを誘拐したいなんて思ったんだろ……」
「な。ボクも今めちゃくちゃ後悔してる」
「実はオレもなんだ……」
「話さなければ可愛いのに……」
「あれぇ〜!? みなさん、自分の行いにもっと自信持って〜!?」
激しく後悔する馬マスクと豚マスクに続き、前の座席からも後悔の声が聞こえてきた。
「つかお前、さっきまでギャンギャン泣いてたよな? あれ演技だったってことか?」
「いやぁ、いざ誘拐されてみたら、思ったより怖くなってきちゃった、的な……」
コイツ……。
「あと吉井サンの顔、間近で見たらめっちゃ怖いんっすもん」
よし、ぶっ飛ばすか。
「聞いたか、黒髪のお嬢ちゃん。なんかよく分からんが、オレ達は犯罪を『させられた』らしいんだ。君たちはもう降ろすから、見逃してくれないか?」
「もう絶対悪いことはしないからよ〜!」
「ウチからもお願いするっす!」
「委員長、俺からも頼む」
「えぇ……。なんでわたしが決定権持ってる感じなんですか……」
後部座席の全員で委員長に懇願していたところ、運転手のプロレス覆面男が焦ったような声で割って入ってきた。
「おい、そんなこと話してる場合じゃないようだぜ……」
「なに!? もう警察が!?」
「いや、なんか変なバンが追って来るんだ……」
「は?」
声に釣られて窓の外を見る。
背後には、煽るように真後ろを走る真っ黒のバン。右隣の車線で、ピッタリとくっ付くように並走する白いバン。明らかに、俺達の乗る車を追いかけている。
「な、なんだコイツら!?」
それぞれ車体には紋章のようなモノが刻まれていた。
黒いバンの方には荒々しいフォントで書かれた『化』という文字。白いバンには星印の印。その中央に寸分の狂いも無く正確に書かれた『聖』という文字が。
すぐにその正体にピンと来た。
「うわぁ、面倒臭い連中が来たなぁ」
「金髪、アレが何か知ってるのか!?」
「まぁな。アンタら、街の外から来たのか?」
「そうだが……」
「じゃあ知らないのも無理ないか。あっちの白い車は《聖母教》」
「宗教か何かか?」
「そうだな。まぁ、頭のおかしい連中だ」
「……黒い方は?」
「そっちは《化学部》。頭のおかしい連中だ」
「頭のおかしい連中ばっかじゃねーか! なんだこの街! そんな奴らがオレ達に何の用だ!?」
恐らく、聖母先輩と化学教師が俺達を助けるために呼びつけたのだろう。往来で魔王の力を使うのを避け、部下達に頼ったというワケか。
「あー、その二つのボスが、俺達の知り合いなんだ。助けに来てくれたんだと思う」
「なんてこった……。お前も頭のおかしい奴らの仲間かよ……」
一緒にしないでほしい。いやほんとに一緒にしないでほしい。




