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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第4章 かわいい天使編
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第49善「地球割れろ!」


 ラーメン屋にて。

 『地球の声』を散々いじったため、委員長は少しむっすりとしてしまっている。


「ごめんって委員長。ほら、煮卵半分あげるから」


 ご機嫌取りのためにトッピングの煮卵を破り、大きい方を委員長の丼に乗せる。


「……ありがとう」

「ラーメンの声は?」

「もう! 怒るよ!」


 これ以上は本気で怒りそうなので止めておこう。せっかく良いギャグが生まれたと思ったのだが……。

 プンプンとしていた委員長だったが、ラーメンを完食する頃にはすっかり機嫌が直っていた。


「ふ〜! ここのお店も美味しかったー!」

「な」

「それにしても、なんだったんだろうねー、あの子」

「ファンの子?」

「そうそう。いつの間にかいなくなってたし」


 執拗に背後をつけていたファンの子は、コンビニで空き缶を捨てた後に忽然と姿を消していた。一日七善のノルマを全て達成した直後に、だ。

 やはり、あの子は一日七善と何か関係がある。どうにかして話を聞きたい。明日も尾行してくるだろうか。


 もし明日もいれば、絶対に捕まえてやる。絶対にだ。


「え、どうしたの? すごい悪い顔してるよ?」


 それは元々だぞ。今は真顔だったぞ。



_



 翌日。

 いる。またいる。また俺を尾行している。

 今日は自宅を出た瞬間に気が付いた。昨日と同じように、少し離れた電柱の陰から俺の様子を窺っている。手にはスマホ。服装も昨日と同じ、暑苦しいローブ姿。


 試しにヤツの前でサイレントゴミ拾いをしてみた。結果は昨日と同じ。写真をやたら取られ、何かスマホに文字を打ち込んだ後、左手の刻印が消えた。


 一日七善と何か関係しているのは確実だ。

 話してみたい。どうにかして捕まえてやる。


 しかしヤツは思いのほか素早かった。追いかけると物凄い速さで逃げてしまい、物陰に隠れたと思ったら姿を消してしまうのだ。元勇者の俺から逃げ果せるなんて、やはり何か特別な存在であることは間違いない。


 一人で捕獲するのは難しそうだ。ということで、委員長に協力を仰ぐことにした。


「えっ! また後をつけられてるの!?」


 待ち合わせていた委員長と合流し、今日もファンの尾行がある旨を伝えると、彼女は恐怖に(おのの)いたような顔を見せる。


「け、警察行ったほうがいいんじゃない?」

「いや、捕まえる。協力してくれ」

「本当に捕まえるの? 危なくないかな?」


 それもそうだ。浅はかだった。


「確かに、委員長を危険な目に合わせるワケにはいかないもんな」

「いや、そういうわけじゃ……でも、心配してくれてありがとう」

「聖母先輩にお願いしよう」

「うん?」

「念のため先生にも頼んでおくか」

「吉井くん、先生も先輩も女の子なんだよ? 危険な目に合わせたらダメだよ?」

「大丈夫、あの二人以上に危険なモノなど存在しない」

「……」


 なかなか納得してくれなかったが、委員長も同席するという条件で了承を得た。

 そうと決まれば即行動。二人を呼び出すために《お助け部》のチャットグループで呼びかけることにする。『ファンの子』では伝わらないと思ったので、言い回しを少し変えることにした。


「『子供を拉致するので協力してほしい』っと」

「ちょ、ちょっと吉井くん! 書き方っ! ほんとに送信しちゃったの!?」

「なんだよ。間違ってはないだろ?」

「それはそうだけど!」


 投稿を見た委員長は何故だか取り乱していた。取り消して!と詰め寄って来たが、先輩と先生の分の既読が付いてしまったのでもう遅い。


「えぇ……。『楽しそうです〜』『悪い事するのか!混ぜてくれ!』って。この二人なんでノリノリなの……」



******



「なるほど……。確かに後ろにいますね」


 小さな手鏡で背後を確認した聖母先輩は、神妙な面持ちで頷いた。


 俺達が集合したのは学校の最寄りの駅前。始業前だが、とっ捕まえて尋問するくらいの時間はありそうだ。


「吉井のストーカーなんて。マニアックだな」

「ファンだ」

「なんでそんなトチ狂った事をしてるのか気になりますね」


 俺のファンの方々に失礼だろヤメロ。


「先生、捕まえるより警察に行った方がいいですよね?」

「いや、捕まえよう。任せろ、子供を捕まえるのは得意だぞ!」

「えぇ……」

「冗談だ」


 冗談に聞こえないからヤメロ。


「まぁ小学生くらいの子供ですし、危険はないのではないでしょうか」

「先輩がそう言うなら……」


 まるで先輩が常識人みたいなやり取りヤメロ。


「それで、作戦はあるんですか?」


 当然、と俺は力強く頷く。二人が合流するのを待っている間、しっかりと考えておいたのだ。


「まず、俺が善行をして囮になる」

「善行をして囮になる?」

「何を言っているんだ?」


 またワケの分からんことを言い出したぞ、と言わんばかりに呆れた顔をするお姉さん方。


「ヤツは、俺が善行をする瞬間を写真に収めるんだ」

「なんのために?」

「さぁ? 俺の善行している姿が輝いて見えるんじゃないッスかね?」

「本当にマニアックだな」

「や、でも分かるかも」

「委員長さん?」

「す、すみません何でもないです。続けてください……」


 恥ずかしそうに一歩下がる委員長。

 構わんぞ。ぜひとも俺が善行する瞬間を撮影してくれ。


「それで? 吉井さんが囮になってどうするんです?」

「ヤツが写真を撮っている間に、先輩と先生は背後から回り込んで捕獲してくれ。以上」

「え、それだけですか?」

「雑だな……」


 なんだよ。シンプルでいいだろ。


「委員長さんに考えてもらえばよかったのに」

「確かに。犯罪の作戦と言えば委員長の専門だもんな」

「なんでですか……。でも、実行するなら駅の反対側の方が良くないですか?」

「そうだな。そろそろ登校する生徒も増えてくるだろうし。目撃されるとマズい」

「さすが委員長。よっ! 犯罪者!」

「やめて」


 俺達は委員長のアドバイスを元に実行場所を決めた。

 学校とは反対側で、尚且つ人通りの少ない一本道。


 先輩と先生は一旦別れ、ファンの子のさらに裏手に回ってもらう。俺と委員長、少し離れた電柱の影にファンの子、さらに距離を置いた所に魔王二人組という並びになった。


 魔王二人組から準備完了という連絡を受け取り、いよいよ捕獲作戦を実行に移す。しかしいざ囮の善行をしようと思ったところ、いきなり出鼻を挫かれることに。


「まずいぞ委員長。問題発生だ」

「どうしたの?」

「ゴミが全然落ちてない!」

「良いことだね」


 くそ、こんな場所にも聖母教のゴミ拾いの手が及んでいたのか。


「はぁ〜。しょうがないな。わたしに任せて」

「お、コンビニ強盗でもしてくれるのか?」

「なわけないでしょっ! いいから見てて!」


 そう言い残すと、委員長はスタスタと早歩きで歩み出した。

 どうしたんだ、と声を掛けようとした瞬間。


「きゃあ!?」


 すってんころりんといった感じで、委員長は何も無い場所で急に尻餅をついてしまった。慌てて駆け寄る。


「委員長! 大丈夫か!?」

「いったーい! 転んじゃったー!」


 周囲にアピールするように、大げさに痛がってみせる委員長。


「クソ! このクソ地球が! ぶっ壊してやる! 割れろ! 地球割れろ!」


 委員長を転ばせるなんて! とんでもない惑星だ!

 地球に対して無性に腹が立ったので、俺は地面をゲシゲシと踏みつける。


「ちょっ! 吉井くん! そうじゃない! ヤメテ! ヤメテ!」

「お、それ地球の声?」

「いいから! はやくわたしのこと起こして! 善行するんでしょ!」

「そ、そうか」


 ようやくそこで、委員長がワザと転んだのだと理解した。俺に善行をさせるために体を張ってくれるなんて。相変わらず委員長は優しいな。

 感動に胸を震わせがならも、彼女の善意を無下にしないために、委員長に手を貸して起こすのを手伝う。


「さぁ、立てるかい委員長! 怪我はないかい!?」

「演技臭いなー……。う、うん! 大丈夫だよ! 吉井くんありがとう!」


 まるで演劇でも披露するかのように俺達は声を張り上げてみせた。背後のファンの子に伝えるように。そして。


 ——パシャパシャ! パシャパシャ!


 きた! まんまと引っかかった!

 ファンの子はいつの間にか電柱から飛び出していて、俺達の僅か数メートル先まで接近して来ていた。


「ほ、ほんとに写真撮ってる……」

「気付いてないフリして演技を続けよう」

「う、うん……。い、痛いよー! 痛いよー!」

「どれどれ、お尻をナデナデしてあげよう」

「それはやめて」


 背後のシャッター音にまるで気が付いてない風を装って、俺達は善行の演技を続行する。

 ここで委員長が機転を効かせた。カメラの死角になるように、俺の体の影に隠れるようさり気なく移動したのだ。

 それによってファンの子の視点からは良い画が撮れなくなったのか、スマホの画面に注視しながら俺達の側面に回り込もうと移動してきた。その時だった。


 唐突に迫り来るミニバン。

 物凄い速度で接近してきたと思えば、俺達の真横で急ブレーキ気味に止まる。

 勢い良く開かれるドア。飛び出してくるマスクを被った二人。一人は馬のマスク。もう一人は豚。

 マスクの二人はファンの子の両腕をガッチリと掴んだ。


「わっ」


 ファンの子から小さい悲鳴が聞こえた頃には、その体は既に車内に飲み込まれて見えなくなっていた。

 なんという手際の良さ。手慣れてやがる。聖母先輩と化学教師、普段から誘拐やってるんじゃないかと思う程に。


 あまりに鮮やかな犯行に呆気に取られていると、車内から伸びて来た手が俺と委員長を掴み、グイッと引っ張ってきた。一緒に乗れということか。俺達はそのまま身を任せて車内に入り込むことにした。

 どこに向かうのかは知らないが、確かこのまま一緒に車で移動した方が効率が良さそうだ。


「んん〜! んんん〜!」


 くぐもった悲鳴が聞こえたので目を向けると、一足先に車内に入ったファンの子が猿轡(さるぐつわ)をされているところだった。


「すご、本格的ですね」


 委員長の感嘆の声が漏れる。

 確かに、短時間で用意したにしては随分手が込んでいる。


「車とか仲間の人とか、どこで見つけてきたんですか?」


 委員長の言葉で気が付いた。

 後部座席にいるのは、動物のマスクを被った先輩と先生と思しき二人。……じゃあ、一体誰が運転しているんだ?


 ふと、リアガラスの外が目に入る。

 そこに立つのは、呆然と立ちすくむ二人の女性。

 聖母先輩と化学教師だった。


 え、じゃあこの覆面の人達は?

 俺の心の疑問に答えるように、野太い声が車内に響き渡る。


「黙れクソガキ。大人しくしてろ」


 また本職の人かよ……。


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