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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第3章 わるい先生編
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第43善「ぐうの音も出ない!」


「ほら先生、はやく魔王モードになってください」

「とは言っても自分でコントロールできるものでもないし……」

「使えないですねー」

「おい! 私は教師だぞ!」

「イラつかせれば魔王化するかなと思いまして」

「なるほど。だがダメみたいだ」

「なら殴らせてもらいますねー」

「いたたた! やめろ!」


 などという地上からの問答を聞きながら、俺はひたすらに支店長の攻撃を躱す。

 視力を失った支店長の乱雑な攻撃は驚異ではない。だが魔力の鎧により、こちらの攻撃も通らない。魔力の剣と鎧は魔力消費が激しいとはいえ、支店長の魔力も尽きる気配がない。


 この膠着状態を切り抜けるには、化学教師に魔王化して戦ってもらうしかないのだ。しかし聖母先輩が割と強めにボカボカ殴ってはいるももの、化学教師が魔王化する気配は一向に見受けられなかった。


「せんぱーい。先生を『悪事したい気分』にさせればいいんじゃないッスかね」


 実際、金庫で大金を目にした時に魔王モードになりかけていた。『悪いことをしたい』。その気持ちが、魔王モードへのトリガーではないかと踏んでいる。


「なるほど。では先生。淫行なんてどうでしょう? 目の前にピチピチの女子高生がいますよ? うっふん♡」


 などと言いながら、片手を後頭部、片手を腰に当てて、尻を突き出しセクシーポーズをする聖母先輩。その様子を、化学教師は無表情で見つめている。


「……」

「ほら先生、淫行したくありません? 女子高生ですよ? あっはん♡」

「……」

「……あの? 何か言ってくれません?」

「聖母は人をイラつかせるのが本当に上手いな!」

「ぶち殺しますねー」


 ダメだ、先輩の魅力では淫行をする気が湧き起こらないようだ。

 化学教師に再度殴りかかろうとする先輩を、テロリスト二人組が必死に止めていた。


「……淫行がダメならお金でしょうか。ヒゲさん、ドレッドさん、お金出してください」

「おいおい、オレ達は囚人だぜ? 金なんか持ってるワケねーだろ?」

「銀行の金庫からくすねてましたよね? バレてないとでも?」

「……」

「出して、くれますよね?」

「「ハイ」」


 先輩がポキポキと指を鳴らすと、テロリスト二人組みは懐から札束を取り出した。アイツらいつの間にパクってやがったんだ。俺も一つくらい盗っておけばよかった。


「吉井くんはお金盗ってないよねー?」


 俺の心に芽生えた邪な考えに気付いたように、耳元で委員長が囁く。


「俺がそんなことするワケないだろ?」

「だよねー、よかったー!」


 危ない危ない。金には人を変えてしまう魔力があるな。

 それは化学教師も例外ではない。


「ほら先生、お金ですよー」

「金……カネ……ううぅ……」


 テロリストから巻き上げた札束を渡され、化学教師がワナワナと震えている。心なしか彼女の体から魔力が滲み出ているような。

 先輩はここぞとばかりに教師に耳打ちをする。内容が気になったので、勇者イヤーを(そばだて)てみた。


「先生、金庫にあったお金を思い出してください? 五十億ですよ、ご、じゅ、う、お、く」

「ごじゅう……おく……ううう」

「支店長さんを倒して、あれ奪っちゃいましょうよ」

「ううううう、私は……我は……」


 おお、口調が変わってきた。目付きも鋭くなり、雰囲気も変わりつつある。魔王モードまであと一押しだ。


「ささ、たくさん悪い事しちゃいましょう。お金盗って、生徒と淫行して。こんな風に」


 化学教師の手を取るなり、先輩はそれを自身の胸へと押し付ける。最後の一押しで魔王化を促そうとしたのだろう。だが、


「聖母、そんなことするもんじゃないぞ?」


 スン、と一気に冷静な教師の瞳に戻ってしまう。

 あぁ! 魔王化まであと少しだったのに!


「もうー! なんなんですかー! じゃあ委員長さんはどうですか! ほら上見てください! 委員長さん可愛いですねー!」


 ヤケクソ気味な聖母先輩がこちらを指差してくる。化学教師の視線も誘導される。


「可愛いな。ククク。淫行してやりたいぞ」

「一気に魔王状態に……。めちゃめちゃ複雑な気分です」


 化学教師の視線に気が付き、委員長はブンブンと手を振った。


「せんせー! ズボンありがとうねー!」

「ズボン? そうか、あの子が、私の……我のスラックスを履いているんだった。……関節淫行じゃないか!」


 関節淫行ってなに。

 兎にも角にも、それが引き金になった。


「ううううう……関節淫行ー!!」


 瞬間。化学教師の体から膨大な魔力が溢れ出す。全身に禍々しい魔王のオーラを纏いながら、ふわり、と宙に浮かんだ。


「ククク。最高の気分だ。あぁ、悪事を働きたくて仕方がない。ひとまず、その小娘に淫行させてもらおうか!」


 あれ、なんかターゲットがこっちに。


「先生! それよりも支店長を倒して五十億を頂いちゃいましょう!」

「五十億。それもそうだな。まずはカネを頂こう」


 先輩の誘導により、矛先は支店長へ。

 ふわふわと浮游の魔術を使い、こちらへ向かってくる。


「む? なんだ貴様は?」


 支店長は俺への攻撃の手を止め、飛んで来た化学教師へと刃を向けた。


「喜べ初代勇者。お前のカネは我が貰ってやる」

「フハハハハ! 何をバカなことを。どこの馬の骨かも分からぬ奴に、私のカネを奪われてたまるか!」

「馬の骨!?」


 先輩、静かに。人間の骨で我慢して。


「金髪小僧の前に貴様を叩き切ってやる!」


 支店長のオッサンは空を蹴り、剣を振り上げ化学教師の脳天に叩き込もうとする。しかし、


「《ルビジウム・フレイム》」


 巻き起こる、淡い紫色の炎。

 それは津波のように支店長に襲いかかり、一瞬にして彼の体を包みこんだ。


「あああ! 熱い! なぜだ! 魔力の鎧を纏っているのに!」

「あー、魔力の鎧は物理攻撃にのみ有効だぞ」

「先に言ってくれぇぇぇ!」


 紫炎に包まれ藻掻き苦しむ支店長。弱まる気配の見せない紫炎はジワジワと彼の体を焼いていった。


「ククク、他愛も無い。トドメだ」


 化学教師の容赦の無い拳が支店長に叩き込まれ、彼は勢い良く地面に叩きつけられた。風圧で炎は消えたようだが、そのまま気を失ってしまったようで、起き上がってこない。


 強い。散々苦しめられた支店長のオッサンが、あっという間に敗れてしまった。

 やはり魔王状態の化学教師はとんでもない実力だ。彼女が暴れ出さぬうちに、委員長の胸でも揉ませて鎮静させてしまおう。


 そう思って化学教師に近寄ろうとしたが、それよりも先に化学教師は地面へ降下してしまう。そして、今しがた吹っ飛ばした支店長の傍らに降り立った。


「ククク。無様だな」


 そのまま支店長の頭を鷲掴みにして持ち上げる。

 まさか殺す気じゃないだろうな? しかし化学教師の取った行動は、予想を上回る厄介なものだった。


「《スキルドレイン》」


 短く呟やかれた呪文。

 魔族のみが使える禁断の呪文。

 相手のスキルやチカラを奪い取る術だ。


「ま、まさか!」


 鷲掴みにされた支店長の頭が光輝く。その光はゆっくりと移動し、化学教師の腕の中へと吸い込まれて行った。


「大したスキルは持っていないが、魔力量は大したものだな」


 チカラを全て吸い取り終えると、化学教師は用済みとばかりに支店長の体を投げ捨てる。そして、邪悪な笑みを浮かべ、俺と聖母先輩を交互に見遣った。


「虐殺勇者。そして終焉の魔王。昨日の続きをしようじゃないか」



*****



 まずいことになった。ただでさえ強い化学教師が、初代勇者の魔力を吸い取って更にパワーアップしてしまった。


「ククク。まずは貴様からだ、虐殺勇者」


 鋭い目付きでこちらを見据え、化学教師は俺と同じ高さまでフワリと上昇。両手に紫炎を生成し、妖しく揺らめかせている。


「異世界では散々痛ぶってくれたなぁ。貴様に受けたあの苦しみ——」

「パンツ見えるぞ」

「え?」

「そんな高く飛んだら、下の奴らからパンツ見えちゃうぞ」


 化学教師のスラックスは委員長に貸出中だ。前はワイシャツ、左右と後ろは白衣で守られているとはいえ、下からは丸見えだろう。


「魔王である我がそんな事を気にするとでも?」


 鼻で笑う化学教師だが、目線は一瞬だけ下へ向けらたのを見逃さなかった。


「まぁ、貴様はメインディッシュ。後の楽しみに取っておこう」


 そう言い残し、音もなくゆっくりと地上へと下がって行く。

 パンツ見られるの気にしてんじゃねーか。


「ククク。まずは貴様からだ、終焉の魔王」


 地上へ降り立った化学教師は、気を取り直しように聖母先輩と向き合う。対する先輩は、隣に並ぶテロリスト二人組をそっと指し示した。


「こちらのお二人、先生のおパンツ凝視してましたよ」 

「ククク。まずは貴様らからだ、元勇者二人組」


 パンツ見られたのめちゃくちゃ気にしてんじゃねーか。


「いやいや、見てないっす! 誓って見てないっすよ!」

「黙れ。貴様らの記憶を脳みそごと吹き飛ばして消してやる」

「そういうことなら、聖母の姐さんの洗脳魔術を《スキルドレイン》で奪えばいいんじゃないですかね!?」

「ククク。まずは貴様からだ、終焉の——ええい! もう纏めてかかってこい!」


 元よりそのつもりだ。

 俺は化学教師の後ろに回り込むように地上へ降り立った。


「四対一でもいいよな?」

「貴様! 謀ったな!」


 パンツが見えることを指摘したのは親切心からではない。化学教師を地上に下ろし、先輩達と協力できる状況を作り出すためだ。


「あ、あの、オレ達も頭数に入ってる?」

「俺様、お料理担当の勇者だったんですけど……」


 テロリスト二人組は、化学教師の圧倒的なプレッシャーに意気消沈してしまったらしい。


「……二体一でもいいよな?」


 四対一でもいいよなぁ?とかキメた俺がバカみたいじゃないか。


「……吉井さん、すみません。まずは、わたくしに戦わせてください」

「やっぱり正々堂々、一対一がいいよなぁ!」


 いやほんと俺バカみたいじゃん。


 まぁでも気持ちは分かる。俺と先輩は、化学教師に昨日ボコボコにされたばかり。本来ならば再度二体一で挑むべきだろうが、俺達にもプライドがある。でき得ることならタイマンで勝ちたいと思うのは俺も同じだ。


「……いえ、正々堂々とは戦いません」


 なんなのもう。さっきから俺の言う事が全然ハマらない。


「ヒゲさん、ドレッドさん。お二人のチカラを吸わせてください」


 なるほど、テロリスト二人組の力を貰ってパワーアップを図るつもりか。


「そういう事なら! 喜んで!」

「聖母の姐さん、頑張ってくだせぇ!」


 闘う必要が無くなるとあって、二人はノリノリで頭を差し出してきた。聖母先輩は両手で二人の頭を鷲掴みにし、二人のチカラを《スキルドレイン》で吸収する。


「ククク。それで我に勝てるとでも? そんな雑魚二人のチカラを吸ったところで、たかが知れてるわ」


 阻止しようと思えばできたであろうに、化学教師は先輩のパワーアップを止めなかった。余裕の現れだろう。


「うるせー! 聖母の姐さん、頑張ってくれよ!」


 テロリスト二人組に背中を押され、聖母先輩が一歩前に出る。


「先生……あなたの言う通りです」

「なにが?」

「この二人のチカラを吸い取っても、何も変わりませんでした!」


 まぁさっきの石投げ合戦でもそう言ってたしな。やる前に気付けよ。


「先生ー! がんばれー!」

「聖母の皮を被ったこの悪魔を懲らしめてくれー!」


 あいつら寝返りやがった。


「まぁ冗談はさておき。昨日は学校だったので、思い切り戦えませんでしたからね」

「本気ではなかったと?」

「えぇ」


 先輩の空気が変わる。普段の優しい笑みからは一転。真剣な眼差しで化学教師と向き合う。


「せいぜい楽しませてくれよっ! 《ストロンチウム・フレイム》!」


 開幕と言わんばかりに、化学教師が大きく手を薙ぎ払う。放たれる真紅の火炎。それは津波となり先輩に襲いかかった。

 先輩は大きくジャンプして炎の波を飛び越えると、一気に教師の懐へ。接近戦へと持ち込んだ。


「はぁぁ!」


 一発。また一発。

 物凄い速さで拳のラッシュを繰り出す。先輩が踏み込むたび、地面が大きくひび割れた。

 対する化学教師も拳で応戦する。そこからの攻防は激しいものだった。


「クハハ! やるなぁ!」


 拳と拳。脚と脚がぶつかり合う。衝突の度に風圧が起こり、二人を中心とした風のドームが出来ているようだった。


「ハハハ! 確かに昨日よりは骨がある!」

「骨!? どこ!? ぐはっ!?」


 バカだよあの人。骨に反応して重いの喰らっちゃったよ。


「骨! 骨! 骨!」

「あーあー! 聞こえなーい!」


 先輩の弱点がバレてしまったな。耳を塞いでいるもんだから懐がガラ空きだ。


「骨伝導! 骨伝導!」

「いやあああ! 骨を伝って聞こえてくるぅぅぅ♡」


 バカだよあの人達。でもなんか楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ。


「これぞ骨肉の争いだな!」

「あ、それは意味がちょっと違いますね〜」


 骨が付けば良いってもんじゃないらしい。

 だが俺には最終兵器・委員長がついているのだ。


「委員長、なんか骨関係の四字熟語言ってやんなよ」

「んー? じゃあ亀甲獣骨」

「??」

「???」


 あ、魔王二人とも分かんなかったらしい。バーカバーカと言ってやりたいところだが俺も分からんかった。五感からして亀甲縛り的なアレだろう。エッチな子だよまったく。


 そんなこんなで激しい攻防はしばらく続いた。

 手数は互角。速度も互角。威力も甲乙つけがたい。バカさ加減も同じくらいだ。だが、決定的に異なるものがあった。再生速度だ。


「ぐっ……」

「クハハ! 」


 恐らく、拳がぶつかる毎に両者の拳は相当のダメージを受けている。互いに驚異的な速度で回復してはいるものの、保有する魔力量が明暗を分けた。


「どうしたぁ!? 威力が弱くなってきているぞぉ!?」


 次第に聖母先輩の回復が追いつかなくなっていく。それに伴って攻撃の威力も落ちていく。

 やがて互角だった攻防は、一方的な虐殺と化していった。


「ぐっ! あああ!」


 化学教師の猛攻が先輩を襲う。白雪のように美しい肌が、土塗れとなる。

 加勢した方がいいのだろう。しかし先輩が助けを求めるか再起不能になるまで、俺は動かないことにした。先輩のプライドを尊重してのことだ。


「吉井さん! いつまでボサッとしてるんですか! はやく手伝ってくださいよ!」


 プライドとか尊重しなくて良かったっぽい。


「フン! 終焉の魔王もこの程度か」

「ぐああ!」


 加勢に出ようとしたところで、聖母先輩がこちらに吹っ飛ばされてきた。手が塞がってるので胸板で一旦その体を弾き、足を使って地面にそっと降ろす。サッカーのトラップのように。


「あの……わたくしの扱い雑じゃありません?」

「ちゃんと受け止めたじゃないッスか」

「サッカーボールみたいに受け止めることないじゃないですか!」


 とは言っても委員長背負ってるし。避けずに受け止めただけでも感謝してほしい。


「いたた……見てくださいよ。ボロボロです。完敗でした」


 地面に転がる先輩はボロ雑巾のようだ。口先では平然としているが、起き上がってこないあたりダメージは相当なものなのだろう。せっかくだし蹴り飛ばしてやろう、という気持ちをギリギリ抑え込めるくらいにボロボロだ。


「痛そッスね」

「……あの、もっと何かないんですか? 女の子がボコボコにされてボロボロになってるんですよ?」

「可哀想っスね」

「感情無いんですか……。泣き喚いて心配するとか、敵に怒り狂うとか、もっと他にあるでしょうに!」


 俺に何を期待しているんだよ……。

 聖母先輩への返答に迷っている時。


「いたたっ」


 不意に耳元で聞こえた、その言葉。

 最初は、聖母先輩の惨状を見て、委員長が同情して呟いたのかと思った。しかし、違った。


 彼女の腕に、痣が出来ていたのだ。


「委員長、腕、ぶつけたのか?」

「う、うん。でもだいじょうぶー。せんぱいの心配してあげてー」


 聖母先輩を受け止めた時、先輩の体のどこかが委員長の腕に当たってしまったようだ。

 それを認識した瞬間。俺の頬を涙が伝った。


「うぅ、ううう……」

「えっ!? 吉井くんどうしたのー!?」

「うわあああ! 痛かったなぁ! 委員長ぉ! ごめんなぁ!」

「泣き喚いて心配しています……」


 委員長を守れなかった。

 その不甲斐なさ、そして彼女の怪我の痛みを思うと自然と涙が溢れてきた。こんなことで泣くなんて、生まれて初めての経験で戸惑っている。

 やがて、悲しみは怒りに変わった。


「グギギギギ……。クソ教師がぁ! よくも委員長をぉ!」

「敵に怒り狂っています……」


 こんなに感情が揺れ動くなんて。自分が自分じゃないようだ。だけど今はそんなことどうでもいい。委員長を怪我させた化学教師への怒りで気が狂いそうだった。


「ちょっとちょっと! 吉井さん! わたくしの時と反応が違いすぎません!?」

「あぁ!? 先輩は放っておけば治るだろーが!」

「それはそうですけど扱いが酷い! ほら、比べるものじゃないですけど、委員長さんよりもわたくしの方が重症ですよ!?」

「……どれくらい怪我したかじゃねぇ。誰が怪我したかが重要なんだ!!」

「なんか名言っぽいけどめちゃくちゃ最低な発言!」


 異変を察知したテロリスト二人組もこちらに駆け寄ってくる。先輩の大怪我には目もくれず、委員長の腕の痣に視線が向けられていた。


「オイ、嬢ちゃん怪我してんじゃねーか! 金髪! こんなことされて黙っちゃいねぇよなぁ!?」

「男見せろやぁ!」

「当たりめーだ!!」

「男性陣のこの盛り上がり様! ヒロインとしての格の違いを見せつけられてるようでヘコみます!」


 聖母先輩は何か大きな勘違いをしているようだ。


「先輩。これは格の違いとかじゃねーッスよ。先輩はヒロインとして十分魅力的だ」

「よ、吉井さん……」

「これは……日頃の行いの差だ!!」

「ぐうの音も出ない!」


 盛り上がる俺達の一方で、化学教師は何故だがオロオロとこちらの様子を窺っている。そして、もごもご端切れ悪く語りかけてきた。


「……あ、あの、終焉の魔王?」

「なんです? まだ殴り足りないとでも?」

「いや。我、調子に乗ってちょっとやり過ぎちゃったかも。痛かったよな? すまんな?」

「先生だけが優しい! やだもう好きになっちゃいそう!」


 男どもとは反対に、化学教師の目は先輩だけに向けられている。委員長の怪我を意に介さないその様子が、俺の怒りをさらに増長させた。


「おいクソ教師! まずは委員長に謝れよ!」

「そんな痣一日で治るだろう! 終焉の魔王の心配してやれよ!」

「……もうキレた。完全にキレたわ。お前、殺す」


 そうして、俺は化学教師へと飛びかかった。


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