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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第3章 わるい先生編
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第37善「世界観の説明してもらっていいですか?」


「なっ、えっ?」


 化学教師の発した言葉が理解できない。


「だから、つい、盗ってきちゃったんだ。三億円」


 そんな、魔が差して万引きしちゃいました、みたいなレベルじゃないぞ。


「盗ってきたって、どこから?」

「銀行だ。駅前の」

「銀行強盗してきたってことっすか?」

「ちがうちがう。空間転移の魔術を覚えてな。金庫に直接ジャンプしたんだ」


 だから誰にも気付かれてないぞ、と化学教師は自慢げに胸を張った。いや威張るところじゃないから。


「悪行したい気持ちが抑えられなくてな……気が付いたらやっちまってた」

「いや、シャレにならないでしょコレ。どうするんスか」

「それを今相談してたんです」


 聖母先輩が溜め息混じりに頭を抱える。


「もう一回金庫にテレポートして、こっそり戻せばいいんじゃないスか?」

「やろうとしたさ。しかし魔王状態じゃないとテレポートが使えないんだ」


 なんと不都合な。


「なら、また魔王状態になってから戻しに行けばいいんじゃないスかね?」

「いえ、その状態で再び金庫に行けば、追加でお金を盗って帰ってくるのがオチです」


 それもそうだ。


「先輩の洗脳魔法で銀行の職員を洗脳してから返すのは?」

「わたくしの洗脳は一旦頭蓋骨を粉砕しないといけないので、一人ずつしか掛けれないのです。銀行には他のお客さんもいますし、監視カメラもあるので難しいですね」


 あれ、これ、詰んでね?


「先生……自首するしかないッスよ」

「そうですね、そうするしかないと思います」

「いやだー! 見捨てないでくれー!」


 諦めて立ち去ろうとする俺と聖母先輩の足に、化学教師が()がりついてくる。


「と言っても、どうすることもできないですし……」

「そうだ、こういう時は委員長に知恵を借りよう」


 彼女なら良い打開策を思い付くかもしれない。そう思って教室を出ようとしたのだが、聖母先輩にガシッと腕を掴まれてしまった。


「待ってください。何て言うつもりですか?」

「『先生が銀行から三億円盗んできちゃった。どうすればいいと思う?』って」


 俺も成長している。かつての俺は言葉足らずで色々と勘違いをさせてしまったことがあるが、今の俺は主語を付けてちゃんと説明できるようになったのだ! しかし、返ってくるのは大きな溜め息だった。


「そんなこと言ったら委員長さん倒れてしまいますよ……。わたくしが連れて来ますので、ちょっと待っててください」


 すごい。珍しく聖母先輩が頼りになる。化学教師というブッ飛んだ存在の前では聖母先輩すらもマトモに見えてしまって良くないぞ。


 そんなことを考えながら待つこと数分。委員長を引き連れて、聖母先輩が戻ってきた。


「あれ、吉井くんもいたんだ?」

「ああ」

「それで、先生が趣味で書いている小説の相談をしたい、と聞きましたが?」


 小説? なんのことだ? と思ったが、委員長の後ろで佇む先輩が無言の圧を掛けてきた。『話を合わせろ』と。化学教師もそれを察したようだ。


「あ、あぁ。そうなんだ。ちょっと話の展開で行き詰まってしまってな。君は頭が良いらしいし、ちょっと相談させてくれないか?」


 なるほど、フィクションの話という形で知恵を借りようという訳だな。


「わたしで良ければ別に構いませんが、成績が良いからと言ってお話のアイディアが思い浮かぶとは限りませんよ? ……それで、どういうお話なんですか?」


 ごもっともな意見だが、委員長もまんざらでは無い様子。


「主人公はテレポートの能力を持つ異世界の魔王で学校の先生なんだが、銀行から三億円を盗んできてしまって……」

「まず世界観の説明してもらっていいですか?」



*****



「逆・銀行強盗、なんていうのはどうでしょう」


 小説の話という(てい)で一通りの話を聞いた委員長は、しばし腕を組んで考え込んだ後、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「逆・銀行強盗?」


 聞き慣れない言葉に、俺達三人は声を揃えて首を傾げる。


「えぇ。まずは普通の銀行強盗のように金庫に押入るんです。ですが、お金は取らず逆にお金を置いてくる、みたいな」


 確かに銀行強盗の逆だ。


「なるほど……よくそんなこと思い浮かぶな」

「さすが委員長。犯罪の才能あるよ」

「褒めてないよね?」


 しかし色々と課題はある。


「お金を戻すのは可能だと思いますが、それでもやはり犯罪になってしまいませんか?」


 金庫に入るまでは通常の銀行強盗と同じ。職員や客を拘束する必要がある。金は盗まないとはいえ、それだけで既に犯罪だ。


「そうですね……。じゃあ例えば、人助けの為にやむを得ず金庫に入った、とかはどうですか? 金庫の中に閉じ込められている銀行員の方がいて、主人公はその人を助けるために金庫に入った、みたいな」

「主人公はどうやってそれを知ったんだ?」

「困っている人の声を聞くことができる能力がある、とか?」


 スーパーヒーローによくある特殊能力だな。

 しかし先生は即座に首を振る。


「だめだ。そんな設定は加えられない」

「異世界の魔王とか設定モリモリのくせに! 今更なにを!?」


 設定に関してはどうしても変えられないんだ……と委員長を宥め、どうにか納得してもらう。


「じゃあこういうのはどうです?」


 次々とアイディアが出てくるな。本当、委員長は犯罪の才能に恵まれている。


「強盗に入ったけど、金庫に閉じ込められてた人を偶然見つけて、心変わりして何も盗まず出てくる、みたいな。……状況的に、全く罪を犯さないのは無理だと思うんです。だから、同時に善行をして情状酌量してもらう、なんていうのはどうですか?」


 確かに、この状況で罪を一切犯さずに金だけ戻すのは不可能とも思える。となれば、同時に人助けをして罪を軽くする、というのは悪くない案に聞こえる。……法律的に、本当に罪が軽くなるのかは知らないが。


「えぇー。それだと私……じゃなくて主人公が犯罪者になってしまうじゃないか。学校もクビになるだろう?」

「三億盗んでる時点で立派な犯罪者ですが……」


 ごもっともだ。


「いや、まだ誰にもバレてないから犯罪者じゃないぞ。バレなきゃ犯罪じゃないんだ!」


 およそ教師が言う言葉じゃないな。

 難色を示す化学教師に、もうひと押しとばかりに委員長は更にアイディアを追加する。


「では、主人公が誰かを雇うというのは?」

「なるほど、私……じゃなくて主人公の手は汚さずに、誰か別の人に実行犯になってもらうという事だな?」


 なぜ俺を見る?


「よし。金髪ヤンキーのキャラを登場させて、そいつに実行犯になってもらおう。ヤンキーなら銀行強盗くらいするだろ」


 やめろ、俺を生贄にしようとするんじゃねぇ。つかヤンキーは銀行強盗なんてしねぇ。そもそもヤンキーじゃねぇ。


「いいと思います」


 意地悪く笑いながら、委員長も俺の顔を見てくる。フィクションの話をしてるつもりだろうが、現実だからな? そんなことさせたら俺が捕まっちゃうからな?


「……こういうのはどうですか?」


 助け舟を出したのは、意外にも聖母先輩だった。


「主人公には、既に刑務所に捕まっている知り合いがいるんです。まずは彼らを脱獄させて、彼らに実行してもらう、というのは」


 おいおい、まさかそれって……。


銀行の支店に三億なんて普通は置いてないので真似しないでくださいね。

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