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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第3章 わるい先生編
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第35善「チューしてください」


 翌朝。


「昨日の先生の魔王状態は……禁断症状だと思うんス」

「「禁断症状?」」


 俺の説明を聞いた聖母先輩と化学教師は、声を揃えて首を傾げた。

 ここは化学室。俺と元魔王の二人組で、昨日の出来事を話し合っているところだ。ちなみに、聖母先輩にも一日七悪の件は共有済みだ。もれなく俺と同じく羨ましがっていて、『一日に七本も人の骨を折れるじゃないですか!』とかよく分からないことを言っていた。


「吉井さん、禁断症状ってなんです?」

「俺の場合は、夜八時を過ぎた状態で善行ノルマが残っていると、暴走してしまうみたいなんス」


 忌まわしき記憶。しかし俺は検証を重ね、このルールを見出したのだ。善行の禁断症状と呼んでいる。


「そんな話、初めて聞きました」

「だって恥ずかしいじゃないッスか、暴走なんて」


 先輩は今までノルマを達成するのに夜八時を過ぎたことは無いらしく、彼女にもこの禁断症状のルールがあるのかは不明とのこと。


「暴走って、どんな感じになるんだ?」

「自我を失って善行をしまっくてしまうんス……。ああ、恐ろしい」

「……それは、良い事なんじゃ?」

「どこが! 困っている人を助け、落ちてるゴミを拾い、犯罪があれば犯人を捕まえてしまうんスよ!?」

「…………良い事なんじゃ?」


 ダメだ。化学教師とはまるで話が合わない。


「実は、わたくしもあるんです。禁断症状」

「え、そうんスか?」

「はい。一日に一本骨を折らないと——」

「あ、そういうのいいんで。話の腰を折らないでくれ」

「じゃあ人間の腰を折ってもいいですか?」


 とんでもない一休さんだよまったく。


「——話を戻すと、にもその禁断症状が出ると?」

「もう既に出かかってる!」


 化学教師の目付きが鋭くなり、体から魔力が溢れ出てくる。しかしまだ理性の色が窺える。


「今日はまだ悪行してないんスか?」

「していない」

「なるほど。もしかすると吉井さんの症状とは違って、定期的に悪行をしないと禁断症状として魔王モードになってしまうのかもしれませんね」

「症状を抑えるには定期的に悪行をすればいいってことッスね」

「フハハハ! なるほど、ではちょっと銀行強盗してくる!」

「「やめろ!」」


 まだ完全に魔王モードにはなっていないようで、俺と先輩の二人掛かりで止めることができた。昨日のように完全なる魔王モードになってしまったら俺達では止めようがない。そうなる前に化学教師には簡単な悪行をしてもらい、症状を押さえ込んでもらう必要があるという結論に至った。


「簡単な悪行となると、やはり淫行でしょうか?」

「まぁ、そうッスかね」

「では吉井さん、先生とチューしてください」

「なんでそうなる」


 まぁキスくらいならいいか……?

 化学教師の顔をチラリと見遣る。大人びた印象を受ける凛々しい顔付き。スッと通った鼻筋。その一方で、ぷるっとした唇にはあどけなさが残る。

 ……まぁ、キスくらいやぶさかではない。


「むぅう……。き、貴様と我が、せ、接吻するだと……? ま、まぁ、我は魔王だし? 悪だし? それくらいどうってことないが? ……だけど、ファーストキスだから……優しくするのだぞ?」


 ポッと頬を赤らめながら、潤んだ瞳で上目がちで見てくる魔王様。

 キスくらいやぶさかではない。


「ん〜」


 先生が瞳を閉じ唇をこちらに向ける。それに応じようと俺も顔を近付ける。互いの唇が触れ合うまであと数センチ——に迫った所で、唇同士を分かつように聖母先輩の手が遮った。


「き、貴様!? なぜ邪魔をする!?」

「いや、なんていうか……自分で提案しておいて何ですが、委員長さんに申し訳ない気がしてきて……」


 なぜここで委員長の話が?


「じゃあ先輩が代わりにしてくれよ」

「「絶対に嫌だ!」」


 わお、息ピッタリ。


「こやつと接吻するくらいなら地面とキスした方がマシだ!」

「こっちのセリフですー! あなたとキスするなら死んだ方がマシですー!」

「ほう!? では望み通り殺してやろう!」

「昨日の続き、やりましょうか」


 やめろやめろ。煽るから先生が一段と魔王モードになってしまったじゃないか。つか勝てないのに喧嘩吹っかけるんじゃない。

 このままでは昨日の二の舞だ。昨日は委員長が現れて乳を触らせてくれたお陰で事なきを得たが、再び完全魔王モードになったらもうどうしようもないぞ。


「あ、そうか」


 化学教師が女生徒の乳を揉めば淫行認定される。なら、聖母先輩の乳でもいいじゃないか。だが直接言っても互いに絶対に拒否するだろうから、ここは無理やりにでも触らせるしかない。


「先生、ちょっと」

「ん? なんだ?」


 メンチを切り合う二人の間に割って入り、化学教師の手を掴む。そして、それを聖母先輩の胸へ運ぶ。


「……なにを、しているんですか?」


 ピキピキと不自然に張り付いた笑みを浮かべる聖母先輩。漏らしそうなくらい怖かったが、それでも化学教師の手を先輩の胸に押し付ける。


「昨日の委員長の時みたいに、胸を揉むという淫行をしてもらうんスよ」

「……なるほど。身の毛もよだつ思いですが、キスするよりはマシですね……」


 聖母先輩も状況は分かっているのだ。嫌々ながらも受け入れてくれた。


「ささ、先生。先輩の胸を揉んでください」

「うぅむ……」


 化学教師も魔王モードを抑え込みたいという理性が残っているのか、大人しく指示に従ってくれた。

 しかし、胸を揉みつつ、首を傾げる。


「だが、淫行と呼ぶには……サイズが物足りんな」

「ぶち殺しまーす」


 確かに先輩は少々スレンダーな体付きだが……。

 取っ組み合いを始める二人。(なだ)めるのは相当骨が折れた。文字通りの意味で。


 結局、先生にビールを飲ませることで何とかその場は収めることができた。

 ……聖母先輩、そして化学教師という異常者二人と一緒に居ると、自分が正常な人間だと錯覚してしまって良くないな。


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