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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
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第20善「本職の人来ちゃった」


 善行獲得のアテが外れて、俺は焦っていた。

 新たなるターゲットを血眼で探し求める。


「迷子! 迷子はいねぇか!?」

「ちょ、吉井くん落ち着いて! 犯罪者にしか見えない!」

 

 しかし先程はうじゃうじゃいた迷子であったが、今はただの一人でさえ見つけることができない。


「もう16時ですし、小さいお子さんがいるご家庭はそろそろ帰る時間なのかもしれません」


 なんと……。善行の獲物が……。


「ほ、他に何か善行チャンスは無いんスか!?」

「そうですねぇ。フードコートの席を譲る、というのも良くやる善行ですが……」


 なんでも、空いてるフードコートの席を見つけるなり確保し、席を探している人に譲る、というのを繰り返すらしい。


「いやそれ、ただただ迷惑なだけなんじゃ……」

「迷惑とかどうでもいい! 俺は善行できればそれでいいんだ!」

「なんかすごく矛盾してる気がするよ吉井くん」

「さっそくフードコートに行こう!」

「残念ですが、この時間のフードコートは混んでいないと思います」


 確かにお昼時はとうに過ぎているし、夕飯と言うには早すぎる。今からフードコートに出向いたとしても席譲り作戦が実行できる見込みは低い。


「ほ、他には!? この時間からできる善行は何かないんスか!?」

「なんでそんなに必死なの吉井くん……」


 当然だ。命が懸かっているのだから。


「あとは荷物を車に運ぶのを手伝う、お年寄りがいたら移動を手伝ってあげる、迷ってる人がいれば道案内をしてあげる、とかですが、あまり遭遇確率は高くないですね」


 モールは広い。探せばそういう人達もいるだろうが、その分動き回らなくてはならなくなり、効率が悪い。俺はコスパ良くサクッと善行したいのだ。


「くそ……こうなったら委員長、頼みがある」

「なに?」

「強盗してきてくれないか?」

「なにを言ってるの?」

「委員長が強盗をするのを俺が阻止する。それを二十店舗繰り返す」

「わたしに犯罪者になれと?」

「あ、それならいっそのこと、モール自体を占拠してしまうというのはどうでしょう?」

「それだ!」

「先輩までなに言ってるんですか! やるわけないでしょ!」


 だめか……。委員長は普段マジメなんだから、たまの強盗くらい許されると思うのだが。

 くそ、参ったな。どんどん時間だけが過ぎていく。何か善行チャンスは無いか……。


 頭を抱えていたその時。

 ピンポンパンポーン、という館内放送の開始を告げる軽快な音が鳴り響いた。続けて聞こえるのは、商業施設の放送に全く相応しくない、気怠げな男の声だった。


『買い物客の皆さーん。このモールは我々が占拠しましたー。大人しく人質になっちゃってくださーい』


 え……本職の人来ちゃった……。



********************



『このモールに爆弾を仕掛けましたー。大人しく言うことを聞かないと爆発させまーす』


 館内に響く、気怠そうで平坦な男の声。

 周囲の人々は足を止めて放送に耳を傾けるも、


「映画の撮影?」

「いたずら?」


 と、本気で取り合っていない様子だ。

 

『一階の時計台がある広場に集まってくださーい。従わない場合は……』


 言葉を区切り、ひと呼吸。その時だった。見計らったようなタイミングで、乾いた破裂音が鳴り響く。銃声だ。


 事の重大さを理解し、ざわめきが静寂に変わった。買い物客の間からは楽観さが消え、辺りは恐怖に包まれる。追い打ちをかけるように、冷たい声がスピーカーを通して恐怖心を煽る。


『……従わない場合は、殺しまーす』


 本気だ。

 映画の撮影でもイタズラでもなく、本物のテロリストがモールを占拠していた。


 モールは楕円形の二階建てで、真ん中に大きな吹き抜けがある。俺達が今いるのは二階部分。吹き抜けから顔を出して下の様子を窺うと、数人の銃を持った男達が客を中奥の広場に集めているのが見えた。


「オイ! お前らも下に降りろ!」


 この階にも仲間がいるようだ。吹き抜けを挟んだ対岸で、覆面姿の男が怯える客達に銃を突きつけているのが見える。犯人集団はかなり大規模なもののようだ。


「えっ……これドッキリだよね……?」


 委員長は未だ状況が飲み込めていない様子。気持ちは分からないでもない。この平和な日本で、まさか武装したテロリストと遭遇するなんて夢にも思わないだろう。


「……いえ、本物のテロリストのようですね」


 犯人集団から感じる殺気と悪意。異世界で戦った犯罪組織と同じ物を醸し出している。俺と先輩はそれを感じ取っていた。


「吉井くんの不良仲間じゃないよね!?」

「んなわけねーだろ……」


 残念ながら俺にテロリストの友達はいない。そもそも友達がいない。うっ、涙が……。


「とりあえず、一旦隠れましょう」


 犯人集団に見つかる前に、俺達は近くにあった服屋へと入り、試着室の中に隠れた。

 モールは広い。犯人集団が何人いるか知らないが、隠れてしまえばそうそう見つかることは無さそうだ。


『隠れている人は、あと十分以内に一階の広場に集合してくださーい。それ以降は見つけ次第殺しまーす』


 全員の客を探し切れないことは犯人も承知の上のよう。人質にならぬのなら殺すと言う。


「咄嗟に隠れちゃったけど、大人しく従った方がいいんじゃないかな……?」

「大丈夫、わたくしと吉井さんで犯人達を捕まえます」

「ああ。まさかこんな大規模な善行チャンスがやってくるとはな」

「なんでちょっとワクワクしたような顔してるの!? 危ない事は止めてっ!」

「安心してください、委員長さんのことも絶対守りますよ……吉井さんが」

「任せろ。絶対に危険な目には遭わせない」

「え、あ、うん。よろしく……」


 視線を落とし、委員長は少し照れたようにはにかむ。

 危機的状況とはいえ、元勇者の俺と聖母先輩なら無事に切り抜けられるはず。問題は委員長だ。彼女を危険な目に遭わせる訳にはいかない。


 俺が、委員長を守らねば。


「よし、犯人を捕まえる作戦なんだが……まずは委員長を囮にしよう」

「十秒前に自分が言ったこと忘れちゃった?」


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