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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
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第19善「今日は薄ピンク!」


「ちょっとちょっと! なに集団誘拐しようとしてるの!?」

「あ? 誘拐じゃねーよ。迷子狩りだ」

「誘拐じゃんそれ!」


 焦った様子で問い詰めてくる委員長に事情を説明した。


「なるほど……迷子ちゃん達の親を探してあげて善行を……なんか色々おかしい気がするけど、とりあえず誘拐じゃなくて安心した。それで、先輩は?」

「トイレ」

「吉井くん、一人で小さい子と一緒にいちゃダメでしょ? 犯罪にしか見えないよ?」


 ひどい言い草だ。


「あのー、君ちょっといい?」


 不意に聞こえた声の方に目を向けると、そこには警備員のオッサンの姿が。委員長の言葉通り犯罪者に見えてしまっているのだろうか。しかし俺は何も悪いことはしていない。なんなら善行をしているのだ。堂々としていよう。


「なんスか?」

「君、何してるの?」

「迷子狩りッス」

「……身分証とか見せてくれる?」

「『ステータスオープン』」

「……ちょっと事務所まで来てくれる?」

「わー! 違うんです違うんです!」


 警備員のオッサンが俺の腕を掴もうとするも、委員長が間に割って入って事情を説明してくれた。人当たりの良さそうな委員長の説得により、伸びてきた腕は引っ込んだものの、相変わらず怪訝そうな目でジロジロと見られている。


「吉井さ〜ん。委員長さ〜ん」


 すると、背後から聖母先輩の声が。視線を向けると、先輩が優雅に手を振りながらこちらに歩いて来ているのが見えた。なぜか、背後に大勢の大人を引き連れて。


「先輩もハーメルンなの!?」

「あ、迷子さん達の親御さん達です。こちらに向かう途中で偶然会いまして」


 先輩曰く、不安気にキョロキョロ何かを探している大人に声をかけてみたところ、ドンピシャで迷子の親だったらしい。道中そんな大人が大勢いたので、まとめて連れて来たようだ。


「シスターさん、ありがとうございます! ほら、お姉ちゃんにお礼言って!」

「お姉ちゃんありがとー」

「いえいえ〜」


 奇跡的に迷子と親のペアが全て揃っていたようで、あれだけ大勢いた子供と大人が感謝を残して一斉にいなくなった。その光景を見ていた警備員はあんぐりと口を開けていたが、お陰で俺の誘拐容疑は完全に晴れたらしく、呆れ顔をされながらも解放してくれた。


「まったく、二人揃って何してたんですか……」


 去って行く警備員をペコペコと見送っていた委員長が、呆れたように溜め息を吐く。


「《お助け部》の活動ですよ。迷子の子供達を助けていたのです」

「他には?」

「え?」

「他には何かしてたんですか?」

「いえ、今日はまだこれだけですよ」

「二人で買い物したり、ご飯食べたり、映画観てたりしてたんじゃないんですか!?」

「な、何もしてませんよ……」


 おお、なんか知らんがあの悪魔が委員長の圧に押され気味だ。頑張れ委員長!


「本当でしょうね!? 吉井くん!?」

「ほ、ほんとだよ」


 あれ、なんだか俺も押され気味だ。頑張れ俺。


「すみません委員長さん、何もしていないというのは嘘でした……」

「えっ!?」


 言いながら、聖母先輩は一枚の紙を差し出す。


「まさかプリクラ!? ……ってこれレントゲンじゃないですか! なんで吉井くんのレントゲン写真持ってるんですか!」

「まぁ、吉井さんのレントゲンって分かるんですか?」

「えっ……まぁ、なんとなく……顎のラインとかが……」


 なんで俺の骨って分かるんだよ。こえーよ。


「委員長さん、才能ありますよ」


 何のだよ。なくていいよ。


「っていうかこのレントゲンの骨、やけに白くないですか?」

「美肌効果です」

「あと眼窩(がんか)でしたっけ。目の窪みの部分。やたら大きくないですか?」

「デカ目効果です。盛れてますよね」


 だからレントゲン盛るんじゃねーって。目の窪みデカくなってても嬉しくねーわ。


「あとなんですかこの落書き。『救急車で来た』って……」


 な。意味わかんねーよな。しかも謎にガッツポーズみたいな格好しろって言われてさ。


「よろしければ一枚差し上げますよ」

「い……いちおう貰っておきますね……」


 俺のレントゲン写真バラまくんじゃねぇよ。委員長も何で財布に入れてんだよ。


「それはそうと」


 話題を転換するように手をパンと叩くと、聖母先輩は委員長の服装をまじまじと観察し始める。


「委員長さんの私服、とっても可愛いですね?」

「え? あ、ありがとうございます」


 委員長の服装は薄手の白ニットにグレーのチェック柄の膝丈スカートというものだ。清楚さを感じる反面、彼女のスタイルの良さも相まって普段よりも大人びた印象を受ける。


「吉井さんもそう思いますよね! ね!?」


 意味あり気なウィンク。分かったぞ。委員長の服を褒めて仲間外れにしていたのを許してもらおうってことだな。任せろ。


「な、なに? あんまりジロジロ見ないでもらえる?」


 口ではそう言うものの、コメントを期待するようにチラチラと俺の顔を窺ってくる。


「委員長の服……」


 良いだろう。期待通りに気の利いたことを言ってやろうじゃないか。先ほどの先輩の時の失敗を踏まえてな。


「汚れてなくて清潔だな!」

「馬鹿にしてるでしょ!?」



********************



「せ、先輩、大変だ……」


 気が付いてしまった。十人余りの迷子軍団を狩ったと言うのに、刻印の線が一つも減ってないということに。つまり、迷子狩りが善行認定されていないのだ。


「あれ、おかしいですね?」


 迷子を助けるなんて、誰がどう見ても善行だろう。しっかり感謝もされたし、善行認定されないのは変だ。左手の甲を見せつけると、先輩も異変を察してくれた様子。彼女も自分の刻印を確認しようとスカートをたくし上げようとするが、委員長の視線に気が付き手を止める。

 委員長の視線を逸らそうとしたのか、聖母先輩は明後日の方向を指差した。


「委員長さん、あそこに美味しい骨付きチキン屋さんがありますよ」


 先輩の言う『美味しい骨付きチキン』の『美味しい』って『骨』と『チキン』のどっちに係ってるのだろう。


「どこですか?」


 ともかく、委員長の気は逸らせた。その隙に先輩はスカートをたくし上げ、その下の秘部を晒してくる。内股を見せつけるように、少しガニ股気味で。非常に間抜けな格好だ。


「どうです? 今日はモールに来るまで一回も善行してません」


 体勢的に自分で見えないため、内股の刻印の確認を俺に求めたようだ。

 内股に刻まれた『正』の文字は二つ。それに加えて、完成途中の『正』の字もあった。その線の総数は、迷子の数と同じだったように思える。つまり、迷子を助けるという善行は、全て先輩の取り分としてカウントされたらしい。


 ——思い返してみれば、感謝は全て聖母先輩に向けられていた。後から来た親からすれば、俺が子供達を連れ回していた悪者に見えたのかもしれない。迂闊だった。もっと善人アピールするべきだった。


「どれのことですか——って先輩!? なにしてるんですか!?」


 獲得できなかった善行を思いガックリ肩を落としていると、委員長の驚いた声で現実に引き戻された。委員長はスカートをたくし上げる聖母先輩に気が付くなり、慌ててスカートを押さえ付けて元に戻す。周囲を見渡して他の誰にも気付かれていないことを確認すると、ホッと胸を撫で下ろしていた。


「なにやってるんですか!?」

「よ、吉井さんにおパンツチェックをしてもらおうと思いまして……」


 なんだその苦し紛れの言い訳。ちなみに真っ白な聖母おパンツだったぞ。

 先輩の口から俺の名前が出たことにより、委員長の鋭い視線がこちらに向けられた。ふと、善行生活初日にハンカチを拾った時のことが頭を()ぎった。見たくもないパンツを見せつけられた時のことを。一応、先手を打っておこう。


「委員長はパンツ見せなくていいからな?」

「なに!? わたしのパンツは見たくないって言うの!? 見てよっ!」

「えぇ……」


 顔を真っ赤にしながらスカートを捲り上げようとする委員長。しかしボディラインに沿ったタイト気味なスカートだったため、構造的に上手く上げられず、その中身を晒すことは叶わなかった。

 何故だかガックリと肩を落とす彼女は、目に涙を浮かべつつ俺を睨みつけてくる。そして、震える声で宣告した。


「……今日は薄ピンク!」


 あ、はい。そうですか……。


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