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異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
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第18善「ちょっと誘拐してきますね」


「なんだか休日に会うと不思議な気分ですね」


 少し照れたように微笑む聖母先輩。


「わたくしの今日の服装、どうでしょう?」


 見せびらかすように、彼女はクルリとその場で一回転してみせる。ふわり、と花のような優しい匂いが香ったような気がした。


「あー、良いと思うッスよ。特に……」


 何か褒めた方が良いかな……と思って彼女の服装をまじまじ見る。すると白のワンピースの裾に、赤い花びらを散りばめたようなワンポイントがあることに気が付いた。


「特に、その花びらの模様が」

「あらやだ、返り血が付いたままでした」


 褒めなきゃ良かったよ。


「《クリーン》」


 先輩が手を(かざ)しながら呟くと、花びらの模様もとい血痕が瞬く間に消失した。汚れを落とす浄化魔法か。便利だな。こういう日常に役立つ便利なサポート魔法を俺ももっと習得しておけばよかった。

 他に汚れが無いことを確認すると、聖母先輩は何やら妙案が思い付いたようにパンと手を合わせる。


「せっかくですから、委員長さんも呼んだらどうですか?」

「委員長? なんで?」

「わたくしたち二人きりだと……悲しむんじゃないですかね?」

「あー、仲間外れにしてる感じになるか」

「……まぁそういう事でいいです」


 せっかくだから《お助け部》の活動にしましょう、という提案を受けて、委員長に電話をかけてみることに。


『も、もしもしっ!? 吉井くん!? どうしたの!?』


 ワンコールで出た。速っ。


『もしかして今警察とか!? 捕まったの!?』


 ひどっ。


「ちげーよ」

『良かった……』

「今何してた?」

『これから図書館に行こうと思ってたところ。勉強しようと思って』


 土曜日にも勉強とか。さすが委員長。


『吉井くんは? なにしてるの?』

「いま、東善行駅にあるショッピングモールにいるんだけど……」

『そうなんだ。一人?』

「いや、聖母先輩と」

『先輩と!? なんで!? どうして!?』


 すごい食い付き。


「《お助け部》の活動的な感じだ。委員長も来るか?」

『行くっ!』

「聞いといてなんだけど、勉強はいいのか?」

『いいの! 二十分で行く! ……あぁ、でもシャワー浴びて行くから、やっぱり三十分!』


 そう言って、慌てた様子で通話を切られてしまった。

 モールに来るだけなのにわざわざシャワー浴びるなんて。モールに対する熱意が凄い。


「来るらしいッス」

「でしょうね〜」


 委員長、やはり仲間外れが悲しかったのか。分かるぞ。


「ところで吉井さん。お腹空いてません? 美味しい骨付きチキン屋さんがあるんですけど、ご一緒にどうですか? 骨付きですよ?」


 骨付きはそんなにアピールするポイントじゃないと思うぞ。むしろ付いてない方が嬉しいぞ。


「あー、今ちょっと手持ちが……」

「ふふ。では特別にご馳走してあげましょう」

「え、まじすか」

「その代わり、余った骨はくださいね? お肉の部分は食べていいので」


 この人犬か何かなの?

 なんか気持ち悪いので、せっかくの申し出だったが丁重にお断りしておいた。


「では、代わりと言ってはなんですが、記念に吉井さんのプリクラ撮ってもいいですか?」

「まぁ別にいいッスけど」


 聖母先輩もプリクラとか興味あるんだな。女子高生らしいところもあるじゃないか。けど『吉井さん “の" プリクラ』ってどういう意味だろう。俺がソロで撮るってこと? 知ってる? ソロプリクラって、結構寂しいんだぞ?(経験者)


「こっちです」


 訳も分からず先輩に連れられて来たのは、ゲーセンとかではなく、モール内にある整形外科だった。


「なんで病院なんスか? プリクラは?」

「ここでプリクラ撮れるんです。骨の」


 レントゲンじゃねーか。レントゲンのこと骨のプリクラって呼ぶの世界でこの人だけだわ。つか何で俺のレントゲン写真欲しがってんだよ。


「ここの病院のX線(プリ機)、けっこう盛れるんですよ」


 レントゲン盛っちゃダメだろ。ありのまま写さなきゃダメだろ。



********************



 委員長を待つ間、聖母先輩と二人で善行をすることになった。


「それで、ショッピングモールが善行スポットって言ってたッスけど、具体的に何するんスか?」

「ふふふっ、土日のショッピングモールは、善の『狩場』なんです」


 善の狩場……良い響きだ。


「ほら、見てください」


 先輩が指差した先に見えるのは、小学生にも満たない小さな女の子だった。一人でベンチに座っている。近くに親はいないようだ。その様子を見て、俺は直感する。


「なるほど」

「何をするか分かりました?」

「俺があの子を誘拐して、先輩がそれを助けるって感じッスね?」


 自分自身で善行のマッチポンプをするとペナルティがある。しかし、二人でやれば無問題ということだ。さすが先輩。


「それじゃ、ちょっと誘拐してきますね——って痛ってぇ!?」


 女の子の元へ走りだそうとした瞬間、ふくらはぎを蹴られて脛の骨を折られてしまった。しかし同時に掛けられた先輩の回復魔法(即効性)と俺自身の再生能力の相乗効果により、骨は一瞬で元通り。密かに骨折していた可哀想な少年の存在に、周囲の人々は誰一人として気付いていない。


「急に何するんスか!?」

「それはこっちのセリフです。誘拐なんかする訳ないじゃないですか……」


 あげく、得体の知れないものでも見るかのような視線を向けられてしまった。先輩にだけはそんな目で見られたくないぞ……。


「見てわかりません? 迷子ですよ、迷子」


 言われてみれば、女の子は不安そうにキョロキョロ周囲を見渡して、今にも泣き出しそうな雰囲気だ。


「週末のショッピングモールは迷子だらけ……善行のチャンスがそこら中にある状態なのです!」

「なるほど、迷子狩りッスね!」

「その言い方は止めましょう?」


 俺と先輩はさっそく迷子の元へと向かう。


「ひっ……」


 しかし迷子の女の子は俺の姿を一目見るなり、より一層泣き出しそうな表情になってしまった。俺も泣きそうだ。


「安心してください。大丈夫ですよ。わたくし達と一緒に、お母さんとお父さん探しましょう?」

「う、うん!」


 だが聖母先輩が溢れ出る優しいオーラと共に手を差し出すと、女の子は滲む涙を引っ込めて途端に笑顔になった。

 さすが聖母先輩。上っ面だけはまさに聖母。さすがの先輩も子供の骨には興味無いようだ……無いよな?


「迷子センターにでも連れて行くんスか?」

「いいえ、直接ご両親を探します」


 曰く、この後何人もの迷子を救出する計画らしい。迷子センターに何人もの迷子を連れて行ったら不審に思われるので、直接親を探すとのこと。


「この子の親御さんはいらっしゃいませんか〜?」


 恥ずかし気も無く迷子の名前を大声で発しながら、聖母先輩はモール内を練り歩く。迷子の女の子は何故か俺が肩車することに。そこそこの高さがあるはずだが、それが楽しいようでキャッキャッとはしゃいでいた。


「あら、吉井さん。あそこ見てください」


 指さされたのはモールの廊下の隅。見ると、小さな男の子が涙を浮かべて体育座りしていた。第二の迷子だ。迷子一号の親を見つけるよりも先に、新しい迷子を発見してしまった。

 同じようにして、俺達は迷子の子へと声をかける。


「一緒にご両親を探しましょう?」

「は、はい!」


 迷子二号は俺が手を繋ぐことになった。


「あら、あっちにも。あらら、こっちにもいますよ」


 先輩が続々と迷子を見つける。迷子のバーゲンセールだ。


「迷子、うじゃうじゃいるッスね」

「その言い方は止めましょう?」


 迷子が迷子を呼ぶ状況。迷子の入れ食い状態。迷子が次々に集まり、あっという間に十人余りの迷子を引き連れてる形となった。

 肩の上には左右一人ずつ迷子が乗り、五人の迷子が左手の指を一本ずつ握り閉め、右の二の腕には三人の迷子がぶら下がっている状態。木だ。俺は、迷子の成る木になったのだ。

 次から次へと見つかる迷子だが、一方で親の方は誰一人として見つからない。


「この子達の親御さんはいらっしゃいませんか〜?」


 ゾロゾロと子供を引き連れる俺達に、周囲の人々は奇異の目を向けてくる。視線が痛いが、聖母先輩は意に介さず声を出し続けていた。

 周囲に呼びかける合間に、先輩は子供達にも微笑みながら声をかける。


「皆さ〜ん。牛乳たくさん飲みましょうね〜?」

「はーい!」


 迷子達を不安にさせないように気遣っているのだろうか。先輩は優しいな。ちょっとだけ頭がおかしいのが玉に(きず)だ。


「夜は九時までに寝ましょうね〜?」

「はーい!」

「煮干しもたくさん食べましょうね〜?」

「はーい!」


 ちがうわこれ骨の英才教育してるだけだわ。


「ふふ。将来が楽しみですね」


 どういう意味それ……。


「知ってますか吉井さん。子供って、大人より骨の本数多いんですよ?」


 だからなんだよ。先輩の口からは知りたくなかったよ。

 先輩の異常性に体をブルブルと震わせていると、それに呼応するようにスマホもブルブルと震えた。委員長からのメッセージだ。


「委員長、着いたみたいッス」

「そうですか。では先に行っていただけますか? わたくしはちょっとお手洗いに……」


 『後で追いつきます』と言い残し、先輩はそそくさと近くのトイレへと向かって行った。先輩もトイレとか行くんだな。ちゃんと人なんだと実感して安心する。

 残された俺は、迷子軍団を引き連れて委員長が待つという入り口の方へと向かった。


 入り口へ到着すると、大勢の人が行き交う中でも委員長の姿は直ぐに見つかった。


「委員長〜」


 声をかけると、スマホを見ていた委員長が顔を上げてパァっと顔を輝かせる。


「吉井く——ハーメルンの笛吹き男!?」


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