表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰還勇者のサイコパス善行生活  作者: 本当は毎日ラーメン食べたいけど健康のために週一回で我慢してるの助
第2章 こわい先輩編
12/60

第15善「先っちょだけ、先っちょだけだから!」


「あの、先輩。さっきぶっ飛ばした連中なんスけど……」

「あらいけない。すっかり忘れていました」


 会話に夢中になっていて、先ほど聖母先輩がぶっ飛ばした不良連中のことを完全に失念していた。彼らは依然、壁やら天井やらに顔面を食い込ませて絶賛気絶中だ。というか死んでないよな……?


「無闇に力使っちゃって平気なんスか?」

「大丈夫です。記憶飛ばしてるので。物理的に」


 なにそれ怖っ。


「怪我の心配もご無用ですよ。殴ると同時に遅効性のヒールをかけているので」


 なにそれ全然役に立たなそう。


「すぐに回復してしまうと、苦しんでる顔が見られないじゃないですか」


 さっきから何言ってんのこの人。怖過ぎるんですけど。

 一日五十善もの呪いを課せられている理由の片鱗が見えた気がする……。


「ちょっと片付けるの手伝ってもらえませんか?」


 先輩に促され、天井に頭が突き刺さっている不良を引き抜いてみた。確かにその顔には傷一つ無い。先輩の攻撃をまともに喰らったら骨が粉々になっていそうだが、遅効性のヒールとやらが効いたようだ。血も綺麗に消えている。


 俺達は手分けして気絶している不良連中を運び、教室の入り口付近に並べた。


「《リペア》」


 聖母先輩が唱えたのは修復魔法のようだ。天井に開いた大穴や壁に入ったヒビが瞬く間に元の状態に戻っていく。サポート系の魔法も色々と習得しているらしい。


「さて、そろそろ目を覚ます頃ですかね。吉井さん、話を合わせていただけますか?」


 首を傾げる俺を尻目に、先輩はワイシャツを少し肌蹴させ、肩と鎖骨を露出させた。その状態のまま力が抜けたように床にへたり込む。


「……何やってんスか?」


 その問いに返答は無く、代わりにハァハァと荒い息遣いが返ってきた。見ると、額にはじんわりと汗が浮かび、頬が紅潮し始めている。自身の体温を調節する魔法でも使ったのだろうか。

 その行動の意味は全く分からないが、着衣を乱して呼吸を荒くする姿は妙に艶かしい。シスターの頭巾のせいか、どこか背徳的な印象さえ感じる。


「……ん? あれ? オレ、何してるんだっけ……? オイ、起きろ」

「う……ん?」


 不良三人組が次々と目を覚まし始めた。周囲をキョロキョロ見渡し、自分達の置かれている状況の把握に努めている。


「あっ、起きましたか? ……はぁ、はぁ」


 熱の籠もったしっとりとした声に、不良三人組は肩をビクリと震わせた。


「そ、そうだ。オレ達、聖母先輩のオッパイを触らせてもらいに来て……」

「あれ? その後どうしたんだっけ……?」

「ふふっ。忘れてしまったんですか?」


 意味深な微笑み。言葉にはしないが、何があったかをその乱れた着衣で言外に語っている。


「え? も、もしかして、オレら、先輩と?」

「マジ!? 全然覚えてねぇ……」

「すごかったです……意識と記憶が飛ぶほどに……」

「マジかよ! 五人で!? やっちまったのか!?」


 俺を頭数に入れるんじゃねぇ。


「いやでも、あの金髪は平然としてるし、見てただけなんじゃねぇか?」

「なるほど。じゃあ四人か」


 やっぱり仲間に入れてくれ。寂しいじゃんか。


「あ、あの……。恥ずかしいので、そろそろお引きとりいただいても……?」

「え? あ、ああ! そ、そうっすね!」

「じゃあ、オレ達はこれで!」

「このことは、どうかわたくし達だけの秘密に……」

「も、もちろんすよ!」


 あたふたと立ち去ろうとする不良三人組。


「あ、あの!」

 

 それを、先輩が呼び止める。


「な、なんでしょう?」

「……また、来てくださいね?」

「「「ハ、ハイ!」」」


 上目遣いの可愛らしいお願いを受けて、彼らは意気揚々と帰っていった。その姿が見えなくなるなり、先輩は何事もなかったかのようにすくっと立ち上がって衣服を正す。荒い息遣いも頬の紅潮も嘘のように引いていた。


「なんすか今の……」

「リピーターの確保です」

「……さっきの三人組、また来た時にどうなるんスか?」

「骨を折らせてもらいます♪」


 もらいます♪ じゃないよ怖過ぎるんですけど。


「わたくし、一日に最低でも一本、骨を折らないとダメなんです」


 なに言ってんだこの人。


「誰かの骨を折らないと、気が狂ってしまいそうなんです!」


 マジなに言ってんだこの人。もう既に狂ってんだろ頭。


「骨を折らないと禁断症状が出るんです……軽い中毒みたいな感じですね。タバコやお酒と同じです」


 絶対に違う。喫煙者と酒飲みに謝れ。


「もちろん、骨を折った後はちゃんと治して帰しますよ? なんなら虫歯とかもついでに治してあげてますし、ウィンウィンですよね?」


 なんともクレイジーでグレートな思考回路だな……。

 先輩と話していると、異世界で押し殺したはずの感情が心の奥底からふつふつと湧き上がってくる。そう、この感情は、恐怖。恐ろしい、なんて感じたのは何時ぶりだろうか。


「わたくしだって、さすがに無実の人の骨を折るのは気が引けますよ。でも、彼らは悪人だから気兼ねなく折れるんです」


 羅生門の登場人物か何かなのこの人?


「気兼ねなく折れると言えば……吉井さんって元勇者ですよね?」

「こっち来ないでもらっていいッスか?」

「多少の痛みは慣れっこですよね? 回復速度も速いでしょうし」

「やめろ! こっち来るなって!」

「指一本だけでいいんです! お願いします!」

「絶対嫌だ!」

「先っちょだけ、先っちょだけだから! 絶対痛くしませんから! 指の先っちょだけ折らせてください!」

「先っちょだろうと骨折は絶対痛いから! って痛ってぇぇぇぇ!? マジで折りやがった!」

「はあぁぁあああ……この音、この感触……最高です……。って、すごい! もう再生してるじゃないですか! さすが元勇者! 折り放題じゃないですかこれ! もう我慢できません! 根本までイッちゃいますね!」

「やめてぇぇぇぇ!!」


 この人に比べれば俺って結構マトモなんだなぁ。バキバキに折られた両手の指を見ながら、しみじみと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ