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13話 憶測が憶測を呼んで

「うーん……」


 砦の食堂で、わたしはまた写真を手に考え事をしていた。


(なんで、クライブさんとジャミルは似てるのかな?)


 気になるけどジャミルに直接聞くのもなんだか憚られる。過去をほじくり返すことにもなるし……。


「お疲れ~ ラーメン食べよー」

「あ、ありがとー」


 ベル作のおいしそうなラーメンが目の前に置かれる。

 


「今日のは何か変わってるねぇ」

「バジルを織り込んだ麺をチキンベースのスープで仕上げてみましてよ」

「ん~~、おいひー! スープパスタみたい!」

「でっしょー!? リーダーは『邪道だ』『パスタでいいだろ』とか言うんだけどねー」

「あはは……」


「んん? その写真は?」

「あ、これは昔撮った写真で……これがわたし、こっちがジャミル。で、こっちは実はクライブさんなの。偶然再会しちゃった」

「へぇ~、なんか運命的ね。それにジャミル君もレイチェルもかわいい~! ……で、この青髪の子は? クライブさんの子供?」

「ええっ!? ちがうちがう、この子はジャミルの弟でカイルっていって……」

「あらー そうなの? 似てるからさー」

「え……」

「ほら。この子が大きくなったら、こんな感じになるかなって」


 ベルがラーメンを啜りながら写真のクライブさんとカイルを順番に指差す。


「……」


 確かに、面影があるような気がする……けど。

 ジャミルに似ていて、カイルにも似ていて。……だからって。

 

 

「ウーーッス、……なんか食い物ねえか?」

「!!」


 なんともタイムリーに、ジャミルが帰ってきてわたしは息を呑む。


「あら、お帰りなさい。ラーメンがあるわよ~」

「ラーメンか……まあ、それでいいか」

「『それでいい』とは何よ。このあたし特製のバジリコラーメンを~! もう『ラーメン夜会』に呼んであげないわよ」


『ラーメン夜会』というのはベルが毎週土曜日の夜に催している、その名の通りベルが作ったラーメンを夜食としていただく会。

 フランツやルカは寝ていることが多いけど、わたしとジャミルとグレンさんは毎回参加している。

 夜食にラーメンってなんであんなにおいしいんだろう。

 ――クライブさんが前に『普通回復術師をラーメン屋って言い間違えないだろ』って言っていたけど、ベルの場合は全然あり得るのだ。



「あ~あ、スンマセンスンマセン。んじゃ、バジリコラーメン一丁お願いしま~す」

「注文の仕方が悪い!」

「あーっ、なんなんだよめんどくせー」

「あはは……」


 ラーメン夜会のお陰でか、最初は乗り気でなかったジャミルも次第にベルと軽口を叩きあうくらいの関係になったみたいだ。

 おいしいラーメンは人と人をつなぐ……。


 ベルがラーメンを作っている横で、ジャミルは何か飲み物を用意している。

 ちらっとのぞいてみると、3つ用意したカップにココアの粉が入っていた。


「ラーメンにココア? グレンさんみたいだね」

「普段はやんねーけど。ガツンと甘いモンが飲みたいんだよな」

「ふーん……」

 ジャミルは慣れた手付きで、はちみつとキャラメルソースとバニラエッセンスとオレンジの果汁を入れて混ぜ合わせる。

 確かにガツンと甘そう……そのうちにココアはデロデロの、のりの佃煮のような風合いになった。


(嫌な予感――!)


 嫌なデジャヴがわたしの頭をよぎる。これはエクストリームココアでは!?

 そして、ジャミルは冷蔵庫から何やら茶色いペーストのような物を取り出す……!


 

「そ、それ、味噌!?」

「は? バカ言え、なんで味噌だよ。これはカルムナッツのペースト」


 カルムナッツとはわたし達の住むカルムの街の名産品のちょっとほろ苦い風味のナッツだ。

 粉末をアイスクリームにかけたり、クリームにしてパンに塗ったりして食べるとおいしい。


「ナッツ! ご、ごめん。色が似てるから、つい」


 よく考えなくても、ジャミルは料理人なんだからグレンさんみたいに激マズココアを作るはずがなかった。

 グレンさんが「色が似てる」って言って間違えたのはこれだったんだ。

 ……多分他にも色々間違えてそうだけど……。


 ナッツのペーストを入れたあとはお湯で溶いてから温めた牛乳を注ぎ、その上に蒸気で牛乳をモコモコに泡立ててのせ、ココアパウダーを少しかける。

 最後にシナモンスティックをスッと刺して出来上がり。


「わっ! おいしそう……!」

「ほんとだー! キミ、やるじゃない!」

「……まあな」


 あんまり笑わないジャミルだけど、料理を褒めた時はちょっとだけはにかむ。

(笑うとほんとに写真のクライブさんとそっくりだ……)

 


 ◇ 

 

 

「このココア、おいしー! ガツンと甘いって言ってたけど、いい感じの甘さね」

「……だろ?」


 ラーメンを啜りながらジャミルが誇らしげにしている。


「うん、あれだけ甘いもの入れた割には意外と締まった味……これがエクストリームココアかぁ」

「……ん? なんでオマエ『エクストリームココア』知ってんだよ」

「え? なんでって……何か商標登録でも……?」

「いや、そんな大仰なもんでもねえけど、元はオレが(カイル)とフザケて開発した門外不出の品だぞ。さてはあいつ、喋りやがったな」

「え……」

「ま、あれから改良に改良を重ねたから、オレのはさしずめ『エクストリームココア・極』ってとこだけどな」

「なんなのー? 『エクストリーム』とか『極』とか! ダッサ」

 ベルが髪の毛を指でぐるぐるしながら吹き出す。

「うるせーな。このネーミングは譲れねえ……」

「……ウソよ」

「え??」


 わたしはゆらりと立ち上がる。

 

 ――先輩直伝の『エクストリームココア』だぞ――。

 


 グレンさんが、先輩――クライブさんに教えてもらったココア。

 それはジャミルとカイル兄弟二人の秘密のレシピ。


 変なパズルが、どんどん脳内で勝手に組み上がっていく。


 ――あの人、本当に一体何者なの?


 

 ◇

 

 

「実はね……」

 

 あまりに馬鹿げた妄想を自分の中だけに留めておけなくて、わたしはとうとうジャミルに「クライブさんとカイル同一人物説」を話すことにした。

 偽名なことはとりあえず黙っておいて、彼が子供の頃に足を大怪我したこと、エクストリームココアを知ってること、ジャミル、カイルと写真のクライブさんが似ていること――。

 彼とカイルの共通点をあげていく。

 

「…………ふーん」

 

「バカなこと言ってんじゃねーよ」とか言って、たしなめて欲しい。――なのに、ジャミルは話を聞くとそれきり黙り込んでしまっていた。

 

「――なんて。あはは……バカみたいだよね」

「…………」


 沈黙に耐えきれずに、わたしから口を開いておちゃらけてみせるもジャミルは引き続き黙ったままだ。


(お、思ったよりも怒らせちゃったかな……)

 

「う――ん……全くないとも言い切れないんじゃない?」

「えっ」


 次に口を開いたのはベルだった。予想外の返答にわたしは目を剥く。


「……ベルは、わたしの話信じるの?」


 ――こんな荒唐無稽な話、誰も信じないと思ったのに。


「ん――……、前『時間を戻れたら』みたいな話したじゃない? あたしはそんなこと出来るわけないって思ってたけどルカが『禁呪だけどできる』って」

「うん」

「気になってちょっと王立図書館で調べてみたら、ホントにあるみたいなのね。だから例えば……そういうので過去に飛ばされちゃった、とかさ」

「過去に……?」

 

「……オレも1個気になるとこがあるぞ」

「え?」

「あの男の巻いてるスカーフ。あん中にもう一枚赤い布をしまって巻いてるとこ見た」

「赤い布?」

「ああ。……あれ多分、土産もんの子ども用スカーフじゃねえかな」

「お土産の……」

「……あれがカイルのもんだったら面白くねーか」


 カイルはいつもお土産の赤いスカーフを巻いていた。いなくなった日も、もちろん巻いていた。

 

「面白いって……、でも、あんなの量産品じゃない。カイルのものなんて分かるはずない――」

「オマエ、憶えてないか? アイツ自分の名前を縫い付けてただろ」

「あ……」


 あの頃わたしとカイルは、学校で古代文字を習っていた。その習いたての古代文字で自分の名前を縫い付けてジャミルに「だせぇ」って笑われてた。

 あれがカイルのものなら、その刺繍があるはず……ではあるけど。

 

「……どうやってそれ確認するの?『中見せてください』なんて言ったら怪しすぎない?」

「寝てるスキに取るんだよ」

「寝てるスキって……クライブさんはここで寝たりしないのに」

「オマエ、授業で『眠り草』を育ててるって言ってたじゃねーか。あれを飲ますんだよ」

「眠り草って『ドルミル草』のこと? 無理無理無理! あれは取り扱いが難しいんだから! ……それに人に盛ったりしたら停学になっちゃう!」

「停学が怖くて人に毒が盛れるか!」

「停学怖いし! できません!! そもそも違ったらどうするのよ!?」

「ちょいちょいちょい、二人共落ち着いて」


 黙って聞いていたベルが、言い合いになりそうになっているわたし達二人の間に割って入る。

 

「レイチェルの言う通り、そういうの故意に盛ったら結構学校で問題になるわよ? それに、隊長さんだって『全て明るみに出すことない』って言ってたじゃない? 例えばその……弟くん本人だとしてもその暴き方は、ねえ。……隊長さんの友達でもあるわけだし、薬盛って持ち物を荒らしたってなるとさすがに黙ってないかもよ」

「う……」

「確かめるにしても、もうちょっとスマートな方法あるんじゃないかなーって思うけど」


 とベルが言うと、ジャミルは舌打ちをして気まずそうに目をそらし、胸の辺りの服を掴んだ。

 

「って、言ってはみたものの『スマートな方法』とは一体って感じよね~」

「うん……カイルのこと聞いた時も全然知らなそうだったし……」

「……記憶喪失とか? って、タイムスリップ説に加えてそれはさすがに盛りすぎか。まあスイーツでも食べながら考えましょ」

「そうだね……」

 

 出口も入口も不明瞭な謎の迷宮。

 冷めてもおいしい「エクストリームココア・極」を飲んで、とりあえず一息入れるのであった。

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