2話 気まずい幼なじみ
「レイチェルー。今日バイト行くときにこれ持っていってくれない?」
「んー?」
砦に行く用意をしていると、お母さんに包みを渡された。
「これね、ジャミルちゃんに渡してくれない? それでレッドフォードさん家に届けるように頼んでほしいのよ」
「ん、分かったー」
◇
「おはようございまーす」
「おう」
「あれ、ジャミル一人?」
砦の厨房に行くと、ジャミルがいた。
グレンさんとルカはいないみたい……?
「ああ。オレも今来たとこ。グレンとルカは届けもん行ってる。もうすぐ帰ってくると思う」
「そうなんだ。あ、届け物といえばこれ、うちのお母さんから」
「……おばちゃんから?」
「うん。おじさんおばさんに届けてほしいって」
「わかった」
包みを渡したあと、エプロンを身に着ける。
「今日は何しよう?」
「パンケーキ焼いてくれ」
「はーい」
「……めんどくせぇから、今日はカレーだ」
言いながら、ジャミルはじゃがいもの皮をむき始める。
「……」
「……」
「……」
「……」
(う……気まずい……)
2人とも何も喋らず、ボウルをシャカシャカ混ぜる音、包丁の音、時計の針の音だけが響く。
グレンさんとルカはなかなか帰ってこない。
沈黙の時間……。どうしよう、何か話さなきゃ、何か……。
(……そうだ!)
「あの……ジャミルは、酒場の厨房で働いてるんだよね!」
「あ? ああ」
「すごいね! ジャミルの料理すっごくおいしいもんね!」
「……声、でかくね?」
「は、そ、そうかな……ごめん。あはは」
せっかく話題を見つけたのに、必要以上にビックリマークをつけてしゃべってしまっていたのを指摘されてしまった。
愛想笑いでごまかしたけど、失敗しちゃったかも……。
ホットケーキを焼きながら次の話題を見つける。
「グレンさんとルカ、遅いね……。あの、ジャミルはあの2人とどうやって知り合ったの?」
「オレが働いてる酒場に客としてやってきて、ルカのやつがアホほど食った。20万くらい」
ジャミルはすでに20個くらいのじゃがいもの皮むきを終え、続いて人参の皮を剥いている。かなり手際がいい。
「に、にじゅうまん――」
「グレンはそん時手持ちがなかったから、家まで取りに行った。そのまま逃げないようにオレはその見張りとしてついていった」
「へ、へぇ……」
――シスコン扱いに食い逃げ扱い。なんだか散々だな、グレンさん……。
「――で、あとはまあ、色々あってこうなった」
(その色々が知りたいんだけどな~~)
『色々』って言われたらもう、話題の取っ掛かりがない気がしてくる。
これ以上突っ込むな 的な……考えすぎかな?
「……パンケーキ」
「あっ!」
厨房の入り口にルカが立っていた。
『瞬間移動のお約束』を守って、ちゃんと離れた所に出てきてくれたみたいだ。
「ああ、2人とも来てたのか」
ル少し遅れて、グレンさんも登場した。
「おはようございます」
「ああ。……にんじんとじゃがいもと玉ねぎ……なるほど、さてはカレーだな」
(『さては』って、別に難しくもなんともないような……)
「ジャミル君。カレーは甘いのにしてくれよな。俺辛いの苦手なんだ。あま――――いの頼む」
「わーってるよ。ったく、甘いの甘いのっていい大人が……いくつだよアンタはよ」
「俺? 確か25……いや、26になったな、昨日」
「えっ、グレンさん昨日誕生日だったんですか?」
「ああ」
「おめでとうございます!」
「ん? ……ああ、ありがとう」
グレンさんは少し驚いたような顔で返事をする。誕生日とか、あまり祝ったりしないのかな?
「……なんだよ、言えよ。なんか一品作ってやろうか?」
「ええっ 何それジャミル君優しい……」
両手で口を覆いながら、グレンさんがジャミルを見つめた。
乙女みたいだ。……ルカとかがやったらかわいいけど……。
見つめられたジャミルはすごく嫌そうな顔をしている。
「……気持ち悪。ええと……、肉とかでいいか?」
「食えるならなんでもいいです」
(ジャミル……)
――そうだ。
彼は口がちょっと悪いけど、優しくて面倒見がいい。そういう子だった。
5年前に悲しい出来事があったけど、変わっていないんだ――。