第97話 もう倒しちゃった(てへぺろ)
「なぜ赤子がこんなところにっ? というか今、喋らなかったか!?」
「うん。僕、喋れる赤子なんだ」
「~~っ!?」
驚愕しているゼブラに、モルデアが注意する。
「気を付けてください! そいつはただの赤子ではありません!」
「んなこと見たら分かる! ただの赤子が喋れるか!」
「いえ、そういう次元ではなく、この赤子はこれでもBランク冒険者なのです」
「は? び、Bランク冒険者だと!? こんな乳飲み子が!?」
「Bランクどころか、下手をすればそれ以上の可能性もあります。我々が仕掛けた強化レッドドラゴンが倒されたときにも、この赤子が大いに活躍したとの話が……」
「お、おいおい、そいつがほんとなら、何でそんな奴を連れて来やがったんだよっ?」
「仕方がないでしょう。この場所を突き止めたのが、その赤子なのですから」
元から彼らは、モルデアの不意打ちによってギルド長を亡き者にしようと計画していたのだろう。
だが俺が拠点を突き止めるという想定外の事態となったことで、急遽それを実行することにしたのだと思われる。
それでもここまでは上手くいっていた。
もし俺がいなければ、彼らの目論見通りになっていたに違いない。
「ですが、確かにその赤子の力は未知数でも、わたくしたち二人にかかれば余裕で……」
ドオオオンッ!
轟音と共にゼブラが吹き飛び、数十メートルほど離れたダンジョンの壁に激突。
そのまま動かなくなってしまった。
「……は? ゼブラ……?」
「あ、ごめんねー、もう倒しちゃった(てへぺろ)」
「~~~~っ!?」
目を大きく見開くモルデアに、俺は念のため断っておく。
「僕にはBランク冒険者相応の力しかないよ?」
「そんなわけあるかああああああっ!」
モルデアが杖を構えた。
「サンダーパラライズっ!」
先ほどギルド長に使った魔法だ。
麻痺性の雷撃が飛んでくるが、俺はそれを亜空間から取り出したバハムートであっさりと受け止める。
『ああああマスタあああマスタあああマスタあああマスタあああマスああタあああマスタあああマスタあああああっ! ビリビリするうううううっ! はぁっ、この刺激はもしかしてっ……マスターの愛の証いいいっ!?』
『いや、ただの敵が放った雷撃だ』
俺の杖であるバハムートにはあらゆる魔法への耐性がある。
あの程度の魔法を受けることくらい造作もないことだった。
「な、な、な……何ですか、その杖はっ!? こんな恐ろしい気配を持つ杖などっ……み、見たことがない……っ!」
震えながら後退するモルデア。
『もしかして……あいつ、マスターの敵……? 殺すね……』
口から闇のブレスを吐こうとするバハムートを、俺は慌てて止めた。
『待て待て。勝手に殺そうとするな。それより』
俺は咄嗟にバハムートを振り上げ、背後からの攻撃をガードした。
ガキイイイインッ!!
「ちぃっ!」
舌打ちと共に飛び退ったのはゼブラだ。
「ゼブラ……っ!」
「おじちゃん、まだ生きてたんだー」
「今のを受け止めるとは……てめぇ、やっぱりどう考えても赤子じゃねぇだろ!」
忌々しげに吠えるゼブラの手には、先ほどまではなかった禍々しい意匠の剣が握られていた。
「……んー、それ、かなり危ない剣だね?」
「くくくっ、その通りだ。こいつは呪いの魔剣でなァ、手にした者の寿命と引き換えに、凄まじい力を与えてくれる……できれば使いたくなかったが、致し方ねぇ!」
魔剣から膨れ上がる凄まじくも悍ましい魔力。
それと引き換えるように、ゼブラの顔がどんどんやつれていく。
「死ねぇ、クソガキぃぃぃぃぃっ!」
全身から血管を浮き出させ、躍りかかってくる。
『バハムート。喰えるか?』
『もちろんなのおおおおおっ!』
次の瞬間、杖の竜頭部分が巨大化。
さらに鞭のように伸びたかと思うと、大きく口を開けながらゼブラに襲いかかり――
ゴクン。
――手にした呪いの魔剣を丸呑みしてしまった。
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