第94話 案内を頼むぞ
「それでは皆さん、準備はよろしいですか?」
ダンジョンの入り口に集まった冒険者たちにそう呼びかけたのは、副ギルド長のハーフエルフ、モルデアだ。
「この街を拠点にしているAランクの冒険者たちが勢ぞろい……そうそうたるメンツだな」
「ああ。それだけギルドとしても気合が入ってんだろ。なにせ、ギルド長と副ギルド長の二人まで参加しているくらいだからな」
「噂じゃ、今でも現役時代と大差ない実力を保ってるらしいぜ」
反冒険者ギルド組織〝リベリオン〟を壊滅へと追い込むため、これからダンジョン内にあると思われる彼らの拠点へと攻め込む予定だった。
僅か二日の間に招集されたのは、五名のAランク冒険者たちに加えて、Bランクの中でも選りすぐりの実力者たち十名だ。
その五名の中には、ゲイン、それにエミリーも加わっている。
一方Bランクから選抜された十名の中には、ファナとアンジェ、そして俺もいた。
ちなみにギルド長――名前はアークというらしい――は現役をすでに引退しているが、元Sランク冒険者だという。
そしてモルデアは元Aランクだ。
いざ出発というときになって、ギルド長が口を開く。
「これだけの戦力なら余裕だ……なんて思っているかもしれないが、油断は禁物だ。奴らのリーダーは、俺の予想が正しければAランク冒険者だった男だろう。俺もよく知っているが、戦闘能力もさることながら、頭の回る小賢しい人間だ。この任務、そう簡単にはいかないと思った方がいい。気を引き締めていくぞ」
「「「は、はいっ!」」」
緊張感が高まったところで、ギルド長は俺の方を向いて、
「よし、では案内を頼むぞ」
「任せてよ」
目印はしばらく動いていない。
あの直後に恐らく拠点を移動したのだろう、一度大きく場所を変えて以降は、ずっと同じところに留まっていた。
深さから言って、だいたい十階層あたりか。
抱きかかえてくれているファナに指示を出しながら、集団の先頭でダンジョンを進んでいく。
「……それにしても、本当に追跡などできるのでしょうか? 追跡魔法も決して万能ではありません。熟練の魔法使いであっても、平面上で一キロが限度。それに数時間も経てば、追うのが難しくなります。しかしダンジョンは階層があるため立体的な追跡が必要になる上、二日も経過しています。ましてやこのように魔力の濃い場所では、より難易度が高くなるはず……」
モルデアがギルド長の耳元で、ひそひそとそんなことを話している。
聞こえているぞー。
「これだけの戦力を集めながら、無駄足になるかもしれません」
「普通ならそうなのだろう。だが恐らくあの赤子は普通ではない。俺の勘がそう言っている。万一、無駄足になったとしたら、そのときはそのときだ」
「……」
やがて十階層へと辿り着く。
洞窟内の各所が水没しており、それゆえサハギンという半魚人の魔物がよく出現する階層だ。
「ギョギョギョ!」という鳴き声を上げながら襲い掛かってくる半魚人を一蹴しつつ、やがてとある水溜まりの手前で立ち止まった。
「この水溜りの先だね」
「……泳いでいくということですか?」
「ううん、その必要はないよ。ファナお姉ちゃん、そのまま入っていって」
「ん」
嫌そうな顔をするモルデアに首を振ってから、ファナに指示を出す。
飛び込むと同時、水魔法によって水溜りを真っ二つに割った。
ファナは割れた水溜りの底へと着地する。
左右を見ると、水中で驚愕する半魚人たちの姿があった。
「みんなも続いてよ」
「……ま、まさか、これだけの量の水を操作するとは……」
「まるで海を割ったという伝説の英雄だ……」
「本当にあの赤子がやったのか……?」
なぜか大袈裟に驚いている。
海ならともかく、この程度の水量なら大したことないと思うんだが。
そうして水没した場所を通り抜けた先。
ついに目的地に到着したのだった。
「テントがある!」
「間違いない。奴らの拠点だ!」
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