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第89話 犯人に訊いてみたらいいと思うよ

 レッドドラゴンを倒した俺は、皆の元へと引き返してきた。


「「「…………」」」


 揃って口をあんぐりと開け、間抜けな顔を晒している。


「あれ? どうしたの? レッドドラゴン、やっつけたからもう大丈夫だよ?」


 俺が声をかけてみても、しばらくそのまま動かなかった。

 ようやく最初に言葉を発したのは、ファナとアンジェだ。


「師匠。相変わらず、次元が違う」

「そうね……まさか瞬殺するとか……」


 続いて声を上げたのはエミリーだ。


「い、いやいやいやいやいや!? 今、何したのよーっ!? レッドドラゴンがいきなり膨らんだかと思ったら、そのまま倒れたんだけどーっ!?」

「体内に魔法を放っただけだよ。鱗に護られているドラゴンは、外側より内側から攻撃した方が効率よくダメージを与えられるからね」


 もっとも、体内も決して強度が低いというわけではないのだが。

 自らが作り出すブレスに耐えられるように、魔力の膜で臓器を覆っているからな。


「だからって、あんなに簡単に倒せる……?」


 ……うーむ、さすがにちょっとやり過ぎたらしい。

 あまり戦う様子を見せない方が実力を隠せると思って、一撃で決めてみたのだが、逆効果だったかもしれない。


「きっとお姉ちゃんたちがダメージを与えてくれていたお陰だね! 元からラスト一発で死ぬところで、たまたま偶然、運よく、幸運にも、僕が最後の一撃を与えたみたい!」

「さすがに無理があるわよーっ!」


 と、そこで意識を失っていたゲインが目を覚ます。


「う……お、俺は一体……? はっ? レッドドラゴンは!?」


 慌てて身を起こす彼に、エミリーが苦笑気味に言った。


「あの通りよー」

「っ!? レッドドラゴンが……死んでる……?」


 呆然と呟くゲイン。


「ま、まさか、倒したのか……? 明らかに異常個体だったが……」

「うん! ファナお姉ちゃんとアンジェお姉ちゃんが頑張ってくれたんだ!」

「君、是が非でも他人の手柄にしたいみたいねー?」


 エミリーが溜息を吐いて、


「まー、何にしても助かったよー。それにしてもあの結界といい、なんだか色々ときな臭いよねー?」

「ん。まるで罠」

「そうね。何者かが、あたしたちを一網打尽にしてやろうと、あらかじめ仕掛けていたんじゃないかってくらい」


 ファナとアンジェが同意を示す。


「けどよ、今回の試験は冒険者ギルドが主催だろ? だとしたら……」

「いや、試験官の二人も危ないところだったんだ。特にゲイン氏は俺たちを命懸けで護ってくれた。二人が意図的にやったとは考えにくい」

「じゃあ一体……」


 首を傾げる他の受験者たち。

 俺はそんな彼らに言った。


「犯人に訊いてみたらいいと思うよ」

「「「え?」」」


 俺は土と水の魔法を使い、泥水を作り出す。

 それをとある方向に向けて、思い切り打ち放った。


 バシャアアアンッ!!


「ちょっ、急に何やってるのーっ?」

「いや、エミリー、あれを見ろ……っ!」


 泥水をぶっかけた場所。

 そこに人の形をした泥の塊が出現していた。


 以前、透明化の能力を与えられたミノタウロス相手にやったのと同じ方法だ。

 泥水を被ったことで、隠れていた姿が浮かび上がるのである。


 恐らく透明化ではなく、隠蔽魔法で姿を隠していたようだが、そうした場合にも効果があった。

 隠蔽を強引に解除させることも可能だが、この方法だと手軽で省エネなのだ。


「だ、誰かいるぞ!?」

「何者だ!?」

「くっ……」

「逃げたぞ!?」

「ん。逃がさない」


 即座に逃走を図った謎の人物へ、ファナが一瞬で距離を詰める。

 逃げきれないと悟ったのか、応戦しようと魔法を放つ謎の人物だったが、ファナはそれをあっさり回避。


「がぁっ!?」


 ファナの斬撃を喰らって、血飛沫が舞う。


「ファナお姉ちゃん、話を聞きたいから殺さないように手加減してよ!」

「……ん、もう少し早く言って」


 遅かったか!


 血を噴き出しながら倒れ込む謎の人物。

 俺は慌てて駆け寄ると、治癒魔法を施すのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] もう、堂々とAクラスになっちまえよ その方が驚きが少なくなる分(残りはAクラス補正が仕事する)、目立たないよ
[一言] 殺さないでと言ったけど 痛めつけないでとは言っていない そういう意味では、結果的に正解?
[一言] 師匠誤魔化すには、やり過ぎたと思います。犯人も見付けてますし…殺さないようにでも逃げないように、ほどほどの回復を…(苦笑い)どうして、犯人は、罠にかけたのかがスッゴク気になります。続き楽しみ…
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