第83話 どれをとっても厄介だぞ
エスケイプリザードなる魔物を倒し、この場所まで持ち帰る。
それが一次試験の内容らしい。
試験官のゲインがその魔物の特徴を簡単に説明した。
「全長二メートルほどの蜥蜴の魔物だ。強さはさほどではないが、とにかく動きが素早く、さらに全身の色を変えることで、カメレオンのように周囲の光景に溶け込むことができる。この階層内にいる蜥蜴の魔物はこの一体だけなので、他の魔物と間違えることはないはずだ」
随分とシンプルで分かりやすい試験だな。
「じゃあ、お姉ちゃんたち頑張ってね」
「ん。頑張る」
「すぐに捕まえてくるわ」
邪魔をしては悪いので、俺はこの場所に残ることに。
ファナが地面に降ろしてくれる。
それを咎めたのがゲインだ。
「ちょっと待て。そいつをここに置いていくつもりか? まさか俺たちにお守りをしろというわけではないだろうな?」
「師匠にその必要はない」
「師匠?」
俺は赤子スマイルでゲインに話しかけた。
「大丈夫だよ、試験官のおじちゃん。僕こう見えてもBランク冒険者だから」
「なっ!? しゃ、喋っただと!?」
ゲインが目を見開き、受験者たちもざわつき出す。
「ん。師匠は喋る赤子」
「……あんたは相変わらず何の説明にもなってないわね。といっても、上手く説明するのも難しいんだけど……とにかく、見ての通り普通の赤子じゃないのよ。当人が言う通りBランクの冒険者で、ちゃんとギルド証も持っているわ」
俺がギルド証を見せると、ゲインは「ほ、本物だ……」と呻いた。
「俄かには理解しがたいが……ひとまず信じるとしよう」
「というか、逆に本当にBランク冒険者だったら、そもそも試験に同行しちゃダメなんだけどねー」
そう指摘したのはもう一人の試験官エミリーだ。
「そうなの、試験官のお姉ちゃん? 別に手を貸したりなんてしないよ?」
「それもだけど、試験対策されちゃうと困るから、見学できないようにしてるんだよねー。まー、仕方ないから今回は黙っておいてあげるけどねー」
どうやら特別に許してくれるらしい。
ハーフエルフの受付嬢が教えてくれなかったのは、まさか俺が冒険者だとは思わなかったからだろう。
気を取り直して、ゲインが試験開始を告げた。
「では、始め!」
受験者たちが一斉に動き出す。
一時間もあるなら十分な余裕がありそうだけれど、逆にそれだけ目的の魔物を捕まえるのが難しいということかもしれない。
「それにしても、まさかこんな赤子がBランク冒険者だとは……」
「実はうち、チラッと噂を聞いててさー。なんでも史上最年少のBランク冒険者が誕生したとかしないとか。ゼロ歳児とか言ってたから、あー、これは嘘くさいなーって思ってたんだけど」
試験官たちがそんなやり取りをする中、俺は索敵魔法を使って、周辺を軽く調査してみた。
おっ、かなり近いところに魔物がいるな。
あの岩の辺りか。
だが目を凝らしてみても、それらしき影が見当たらない。
ただ何となく違和感があった。
もしかしてあそこにそのエスケイプリザードとやらがいるのでは?
そう考えた俺は、地面を蹴って一瞬でその場所へと接近。
こちらに気づいたのか、そこに感じていた魔力反応が猛スピードで動き出すのが分かった。
「逃がさないよっと」
「~~~~っ!?」
しかしそこからさらに加速して、逃げようとするその身体に蹴りを見舞う。
はっきりとは見えないが、何かを蹴り飛ばした確かな感触があった。
「おっ、姿が……」
褐色の鱗に覆われた身体が現れる。
戦闘力自体は大したことないと聞いていたが、本当にその通りだったようで、今の一撃で完全に気を失っていた。
恐らく鱗を岩と同じような色に代えることで、そこに身を潜めていたのだろう。
俺はエスケイプリザードの尻尾を引っ張って、元の場所まで戻った。
「どれくらいで戻ってくるかなー?」
「どんなに早くても三十分はかかるだろうな。恐らく最後まで捕まえられない奴は半分ほどだ」
「つまり半分はここで脱落しちゃうってことかー」
「簡単そうに思える試験だが、実は相当な難易度だ。変色能力のせいで見つけづらい上に、警戒心が強くて近づけばすぐに逃げ出す、しかも信じられないほどの素早さ。どれをとっても厄介だぞ」
試験官たちは今度はそんな話をしている。
……全然大したことなかったけどな?
とそのとき、二人がほぼ同時にこちらを振り返った。
「おい、あまりここか離れるんじゃな――」
「そうだよー、近くにいないと、危ない――」
「「――って、何でここにエスケイプリザードが!?」」
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