第82話 もう手遅れじゃないかしら
昇格試験の受験登録が無事に終わった。
「師匠も推薦貰っておけばよかったのに」
「そういえばそうね。何で貰わなかったのよ?」
と、今さらながら二人が指摘してくる。
「今からでも遅くない。ここのギルド長を倒して推薦を貰うべき」
「さすがに受けてくれないんじゃないの?」
「……強引に襲いかかる?」
「物騒なこと言うわね……。そもそもギルド長ごとに推薦の出し方も違うはずよ」
俺としてはそもそもAランクに昇格するつもりはなかった。
あまり目立ち過ぎないようにしようと考えているからだ。
「……もう手遅れじゃないかしら?」
「そんなことないと思うよ。この街は僕のこと知らない人ばかりだしね」
ベガルティアにある国内最大級のダンジョン――『ベガルティア大迷宮』。
それは冒険者ギルドの地下に存在していた。
発見されたダンジョンのすぐ真上に、現在の街が作られたのだという。
ダンジョンのお陰で発展し、現在もそのダンジョン資源こそが主要産業となっているこの街は、物理的にもダンジョンと一体となっているのである。
Aランクへの昇格試験は、どうやらそのダンジョンで行われるらしい。
ギルドの地下にある入り口前に、試験を受ける冒険者たちが集まっていた。
ファンやアンジェを含めて、受験者は全部で十五人ほど。
もちろん全員がBランク冒険者であるはずだ。
「いよいよね」
「ん」
「どんな試験かは分からないけど、あたしは絶対にこの一回で受かってやるわ」
「右に同じ」
毎回十人から二十人くらいが受験するそうだが、その中から合格者が一人も出ないことも少なくないという。
まぁあのボランテのギルド長が元Aランク冒険者だというし、恐らく今の二人なら余裕で合格できるだろう。
「おいおい、子連れの小娘がいるぜ。あれも受験者か?」
「はっ、舐めてやがんな」
俺を抱きかかえているファナを見て、そう吐き捨てる受験者たちがいた。
もちろん二人のためにも、俺は試験中にいっさい手を貸すつもりはなく、ただの見学だ。
「……全員、集まったようだな」
試験官らしき男が集まった人数を確認しながら告げる。
「俺は今回の試験を担当させてもらうAランク冒険者のゲインだ」
「そしてうちはエミリー。同じくAランクで、試験官だよー。よろしくねー」
さらにその横にいる小柄な女が、ピリついた雰囲気の中で場違いなほど明るく言う。
「これより試験の舞台となる場所へと向かう。大人しく付いてくるように。途中で逸れたらそこで失格だ」
ゲインと名乗った男はそれだけ伝えると、さっさと階段を降りていく。
ギルドの地下にぽっかりと開いた大きな穴に、螺旋状の階段が設置されている。
これこそが件の国内最大級ダンジョンの入り口らしい。
階段を降りると、そこから先は広大な洞窟となっていた。
ゲインは受験者たちを先導して、複雑に入り組んだ道を進んでいく。
「「「グギェギェギェ!」」」
一行の前に現れたのは、三体のゴブリンだ。
襲いかかってくるゴブリンたちに、しかし先頭を行くゲインは動じるどころか、腰に提げた剣を抜くこともなかった。
最初の一体の顔面を鷲掴みにすると、残る二体に向かって放り投げる。
「「「ギャッ!?」」」
三体まとめて吹き飛び、地面を転がる。
それだけで力の差を悟ったのか、ゴブリンたちは我先にと逃げていった。
ダンジョンにも色んなタイプがある。
入り口から奥までずっと難易度が一定のダンジョンもあれば、入り口から奥に行けば行くほど難易度が上がっていくダンジョンもあった。
この『ベガルティア大迷宮』は後者らしい。
階層構造になっていて、浅い階層には主にゴブリンなどの弱い魔物が棲息。
そして深く潜っていくほど、凶悪な魔物が出没するようになるという。
つまりは初心者から上級者まで利用できる、とても便利なダンジョンなのだ。
だからこそ、各地から多くの冒険者が集まってきて、これだけの街へと発展を遂げることができたのだろう。
もちろんAランクへの昇格試験が、浅い階層で行われるはずもなく。
それからしばらくの間、ひたすらダンジョンを深く潜っていくだけの時間が続いたのだった。
幾度となく下層への階段を降り続け。
やがて辿り着いたのは、第十五階層。
洞窟内に木々が生え茂ったその階層で足を止めると、試験官のゲインがようやく告げたのだった。
「それでは今から一次試験を開始する。制限時間は一時間。それまでにこの階層に棲息している魔物――エスケイプリザードを一体討伐し、その死体をこの場所まで持ち帰れ」
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