第72話 現役じゃないんだし
儂の名はドルジェ。
ここボランテの街でギルド長をしている。
Aランク冒険者として活躍した儂も、現役を引退して早十数年。
しかし現在でも訓練を続け、時々魔物を狩ったりしているため、今でもそこらの冒険者に負けない力があると自負している。
実際、現役のBランク冒険者と一対一で戦っても、ほとんど勝っているくらいだった。
Aランク冒険者になるための試験には、ギルド長である儂の推薦が必要だ。
その推薦の可否を判断するため、儂は自ら冒険者の相手をしているのである。
儂と良い勝負をした奴なら、大抵は本試験にも合格できるだろう。
現在この街を拠点にしている冒険者に中に、Bランクは全部で十五人いる。
一人は規格外すぎるので除外するとして……この中でいずれ確実にAランクになれるだろうと考えているのは二人。
ファナとアンジェ。
どちらもまだ十代後半の若い女性冒険者だ。
才能的にはAランクに到達するのに申し分ない。
とはいえ、まだまだ経験も浅いし、現在の実力を考えればあと数年は先だろう。
そう思っていたのだが……なんとたった二人で、危険度Aの魔物を倒してしまったという。
巨人アトラス。
俺も現役時代に戦ったことがあるが、途轍もないパワーと耐久力を持つ強敵だ。
それを討伐したというのは、俄かには信じがたかったが、もし本当なら現時点で、すでにAランク相当の実力があることになる。
そこで儂は、二人を相手に一対一の予備試験を行うことにしたのだ。
相応の実力があればよし。
なければこの辺りで一度、手痛い挫折を味わわせておいた方が、将来的に彼女たちのためになるだろう。
若くして才能を開花させた奴というのは、どうしても傲慢になったり、胡坐をかいたりして、そこから伸び悩むことも多いからな。
「どちらからやる?」
「あたしから行くわ」
「ん。勝てそう?」
「どうかしら? 元Aランク冒険者っていっても、現役じゃないんだし」
「聞こえてるんだが……。アトラスを倒したからと言って、調子に乗っていては痛い目に見るぞ? 儂はまだまだお前たちのような小娘には負けん!」
……やはりイキがっているようだ。
こいつはしっかりと思い知らせてやらねばならんな。
どうやら最初はアンジェからのようだ。
「さあ、いつでもかかってくるがいい!」
ハルバードを構え、意気揚々と宣言する。
次の瞬間だった。
アンジェが地面を蹴ったかと思うと、信じがたい速度で距離を詰めてきたのだ。
「……は、速っ!?」
迫る拳を、ハルバードの柄で咄嗟に防ぐ。
「~~~~っ!?」
お、重すぎる!?
戦闘民族として知られるアマゾネスとはいえ、華奢な少女の拳だ。
なのに、まるでハイオークの突進を喰らったかのような衝撃で、百キロ近くある儂の身体が吹き飛ばされてしまう。
しかもたった一撃で腕がめちゃくちゃ痺れたんだが!?
「ちょっ……マジか……っ!?」
「はあああああああっ!」
さらに容赦ない追撃。
麻痺しかけた腕を必死に動かして、どうにか対応する。
いやいやいやいや!?
おかしいおかしいおかしい!
儂は元Aランク冒険者だぞ!?
何でここまで圧倒されているんだ!?
現役時代には、ほとんど単身でアトラスを倒したことだってある。
……死にかけたりはしたが。
ん、待てよ?
ダンジョンの未発見領域にいたボスがアトラスだったと聞いた。
ダンジョンに現れるボスモンスターというのは、通常種よりも凶悪化していることも多い。
もし二人が討伐したのも、通常種を凌駕するようなアトラスだったとすれば――
「っ!?」
って、消えた!?
突如として予想外の動きをされ、アンジェの姿を見失ってしまったのだ。
やばいやばいやばい!
はっ!?
背後から凄まじい気配が……。
「はぁっ!」
「ぶごおおおっ!?」
振り返る暇もなく後頭部に強烈な衝撃が来て、儂の意識は暗転した。
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