第68話 その辺に隠れてるから
「オアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
こちらの侵入に気づいて、ボスモンスターのアトラスが大咆哮を轟かせる。
ボスモンスターというのは、ダンジョンなどに出現する強力な魔物のことだ。
他の魔物とは桁違いの強さを持ち、それゆえ討伐は容易ではない。
ここ『岩壁の洞窟』の正規ルートのボスも別にいて、そっちはエルダーコボルトだ。
アトラスはこの未発見領域のボスということになる。
「ちょっ、こんなのと戦えっていうの!?」
「大丈夫。二人で協力してくれたらいいから」
「二人でも無理でしょ!?」
アンジェが抗議している間にも、アトラスが地響きと共にこっちに襲いかかってきた。
「じゃあ、僕はその辺に隠れてるから」
俺は隠蔽魔法で姿を消す。
「っ!? 消えた!?」
「……やるしかない」
覚悟を決めたように剣を構えるファナ。
そこへアトラスが二人を潰そうと足を踏み降ろしてくる。
ズドオオオオオオンッ!
凄まじい轟音と共に地面が粉砕したが、ファナとアンジェはその前に両側へと飛び退いていた。
揺れ続ける地面に着地してはマズいと判断したのか、空中を蹴ってアトラスに反撃する。
「えい」
「はぁぁぁっ!」
二人の攻撃がそれぞれアトラスの巨躯に叩き込まれた。
「……効いてない」
「っ! さすがにデカいだけあって頑丈ねっ!」
思ったほどの手応えがなかったようで、二人とも顔を顰める。
それでもアトラスにとってはそれなりに痛かったのか、怒ったように雄叫びを上げると、その巨大な両腕を思い切り振り回した。
「「~~~~~~っ!?」」
それをまともに喰らって、吹き飛ばされるファナとアンジェ。
ダンジョンの壁に凄まじい勢いで激突した。
「……痛い」
「ただ腕を振っただけでこのダメージ……力強すぎでしょっ……」
どうやら無事のようだ。
うんうん、俺が教えた通り、咄嗟に身体強化を防御に集中させて身を護ったみたいだな。
身体強化魔法の応用。
それは特定の能力に強化を集中させることで、何倍もの強化量に跳ね上げるというもの。
もちろん攻撃力を重点強化させることも可能だ。
「オアアアアアアッ!?」
二人がお返しとばかりに繰り出した攻撃を浴びて、アトラスが苦痛の咆哮を上げた。
先ほどより明らかにダメージを受けているのは、攻撃の瞬間に、攻撃力を重点強化させたからだろう。
それでもあの巨体だ。
そう簡単には倒すことができない。
再び腕を振り回して、空中を飛び回る二人を叩き落とそうとするアトラス。
だが二人も同じ手を何度も喰らうほど間抜けではない。
アトラスの予備動作から攻撃を予測し、天翔を使って回避していく。
憤ったアトラスは地団太を踏んで地震を巻き起こすが、空中にいるファナたちには効果がない。
一方で二人の攻撃も決め手に欠けた。
やはりデカいだけあって、アトラスは相応の耐久力を持っているらしい。
幾ら魔力量が増えたと言って、このままでは先に魔力が枯渇しかねない。
そう考えた彼女たちは勝負に出た。
「あたしがあいつの体勢を崩すわ! その瞬間を狙って、あんたの全力を叩きつけなさいっ!」
「ん、了解」
アンジェの指示にファナが即応し、距離を取るため大きく後退する。
それを咄嗟にアトラスが追いかけようとするが、
「あんたの相手はこっちよ!」
アトラスの足指目がけて、アンジェが強烈な踵落としを見舞う。
……あれは痛い。
「オアアア~~~~ッ!?」
苦悶の叫びと共に、激怒したアトラスが足元にいるアンジェを踏み潰そうとするも、彼女はそれをどうにか躱していく。
とそのとき、アトラスの片足が突如として地面に沈み始めた。
「~~~~ッ!?」
「……癪だけど、確かに習得しておいてよかったわ」
地面を液状化させ、相手の機動力を削ぐ土魔法だ。
アトラスの攻撃を躱しながら魔法を発動したのである。
バランスを崩して、地面に倒れ込むアトラス。
「今よ!」
「ん!」
後退していたファナが風を纏いながら疾走する。
一陣の風と化した彼女は、低い位置にまで降りてきたアトラスの顔面へ、強烈な突進をお見舞いしたのだった。
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