第47話 邪魔になるに決まってる
「ダンジョンで異変?」
「そうなのよ」
ダンジョン。
それは魔物や罠が蔓延る危険な迷宮のことだ。
人工的な建造物が長き年月を経てダンジョン化することもあれば、濃密な魔力が集まることで自然発生的に生じるケースもある。
その大きさや難易度も様々だが、希少なアイテムや素材が手に入ることもあるため、多くの冒険者たちが一獲千金を求めて挑み続けている。
この街から最も近い場所にあるダンジョンは、『岩壁の洞窟』というらしい。
断崖絶壁の中腹辺りに入り口があるために付けられた名前だとか。
「本来、このダンジョンの推奨ランクはDからC。すなわち、Dランク冒険者やCランク冒険者などの中堅冒険者に適した難易度とされているの。だけどここ最近、明らかに彼らには手に負えないようなレベルの魔物が確認されてて……」
「なるほど。でも、ダンジョンは常に変化してるから、そんなふうに難易度が上がっちゃうのは別に珍しいことじゃないよね?」
「よく知ってるわね、レウスくん。さすがよ。……あーあぁ、こ~んな賢い子が子供だったらいいのになぁ」
「急にアピールしてこなくていいから」
そんなに俺のお金が欲しいのだろうか。
ふむ、それなら養子云々は別にして、金で彼女の身体を買うというのも……。
『さすがはマスター、不潔極まりない発想ですね』
褒められた。
『褒めていないです』
そしてそのダンジョンの調査を行うため、できる限り上級冒険者たちを集めているところなのだという。
ちなみに現在この街を拠点にしている冒険者は、Bランクが最高で、俺を含めて全部で十五人ほどいるらしい。
基本的にはCランクの上位から、Bランクまでの冒険者が参加予定だそうだ。
「Aランク以上ははいないの?」
「Aランク冒険者なんて、国内でもせいぜい数人程度だもの。BランクとAランクの間には、天と地ほどの差があるのよ。Sランクに至っては、世界でも数えるほどしかいないし」
Aランク冒険者になるためには、一部の大都市にある冒険者ギルドで行われる試験に合格しなければならないという。
「試験を受けるにも、ギルド長の推薦が必要なのよ。今のところBランクのファナさんとアンジェさんが、最も推薦に近い冒険者ね。二人ともまだ若いし、将来的には間違いなくAランクになれると思うわ。……まぁ、ここに遥かに若い子がいるけど」
イリアのお願いを聞くことにした。
上級冒険者限定の依頼だけあって、報酬もそれなりに高かったし、何よりどうやらファナも受けるらしかったためだ。
そうしてダンジョンがあるという岩場に集まったのは、Bランク冒険者ばかりの十一人だった。
お馴染みのバダクたちのパーティ五人組に、試験のときに世話になったマリシアが率いるパーティ三人組、それからファナと俺に加えて、あの赤髪のアマゾネス少女アンジェである。
ほとんどが見知った顔だな。
「ひっ、またいるし……」
チルダが俺に気づいて頬を引き攣らせる。
そんなに怖がらなくてもいいのにな……。
かわいいかわいい赤ちゃんだよー?
にっこり赤ちゃんスマイルをしていると、アマゾネスのアンジェが苛立った様子でこっちに歩いてきた。
こっちに、というか、俺はファナに抱きかかえられている状態なので、ファナの方に近づいてきたと言った方がいいだろう。
「あんた、なに考えてんのよ? これからダンジョンに潜るのよ? そんな子供を連れていくつもりじゃないでしょうね?」
「? 一緒に潜る」
「はあ? 馬鹿なの? そんな足手まといの赤子、邪魔になるに決まってるでしょうが」
「そんなことはない」
「……あんた、マジで言ってんの? ハァ……あんたのこと、少しでもライバルだと思ってたあたしが馬鹿だったわ」
呆れ返ったように溜息を吐くアンジェ。
……なるほど、どうやらこのアマゾネス少女、まったく友達がいないようだ。
すでに冒険者たちの間で俺のことは周知の事実になっているし、一人でも友達がいたなら、話しくらいは聞いているはずだからな。
「お姉ちゃん、こんにちは。こう見えて僕もBランクの冒険者だよ」
「……は? あ、あ、あ、赤子が喋ったああああああああああっ!?」
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