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第37話 男はお呼びじゃねぇよ

「だって、君ってどんな危険な目に遭っても大丈夫な赤子でしょ?」

「否定はしないけど……」


 その日、俺はイリアからとあるお願いをされていた。


 どうやら最近、この街で赤子の連れ去り事件が多発しているらしい。

 その被害者たちが赤子の捜索をしてほしいとギルドに依頼を寄せているそうだが、手掛かりなど何もない状態なので、実際の赤子を使った囮作戦はどうかという案が出たという。


 だが本当の赤子を危険な目に遭わすわけにはいかない。

 そこで俺に白羽の矢が立ったようだった。


「ぜひとも君の力を借りたいんだ。君の実力は実技試験のときによく分かっているし」

「私たちなんかよりずっと強いものね」


 声をかけてくるのは、冒険者試験のときに試験官を担当してくれた二人だった。

 Cランク冒険者のロットとラナ、だったか。


「一応、君は私たちの子供っていう設定なの」


 二人が夫婦役、そして俺が彼らの赤子役を演じて、犯人を誘き寄せる作戦らしい。

 俺はラナの胸を見ながら言った。


「いいよ」

『……マスター? 今、彼女の胸の大きさを確認しませんでしたか?』


 別に胸を堪能したいから引き受けたわけじゃないぞ?

 あくまでこの痛ましい事件解決のために力を貸したい、という百パーセントの善意からだ(キリッ)。


「本当かいっ? それは助かるよ!」


 そう言って、ロットが俺を抱え上げ、嬉しそうに抱き締めてきた。


 いや男はお呼びじゃねぇよ……っ!








 俺たちは人気の少ない道を歩いていた。

 いわゆる閑静な住宅街で、これまでに発生した連れ去り事件でも、比較的多くその現場となっているのがこの手の場所だった。


「……本当に来るかしら」

「分からない。でもその可能性を信じて地道に待つしかないね。それより怪しまれないよう、ちゃんと幸せそうな夫婦を演じないと。もちろんレウスくんも頼むよ」

「あうあうー」


 赤子を演じながらも、俺は内心で思わず叫んだ。



 乳母車なんか~~~~~~~いっ!!



 残念ながら俺はラナには抱っこされず、乳母車に乗せられていた。

 ……考えてみたら確かにこの方が犯人も狙いやすいだろうが……クソッ、当てが外れた。


『百パーセントの善意から、とおっしゃっていたのはどこの誰でしょうか、マスター?』


 死んだ魚の目をする俺に、夫婦を演じた二人が話しかけてくる。


「あらー、レウスちゃん、もうお眠でちゅかー?」

「疲れちゃったんでちゅかねー?」

「あーうー」


 ちなみにこの二人、兄妹らしい。

 あまり見た目が似ていないのだが、夫婦役としてはむしろ好都合かもしれない。


 それからしばらく住宅街を練り歩き続けた。


 それなりに広い都市だ。

 さすがに初日からこの囮作戦が成功するはずもないかと思われた、そのとき。


「もう少しお金が貯まったら村に帰らないとね」

「お父さんとお母さん、元気にしてるかな」


 緊張感が切れてきた二人が、そんな他愛もない会話をしている中、俺は怪しい男の存在を感知していた。


 街路樹の陰だ。

 気配を消しているところをみるに、ただの通りすがりというわけではないだろう。


 シュルシュルシュル……。


 む、何かが飛んできたぞ?


 それは太めの糸のようだった。

 真っ直ぐ俺のところまで飛んできたかと思うと、まるで触手のように俺の身体へと絡みついてくる。


 そのまま俺は糸に絡めとられて、小さな身体が乳母車から宙へと舞い上がった。

 そこでようやくロットとラナが異変に気が付く。


「ちょっ、どういうこと!?」

「何だ、この糸は!? くそっ!」


 ロットがすかさず剣を抜くが、すでにその間合いからは届かない。

 ラナが慌てて魔法を放った。


「ファイアボール!」


 炎の塊が直撃したが、しかし糸を焼くことはできなかった。


 ……この糸、魔力でコーティングされているな。

 それで魔法への耐性を施すのみならず、糸を自在に操ることを可能にしているのだろう。

 なかなか面白い技だ。


 仕方ないな。

 よいしょっと。


 俺は自分の魔力をぶつけることで、そのコーティングを一時無効化させた。

 それにより糸が解けて、俺の身体は自由になって地面へと落下していく。


「あ、危ない!」


 慌ててラナが俺をキャッチしてくれた。

 ほう、思った通り良い胸をしている。


『マスター、今はそんな場合ではないのでは?』

「逃がすかっ!」


 その間に男が逃走を図ったようで、ロットが慌てて男を追いかけた。

 だが角を曲がったところで、


「……い、いない!?」


 どうやら逃げられてしまったらしい。

 せっかく見つけた犯人らしき男をみすみす逃して悔しがるロットに、俺は言った。


「大丈夫だよ。ちゃんと追跡魔法の目印マーキングを付けておいたから」


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