第343話 推定バストサイズ130センチ
ウロボロスを亜空間の中に仕舞い込むと同時、俺は元の赤子の姿に戻った。
「何とか封印することができたな」
『本当に厄介な相手でしたね。しかし今はいいですが、将来的にはどうされるおつもりですか?』
「そこなんだよなー」
俺もリントヴルムと同じ懸念を抱いていた。
俺が生きている間はこうして自分で持っておけばいいのだが、この新しい人生も永遠に続くわけではない。
前世の死後には、禁忌指定物の多くが悪意ある者の手に渡ってしまったのだ。
……ウロボロスに関してはなぜかマリベルが所有していたが。
同じことを繰り返さないためにも、解決策を考えておかなければならないだろう。
若返りの魔法で永遠の命を生きる……という気まではさすがにないしなー。
「おっと、それより、ファナたちは……」
ウロボロスの魔法を喰らったファナたちのことを思い出す。
あのときは助ける余裕が無くて、放置してしまったのだ。
まぁ、今の彼女たちは、あれくらいで死ぬほど軟ではないはずだが。
「……ん、やった?」
「あのヤバいドラゴン、もしかして倒せたの?」
「さすが我が主」
「完全に殺されると思ったでござる……」
うん、無事みたいだな。
割と激しく負傷しているようだったので、俺が作ったハイポーションを渡しておく。
生憎と俺はもう治癒魔法を使うだけの魔力が残っていない。
ちなみに彼女たちは、俺が大人になって戦っているところを見ていないはず――
「知らない男が、戦ってた?」
「え? てっきりレウスかと思ってたけど、確かに赤子にしては大きかったわね」
「拙者はお空を飛んでいて見えなかったでござるが……」
――めっちゃ見られてた。
「あはは、何言ってるの、お姉ちゃんたち? そんな人、見てないよ?」
「ん、気のせい?」
「……何か怪しいわね?」
そんなやり取りをしていると、マリベルがこちらへ浮遊してくる。
いや、マリベルはまだ気絶したままだ。
マリベルの杖、ジルニトラが念話を飛ばしてくる。
『大賢者アリストテレウスが転生していたというのは本当だったんだね。そして、それが君だったなんて』
『あれ? 何の話? 僕はただのかわいい赤ちゃんだよ?』
『……しらを切っても無駄だよ。だってウロボロスが君のことをそう言ってたんだから』
どうやら隠し通せそうにない。
『マリベルが知ったらさぞ驚くだろうね。彼女、大賢者アリストテレウスの大ファンだから』
え、ぜんぜん嬉しくない。
『そこは嘘でも喜ぶべきところです、マスター』
『いやいや、巨乳美女以外のファンとか要らんし』
『マリベル氏は推定バストサイズ130センチですが』
『だからそれを巨乳判定するなあああああああああっ!!』
ちなみにリントヴルムとの念話はジルニトラには伝わっていないはずだが、俺の嫌そうな顔から察したのか、
『もし君がアリストテレスの転生した赤子だと知ったら、間違いなく弟子にしてほしいって言ってくるよ。そして断っても断っても首を縦に振るまで追いかけてくるはず』
『やめれてくれえええええええええっ!?』
俺は必死に懇願した。
『お願いだ! 俺の正体は黙っていてくれ! ああ、それにしても君は本当に素晴らしい杖だねぇ! 性能もそうだし、竜格も優れている! 俺の愛杖にしたいくらいだ!』
『分かりやすいおべっかですね、マスター。大賢者の名が泣きますよ』
ジルニトラは苦笑気味に、
『大丈夫、そんなことはしないさ。君のお陰でマリベルに出会うことができたという、大きな恩があるからね』
『よかった……』
俺はほっと胸を撫でおろす。
『だけど機会があったら、マリベルの研究所に遊びに来てよ。それじゃあ』
そうして気を失ったままのマリベルを連れて去っていくジルニトラ。
相変わらずマリベルの贅肉に埋もれ、ほとんど見えなくなっている魔法の杖を見送りながら、
『絶対に行きたくないな』
『そういうと思いましたよ、マスター』
ウロボロスによって墜落させられたセノグランデ号・快だが、思ったよりは被害が少なくて済んだ。
シェルター室に隠れていたダーナも無事で、すぐに俺は修理に取り掛かった。
「あっという間に修復されていく……っ! さすが師匠!」
その様子を目の前で見ているダーナがやたらと感動している。
そして無事に修理を終えたセノグランデ号・快は、再び空へと飛び立つことができた。
向かった先は、魔法都市エンデルゼンである。
「はぁ、またいらっしゃったのでございますか」
「え、なんか嫌そうな顔されたんだが」
都市の支配者であるメルテラが、俺の顔を見て大きな溜息を吐いた。
『自分の胸に手を当ててよく考えてみたらどうですか、マスター?』
リントヴルムに指摘されるが、思い当たる節はない。
「いや、今日はとあることを報告しに来たんだよ。こいつのな」
俺は亜空間からウロボロスを取り出した。
「っ……見つけたのでございますかっ!?」
「ああ。見つけたというか、襲われたというか」
「襲われた?」
メルテラに一部始終を説明する。
「なるほど……よく無事に切り抜けられましたね」
「ヤバいところだったけどな。ところでこれ、この都市で保管しておくことってできたりするか?」
「できるわけございません」
「……まぁそうだよなぁ。いや、前世の反省から、俺が死んだときのことを考えておこうと思ってな。少なくとも、メルテラは俺よりも長く生きるだろうし」
「私だっていつまでも生き続けるわけではございません。大賢者の塔と同じようなことが、いずれここ魔法都市でも起こると考えてよいでしょう。もちろん、大賢者の塔ほど早く内部崩壊することはないかと思いますが」
どうせ俺には組織をまとめる力なんてなかったよ。
「うーん、どうしたものか。それならいっそ、誰にも見つからないような場所に隠すという手もあるかもしれないな。だが人間だけじゃなくて、魔物に発見されるのも避けないといけないし、だとしたら……」
とそこで、俺の頭に天啓が降ってきた。
「そうだ! あの中なら人間はもちろん、魔物にも絶対見つからないはず……っ!」
俺がやってきたのは無限の荒野の最深部だった。
そこにいるのはもちろん、神話級最強の魔物、ベヒモスである。
「起きろ」
「っ!? オオオオオオオオオッ!!」
魔法をその巨体にぶつけてやると、凄まじい咆哮と共に目を覚ました。
だがその際、大きな口を開けた瞬間を狙って、俺はベヒモスの体内へと飛び込む。
「臭っ……」
悪臭に鼻を摘まみながらも、体内を奥へ奥へと進んでいった。
「このあたりで十分か」
胃を越えた辺りで俺は足を止めると、外側と同様、恐ろしく硬い体内の壁に攻撃魔法をぶつけてやった。
ドオオオオオオオオオオオンッ!!
一発では大して削れていなかった。
続けて二発、三発と、何度も何度も繰り返して壁を掘り進めていく。
「よし、このくらいでいいだろう」
俺は魔法で掘ったその穴の奥に、円環の杖を置いた。
『まさか、こんな場所に保管することを思いつくとは……』
「最強生物の体内……ここなら誰も来ることができないだろ? しかもこいつは自然治癒能力が高いから、数日もすればこの穴は塞がっているはずだ。そうなったらますます、どこにあるかが分からない」
俺はベヒモスの身体の中に、ウロボロスを保管することを思いついたのだ。
「やはり天才かもしれんな」
『……だから自分で言うなと』
――やめろっ! ここから出せっ! おいっ! ぶっ殺すぞ!?
ウロボロスから何やら必死に訴える声が聞こえてきたような気がしたが、無視して転移魔法を発動。
ベヒモスの体内から脱出したのだった。
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