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生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます  作者: 九頭七尾


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第341話 仕方ないので

 氷の槍が俺の身体に突き刺さる寸前に粉砕された。

 そこに現れたのは、この亜空間に飛ばされた際に引き離されてしまった俺の強力な愛杖、聖竜杖リントヴルムだった。


「リンリいいいいいいいいいいいいいいンっ! 助けに来てくれたんだありがとおおおおおおおおっ!」

『はい、仕方ないので』


 仕方ないて。


「ん、助けに来た」

「いきなり消えたからびっくりしたわよ」

「我が主、無事でよかった」

「しかしなんとも不思議な空間でござるな……」


 しかもファナたちの姿もあった。


「どうやってここに?」

『僕が連れてきたんだ』

「えっ」


 念話を飛ばしてきたのは、エキシビジョンマッチのときにマリベルが使っていた杖だ。


『僕はジルニトラ。見ての通りあのウロボロスとかいう杖にマリベルが支配されちゃって、頑張って追いかけてきたら、そこの杖と出会ったんだ』

『お前も意思疎通ができるのか……?』


 生憎と前世でこんな杖を作った記憶はない。


『どうやらマリベル氏が、ウロボロスを参考にして生み出した魔法の杖のようです。亜空間へアクセスする方法を知っていたようなので、二人で協力してセキュリティをこじ開け、ここに入ることができました』

『ウロボロスを参考にしたとはいえ、まさか俺以外に作れるやつがいたなんてな……。なんにしても助かった。リンリンもいないし、このまま短い生涯を終えてしまうところだった。まだまだ色んな巨乳を堪能したいのに』

『……死んだ方がよかったかもしれませんね?』


 辛辣なことを言ってくるリントヴルムを手にすると、枯渇していた魔力が体内に注入され、回復していく。


『ふう、これでなんとかまだ戦えそうだが……』

『正直、相当な強敵ですね』


 愛杖を構えながらウロボロスの次の攻撃を警戒していると、頭部がまた身体を呑み込み始めた。

 やがて紫色のドラゴンとなる。


「っ……最後の七色目……紫っ! ついに一番厄介なのが出てきやがったか……っ!」

『咢吠聲咬砕サレタ聲ガ響裂キ剖断スル闇ヲ噛ミチキリ崩滅ヲ齧リ尽ク』


 何を伝えたいのかまるで理解できない念話を飛ばしてきながら、同時に亜空間の大部分を満たしていた氷が消失する。

 そしてマリベルの周囲に、黒い球体が幾つも姿を現した。


「お姉ちゃんたち、気を付けて! あれに絶対、触れちゃダメだよっ!」


 俺が叫ぶが早いか、黒球が飛来してくる。

 全員が慌てて回避する中、アンジェが作り出した土壁に黒球の一つが着弾した。


 グシャッ!


「なっ!? 土が潰れて石みたいに小さくなったんだけど!?」

「何が起こったでござる!?」

「……爆縮だ!」

「ん、爆縮……?」

「全方位からの凄まじい圧力を受けて、物体が一瞬で圧し潰される現象だよ」


 あの紫色のウロボロスが強化するのは、重力魔法。

 もしあの黒球に身体の一部でも触れたら、そこだけ瞬間的に肉塊と化すだろう。


『嚙裂声ガ軋ミ響ク咢ハ壊滅ヲ喰ライ呑ミ込ム虚無ニ堕チテ無声ノ叫ヒガ揺ラク』


「「「っ!?」」」


 突然、全身が鉛と化したかのように重くなった。


「ん……重い」

「これもっ……あいつの仕業っ!?」

「立っているだけでやっとでござる!」


 どうやら今度はこの亜空間全体の重力を増大させたらしい。

 この小さな赤子の身体ですら、あまりの重さで潰されそうだ。


 そこへ先ほどの必死級の黒球が高速で飛来してくるのだから、避けるだけでも精一杯である。


「我には……そこまで効かぬ」


 そんな中、リルだけが割と平然と床を蹴り、疾走していた。

 フェンリルである彼女は筋力が桁違いに強いからなぁ。


 増大した重力下でありながら、驚くほどの速度でマリベルとウロボロスに飛びかかるリル。

 だがマリベルはそれを軽く凌駕する速度で、悠々とリルの攻撃を躱す。


「この重力下だと素早く動けないけど……魔法は別だよ! 光矢万射」


 俺が撃ち出した無数の光の矢が、一斉にマリベルへと迫る。

 土魔法だと重力の影響を強く受けてしまうだろうが、光ならほとんど干渉されない。


 マリベルとウロボロスは高速飛行で光矢から逃れようとするが、ある程度の追尾性能も付与されたそれを、さすがにすべて躱すことは不可能だ。

 光の矢が、再展開されていた多重結界をガリガリと削っていく。


「もう一発! 光矢万射」


 そこへ猛烈な風の砲弾が放たれた。

 ファナの魔法だ。


 重力の影響をほぼ無視できるそれがマリベルを直撃し、飛行を妨害。

 光の矢が殺到する。


 その間にもマリベルは黒球で反撃してきているが、アンジェが土塊をぶつけて相殺していく。

 黒球は物体に当たって爆縮を引き起こすが、一度限りで消滅するようなのだ。


「……ッ!」


 結界をすべて破壊し切り、ついには一部がマリベルの身体を撃った。


「よし、一気に畳みかけるぞ!」


 そのときだ。

 突然、身体が軽くなったかと思うと、上下が反転した。


「「「なっ!?」」」


 俺たちはそろって先ほどまで天井だったはずの場所に向かって落ちていき、思い切り叩きつけられる。


「何が起こったでござる!?」

「ん、上と下が、入れ替わった?」


 恐らく重力を逆向きにさせたのだ。

 さらにその直後、今度は凄まじい力で横方向へと引っ張られ、壁に激突した。


「重力の向きを好きな方向に変えることができるのか……っ!」


 そこから何度も繰り返し重力方向が切り替わり、俺たちは翻弄されまくった。

 もはやどちらが上でどちらが下なのかが分からなくなり、マリベルのいる位置すら混乱してしまう。


「くっ、まるで真っすぐ走れぬ……」


 マリベルを追いかけていたリルも、変転する重力のせいでまともに走ることすらできなくなっていた。


『マズいですね、マスター。このままでは状況が悪化していくばかりです』

『だが、もうすぐのはずだ』

『と、申しますと?』

『ウロボロスによる魔法強化には大きな弱点がある。果たしてこれだけ強力な魔法を何発も連続して使い続けて、生身の人間の魔力と体力が持つと思うか?』

『……なるほど』


 と、そのときだった。

 ウロボロスの上に乗っていたマリベルの巨体が、ぐらりとよろめいたかと思うと、杖の上から振り落とされて地面に落ちていく。


「ようやく限界が来てくれたか……。並の魔法使いならもっと遥かに早く限界が来ていたはずだが、強力な魔法使いを支配してくれたお陰で随分と時間がかかってしまったな」


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