第339話 あれって杖なの
虹竜杖ウロボロス。
前世の俺が作り出した魔法の杖が、マリベルを支配して襲いかかってきた。
「何なの、あの赤い輪っか、凄まじい魔力を感じるわっ!」
「ん、かなり危険」
「マリベル殿はどうしたでござる? 先ほどとはまるで別人のようでござるが……」
困惑している三人娘に、俺は訴えた。
「あの輪のような杖のせいだよ」
「……杖?」
「ってか、あれって杖なの?」
「何か知っているでござ――」
カレンの言葉が途中で聞こえなくなったかと思うと、周囲が真っ白い空間に変貌していた。
「まさか、亜空間に転移させられたっ!?」
ファナたちの姿はない。
いるのは虹竜杖ウロボロスと、それに座って浮遊するマリベルだけだ。
「っ……リントヴルムがっ……」
最悪なことに、俺の愛杖リントヴルムもまた傍にいなかった。
強制転移の際に引き離されてしまったのだ。
『クハハハハハッ! 残念だったなァ、アリストテレウスぅッ! ここはこの女が作り出した特殊な亜空間だッ! ここから脱出することも、仲間を呼ぶことも不可能だぜェッ! 無論、転移魔法も使えやしねェッ!』
ウロボロスが勝ち誇ったように哄笑を響かせる。
「仕方ない……あいつを使うしかないか。バハムート! ……バハムート? なっ……」
亜空間から俺のもう一本の愛杖、バハムートを取り出そうとするも、なぜか亜空間にアクセスることができなかったのだ。
『クハハハハハッ! この中じゃ、別の亜空間に繋がることはできねぇんだよォッ!』
「マジか」
リントヴルムもバハムートも使えないなら、この赤子の身一つでウロボロス+マリベルと戦わなければならない。
いくらこの短い期間で急成長したとはいえ、最悪な状況だ。
……しかもこの亜空間にかけられたセキュリティ、なかなか厄介なものだぞ。
時間をかけて解析すれば脱出することは可能だが、マリベルとウロボロスがそんな隙を与えてくれるとは思えない。
「あれ? これ、詰んでね……?」
と、そのときだった。
虹竜杖ウロボロスのドラゴンの意匠、その頭部が尾をどんどん呑み込んでいったかと思うと、最後は自分の頭まですべて食べ尽くしてしまう。
その代わりに、いつの間にか橙色の鱗を持つ円環の杖が出現していた。
『キャハハハハハッ、マジで赤ちゃんになってんじゃん! しかも頼みの杖も仲間もいない! 完全に終わったねぇ! キャハハハハハッ!』
先ほどとは別人のような口調の念話が脳に響いてくる。
「赤から橙に変わったのか……っ!」
直後、後方にちょっとした山が出現したかと思うと、そのままこちらを推し潰そうと土砂崩れのごとく迫ってきた。
「くっ……今度は土魔法が強化されるってわけだな……っ!」
俺は素早く退避しつつ叫ぶ。
虹竜杖ウロボロス。
その最大の特徴は、七種類の人格、いや、竜格を持つということだろう。
人間でいうところの多重人格者だが、ウロボロスは竜格が切る変わるたびに、得意とする魔法属性もまた変わるのだ。
先ほどまでマリベルが火の魔法を連発していたのは、赤い鱗のウロボロスだったからだ。
橙色の鱗になったことで、今度は大幅強化された土の魔法を積極的に使ってくるだろう。
『キャハハハハハッ、逃がしはしないよぉッ!』
膨大な土が漁網のように広がったかと思うと、俺の退路を塞ぐように襲いかかってくる。
俺は咄嗟に凝縮させた魔力を放って、土の一部にぶつけてやった。
それで穴を開けようとしたのだが、
「っ……弾かれたっ!?」
強い魔力を帯びた土はアダマンタイトのように固く、ちょっとやそっとの衝撃では破壊することができないようだ。
全方位から土が迫り、もはや逃げ道はない。
『キャハハハハハッ、終わりだよッ! そのままぐちゃぐちゃに潰れちゃえ!』
「転移」
俺は転移魔法で土の外に脱出していた。
『あ?』
「……やっぱりな。転移魔法が禁じられてるのは、亜空間の内外を移動する場合だけ。この亜空間の中で使う分には大丈夫そうだ」
『……ちぇっ、絶対今ので殺せたと思ったのに。まぁでも、まだまだ幾らでもチャンスはあるよね!』
どうにか逃れることはできたが、正直言ってかなりキツイ。
転移魔法は魔力も体力もかなり消費が激しく、何度でも使えるようなものではない。
それなのに、いきなり転移魔法に頼らなければならない状況に追い込まれたのだ。
「守りに魔力を使わされていたらジリ貧……こっちから攻撃を仕掛けて、この赤子の身体がガス欠してしまうまでに倒すしかな――」
バリバリバリバリバリッ!!
凄まじい雷鳴と稲光と共に、凄まじい衝撃があった。
展開していた結界が、あっさりと破られてしまう。
「っ……今度は雷魔法かっ……」
ウロボロスの色が再び変化し、今度は黄色になっていた。
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』
念話によって悍ましい怨嗟が頭に直接流れ込んでくる。
「こいつはまた、今までの色より遥かに会話が通じない竜格だな……」
マリベルの周囲に雷の塊が次々と出現していく。
魔力量の限界など完全に無視したそれに、俺は思わず頬を引き攣らせる。
「おいおい……こっちから攻撃する余地すらないんだが……?」
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