第338話 脂肪の塊ですから
「……まったく、酷い目に遭ったな」
俺はぐったりしていた。
それもこれもあの脂肪の塊に、強制ホールドされてしまったせいだ。
『女性の胸はすべからく脂肪の塊ですから、感触としては同じものでしょう』
『全然まったく違うっ! そんなこと言ったらおっさんの腹も一緒になるだろうがああああああっ!』
ファナとアンジェの昇格試験を終え、冒険者ギルド協会本部を後にした俺たちは、セノグランデ号・快に乗ってベガルティアを目指していた。
二人が無事に合格したことを、アークに直接、報告しに行くためだ。
あと、試験日直前だったこともあり、コレットとゼタのことを放置して出てきてしまったからな。
とそのとき、飛空艇内に警報音が鳴り響いた。
ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~ウ~
『後方から何かが凄まじい速度で接近してきます。明らかに敵対的な存在と推測されます』
同時に緊急事態を告げる艇内アナウンス。
一体何だろうと思って後方を確認してみる。
「あれって……もしかして脂肪の塊!?」
『協会長でしょう』
マリベルがこっちに向かってきていた。
この飛空艇もかなりの速度で飛んでいるはずなのに、それを上回る速さだ。
「まさか、また僕を抱っこしようと……っ!?」
『そんな雰囲気ではなさそうですが』
リントヴルムが言う通り、確かに様子が少しおかしい気がする。
するとマリベルの周囲に巨大な火柱がいくつも出現した。
「なっ……攻撃してくる!?」
『攻撃魔法の発動を検知しました。防御シールド展開』
放たれたのは七本の火柱。
それがまるで七首の龍のようにこちらへと迫ってきて、セノグランデ・号が展開した防御シールドを直撃する。
ドオオオオオオオオオンッ!!
どうにかシールドが防いでくれたが、衝撃で船が大きく揺れた。
「な、何が起こっているんだ!?」
慌てた様子で操縦室に駆け込んできたのは、船内の魔道具工房で研究に没頭していたダーナだ。
「僕たちにも分からないんだけど、知り合いから攻撃されてるみたい。ダーナお姉ちゃんは危ないからシェルター室に入ってた方がいいよ」
そんなやり取りをしている間にも、マリベルは再び同じ魔法を使おうとしている。
「また来るわ!」
「ん、シールド、大丈夫?」
『防御シールドは先ほどの攻撃で6割が破損しました。次は耐えられません。こちらから攻撃いたします。魔力充填OK。照準OK。――発射準備完了』
直後、魔力砲が発射された。
それがマリベルの放った七本の火柱と激突し、轟音と共に相殺される。
さらに二発目の魔力砲を撃ち出すセノグランデ号・快。
しかし今度はそれを回避され、マリベルが距離を詰めてくる。
一点集中型の魔力砲では仕留められないと判断したのか、続いて放たれた魔力砲はいくつものレーザーに分かれた散弾型だった。
それが四方八方からマリベルに襲いかかり、そのうちのいくつかが着弾した。
「結界か」
それを結界で防いだマリベルが、今度は十二本もの火柱を作り出す。
『警告。防ぎ切れません。各自、衝撃に備えてください』
「衝撃に備えてって、どうすればいいでござるかあああああああああああっ!?」
火柱の群れがセノグランデ号・快に襲いかかってくる。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
『機関の一部が破損。飛行の継続は困難。墜落します』
船が推進力を失い、勢いよく地上へと落ちていく。
その前に俺たちは船から脱出した。
ちょうど大きな湖の上だったが、近くに小島があったためそこに着地した。
船は盛大な水飛沫を上げながら湖に墜落する。
跳ね上がった膨大な水が、通り雨のように周辺に降り注いだ。
「あ、ダーナお姉ちゃん忘れてた。……まぁ、シェルター室の中にいれば大丈夫かな。幸い水の上だから火もすぐ消えそうだし」
そこへマリベルが降りてくる。
「ん、杖がない?」
「なんか代わりに輪っかみたいなのに乗ってるわ」
「あっちの方が安定しそうでござるな」
それを見た瞬間、俺は思わず絶句して、
「っ……まさか……虹竜杖……ウロボロス……?」
その杖の名を口にした。
今は燃え盛る炎のような赤色で、ドラゴンの頭が自らの尾を口にすることによって輪を形成している。
『……間違いありませんね。しかもどうやら封印から解かれ、あの女性の精神を支配しているようです』
リントヴルムが頷く。
虹竜杖ウロボロスは、リントヴルムやバハムートと同様、前世の俺が作り出した魔法の杖だ。
しかしあまりにも危険な力を有していたため、何重もの封印を施し、禁忌指定物の一つとして厳重に保管していた。
だがデオプラストスによって、他の禁忌指定物と一緒に大賢者の塔から消えてしまう。
てっきり魔法都市にあるものと思っていたのだが、どういうわけか見つからなかったのだ。
改めてメルテラに調査をお願いしていたが……まさか封印が解かれた上で、自らやってくるとは。
『クハハハハハッ! やはり転生していたかァ、アリストテレウス! 随分とかわいらしい姿になったじゃねぇかァッ!!』
耳障りな念話が頭の中に響いてくる。
『脆弱な赤子になったからといって容赦はしねェッ! オレたちをこんな姿にしやがったテメェをぶっ殺してやるッ!!』
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