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生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます  作者: 九頭七尾


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第337話 だから太るんだよ

「うふふ、随分と将来が楽しみな子たちだったわねぇ」


 冒険者ギルド協会会長マリベルは、恰幅の良い身体を揺らしながら満足そうに笑う。

 するとお尻に敷いている杖から念話が飛んできた。


『まさか、君が攻撃を喰らうとは思わなかったよ。ただ、それは君の身体が年々、重くなってきているせいでもある。もっと身軽な頃は、もっと速く飛ぶことができたからね。今は本当に重くて重くて、そろそろ僕が折れちゃうんじゃないかって心配だよ』

「あら、うるさい杖ねぇ、ジルニトラ? 古竜から作られたあなたが、そう簡単に折れるわけないでしょう」


 マリベルが愛用している竜杖ジルニトラ。

 その素材はジルニトラという古きドラゴンの身体で、同時に魂も宿っているため、使い手と念話を通じて意思疎通することが可能だった。


 とある杖を参考にして、マリベル自ら作り出した魔法の杖でもある。


「さぁて、協会長としての大仕事も終わったし、魔法研究を再開するとしますかねぇ」

『また研究かい? 少しは休んだらどうだい?』

「大丈夫よぉ、その代わり美味しいお菓子をいっぱい食べるから」

『……だから太るんだよ』


 協会本部を後にした彼女は、自身の魔法研究所に戻ってきていた。

 彼女は普段ひたすらここに引き籠って、ひたすら魔法研究に没頭しているのである。


「あたしの尊敬する大賢者アリストテレウス様だって、ずっと引き籠って魔法の研究をしていたのよぉ?」

『お菓子は食べていなかったと思うけど』


 マリベルは、大賢者アリストテレウスを神のように崇め、尊敬していた。

 幼い頃から憧れ続け、大賢者の記録が記された古文書を収集するため、世界各地を巡ったこともある。


 その過程で発見した、大賢者が自ら作り出したとされる魔道具だって、彼女は幾つか保有していた。


 ――の、魔力……は……まさ、か……つ……の……。


「あら?」


 ふと、マリベルは足を止めた。


『どうしたんだい?』

「いま何か、声が聞こえたような気がしたわぁ? もしかして、ジルニトラ、あなた?」

『いや、僕は何も話しかけてないよ』

「空耳かしら?」


 ――力、を……貸し、て……れ……。


「ジルニトラ? 今のは?」

『僕は何も言ってない』


 ――お……がい、だ……大……者様……た……け、たい。


「っ……やっぱり、何か聞こえたわぁ。……こっちの方から?」


 何かに誘われるように、マリベルが足を運んだのは宝物庫。

 大賢者アリストテレウスのことが記された歴史的な古文書や、大賢者作の魔道具や魔導書などが保管されている場所だ。


「杖が……」


 マリベルが視線を止めたのは、彼女自身が厳重に施した結界によって守られた一本の杖だった。


 いや、一本と数えるのはおかしいかもしれない。

 なにせその杖は、円環の形をしていたのだ。


 杖そのものが長い胴体を持つドラゴンの意匠で、しかもそのドラゴンの頭が自らの尾を口にしているという、なんとも不思議な姿なのである。


 虹竜杖ウロボロス。

 大賢者アリストテレウスの作とされる杖であり、マリベルの持つ竜杖ジルニトラのモデルとなった魔道具でもあった。


 しかしこの杖は、恐らくは大賢者本人の手によって強固に封印されていた。


 ――大賢者様を、助けなければならない……。


「あ、あなたが、あたしに語りかけてきているの?」


 ――そう、だ……。


「大賢者様を助けなければというのはどういう意味っ!?」


 ――大賢者様は……この時代に……転生、された……。


「なっ……それは本当なのぉ!?」


 ――だが……赤子の身……危険が、迫って、いる……。


「い、一体どうしたらいいのぉっ?」


 ――わ……の、封印……を、解いて……く……れ……。


「封印を解けばいいのねぇっ?」


 杖の力を抑え込んでいる封印魔法。

 大賢者本人が施したであろうそれは、マリベルですら見たことがないほど難解なものだ。


 ただ、マリベルは以前から密かにこの魔法を解析していた。

 大賢者を崇拝するマリベルが、大賢者の使った魔法を目の前にして、その仕組みを解き明かそうとするのは至極当然な話である。


「心配要らないわぁ、解除方法はすでに分かってるから後は実行するだけよぉ」

『ちょっと待つんだ。正直言って、僕は嫌な予感がする。この杖のことは、あまり信用しない方がいい』


 すぐに解除しようとするマリベルを、ジルニトラが止めた。


 ――は、早く……間に……合わなく……なって……しまう……。


 頭を悩ませるマリベルを円環の杖が急かしてくる。


 ――大賢者様は……私に、託して、くれた……転生の、タイミングに合わせ……封印が……解けるよう……に……だが……少しズレて……しまった……このままでは……。


「わ、分かったわぁ、すぐに解除してあげる!」

『マリベル!?』


 ジルニトラの制止を振り切って、マリベルは封印の解除を試みる。


「ここを、こうして、こう……うん、いけるわぁ! 大賢者様の施した封印を、あたしが解けちゃうっ……そして大賢者様のピンチを救っちゃうっ……うふふっ、きっと褒めてもらえるわぁああああっ!」


 興奮で鼻息を荒くしながら、何重もの仕掛けのある封印を確実に攻略していくマリベル。

 やがて。


「っ、解けた……解けたわぁ!」


 次の瞬間、虹色の光が弾けたかと思うと、円環の杖が浮遊していた。

 それを手に取るマリベルだったが、


「っ!? あっ……あああああああああああああああああっ!?」


 突然、大声で絶叫したかと思うと、円環の杖を手にしたまま脱力し、その場に両膝をついた。


『マリベル、大丈夫かい? マリベル? マリベル!?』


 ジルニトラが呼びかけるが、マリベルからの反応はない。

 代わりに邪悪な念話が。


『クハハハハハッ……ついに忌まわしい封印が解けたぞ……ッ! アリストテレウスめッ……貴様だけは絶対に許さねぇッ……今すぐぶち殺しに行ってやるから覚悟しやがれッ!』


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