第333話 だから聞いてませんが
激しい戦いで仮面とマントが外れた試験官のフィア。
その姿はファナとよく似ていた。
「何歳くらいだろ? 若く見えるけど……20代の後半くらい? もうちょっといってるかな?」
そして胸は形状こそファナのそれとよく似ているものの、大きさではいくらか上回っている。
素晴らしい。
「噂では聞いていたけど、フィア氏ってかなり美人なんだな」
「あんまり表に出ないから、実際に見たことあるやつは少ないんじゃないか?」
「てか、若いな。割と長くSランク冒険者やってる気がするが」
「十五年くらい? 二十歳とかでSランクになったはずだから、30代半ばってところか」
「全然そうは見えないな」
「そんなことより、あの二人めっちゃ似てないか……?」
「言われてみたら」
「戦い方も瓜二つだし、もしかして姉妹とかじゃ……」
「姉妹にしては年齢が離れ過ぎてるだろ」
困惑しているのは観客席の冒険者たちもだ。
明らかに二人が似ているのだから当然だろう。
「ファナお姉ちゃん本人はまったく気づいてなさそうだけどね」
「……あいつらしいわね」
自分とよく似た相手が目の前に現れたというのに、ファナは顔色一つ変えていない。
何事もなかったかのように地面を蹴り、斬りかかっていく。
フィアもそれに応じた。
「なんて攻防だ……っ!」
「さっきのゴリティーア対アンジェも凄まじかったが……これがSランク昇格への最終試験か……」
「いや、今までに何度か見学してるが、ここまで挑戦者が強いのは始めてだぞ?」
「なぁ、それより、風がどんどん強くなってきてないか……?」
「た、確かに……手すりにしっかり捕まっていないと、飛ばされそうになってきたし……」
目の前で繰り広げられる激しい戦闘によって、訓練場内に空気の渦が形成され始めてきた。
次第にそれが回転速度を増していき、やがて竜巻のようになっていく。
「ふ、吹き飛ばされる!?」
「どうなってやがるんだよ!?」
「ハリケーンの中にいるみたいだ……っ!」
「うあああああああああっ!?」
何人かがその場から吹き飛ばされ、遠心力によって後方の壁に叩きつけられる。
「す、すごい風でござるっ!」
「二人とも、斬りかかるときの回転の向きが同じだからね。それで風が相殺せずに加速して、どんどん周囲を巻き込んできているんだ」
ちなみに両者の強さはほぼ互角といったところだろう。
ファナは全力で挑んでいるが、フィアの方も表情からして余力はなさそうである。
「じゅっ、10分経過しました! それまでっ!」
ランディアが声を張り上げて叫んだ。
彼もまた吹き飛ばされないよう、必死に手すりに掴まって耐え忍んでいた。
「あれ? もう10分経った? まだ2分くらいあるような」
「間違いなく経ちましたので余計なことは言わないでください!(これ以上は腕が持たないのですよおおおおおおおおおっ!)」
……どうやら少し早く切り上げたらしい。
いいのか、それで……。
ファナとフィアが戦いをやめると、徐々に渦が収まっていって、やがて訓練場内に静寂が戻ってくる。
「それにしても、先ほどの試験に勝るとも劣らない、凄まじい戦いでしたね。そして10分間にわたって試験官のフィア氏と互角以上に戦ったことを認めまして、ファナ氏も最終試験、合格となります!」
ともあれ、これでアンジェに続いて、ファナもSランクに昇格だ。
「あ、ファナお姉ちゃんが」
「何か言いたげにフィア殿に近づいていくでござるな」
「やっぱりさすがに何かを感じてたわけね」
以前、出自について聞いたことがあった。
ファナは八人兄妹の貧乏な家で生まれたそうだが、自分だけが兄妹たちとまったく容姿が似ていなかったという。
どうやら彼女は赤子の頃、街道に捨てられていたのを両親に拾われたらしい。
幸い貧乏ながらも他の兄妹たちと分け隔てなく育てられた彼女は、その恩を返すために十歳で冒険者になり、現在も実家への仕送りを続けているそうだ。
もしかしたフィアなら血の繋がっている親のことを知っているかもしれない……あるいは、フィアこそが実の母親という可能性だってあるだろう。
自らの出生の秘密を目の前に、ファナが口を開く。
「ん、戦い方、似てた。……真似した?」
俺たちはそろってずっこけてしまった。
「そっち!?」
「顔が似てることを聞きなさいよ!」
「ま、まだ、これから核心に踏み込むつもりかもしれぬでござるよ!」
フィアは苦笑して、
「真似はしてないわ。私の方が一回り以上も年上だし、ずっと前からこの戦い方よ」
「ん、なるほど」
納得したように頷いたファナは、そのまま踵を返した。
こっちに戻ってくる。
「いやいやいや、ファナお姉ちゃん!?」
「もっと他に聞くことあるでしょ!?」
「今のだけで納得できぬでござろう!?」
「……?」
必死に訴えてみるが、ファナは首を傾げるだけだ。
一方のフィアもまた、
「ランディア、それじゃあ私は帰るわね。ちょうどダンジョンの攻略中に、どうしてもってお願いされてしぶしぶ応じたんだから」
「ええ、もちろん、非常に助かりました。ただ……よろしいので?」
「というと? 何のことかしら?」
「……いえ、何でもありません」
ランディアのゲートを通って、帰っていってしまった。
どうやら向こうとしても何かを語る気はないらしい。
『まぁでも、これでいいのかもな。俺にとっての親は狼かーちゃんだけだし、血が繋がっている親のことなんて別にどうでもいい。仮に物心つく前に捨てられていたとしても、誰が本当の親なのか知ろうとも思わなかったはずだ』
ファナもきっと同じで、育ての親の存在があれば十分だろう。
『珍しく良いことを言いますね、マスター』
『そうだろう。ただ一つ残念なことがあるとしたら……フィアの胸に触れなかったということだけだ』
『別に聞いてないのでわざわざ話さなくても結構です』
『だが仮にフィアがファナの母親だったとしたら、ファナの胸もさらに成長してあのくらいのサイズになる可能性があるということだな』
『だから聞いてませんが?』
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