第332話 胸の形状がそっくりだ
「10分経過! それまで!」
ランディアの叫び声で、ハッとしたように両者そろって動きを止めた。
最終試験。
試験官として立ちはだかったゴリティーアと、アンジェの一対一の戦いである。
「ちっ、もう終わりか。10分はちょっと短いんじゃねぇか?」
「そうよ! こんなの不完全燃焼だわ! どっちかが倒れるまで終れるわけないでしょ!」
結局あれから両者互角のまま時間が来てしまったのだ。
文句を付ける二人は、どちらも満身創痍ながら、まだまだ戦い足りないといった様子。
「まぁ当人同士がやりたいというのなら、別に止める気は毛頭ありませんが……この場所は次の方の試験で使いますので、ぜひ外で勝手にやっていただくようお願いします」
「「……」」
ランディアにあしらわれ、押し黙る二人。
続けるにしても場所替えが必須と理解して少し冷静になったのか、漲っていた闘気がゆっくりと落ち着いていく。
「ともあれ、10分間にわたってゴリティーア氏と互角以上に戦ったことを認め、アンジェ氏は最終試験、合格となります! Sランクへの昇格が決定いたしました! おめでとうございます!」
ランディアがアンジェの合格を告げると、訓練場内に拍手が鳴り響いた。
「……そういえば、そういう試験だったわね。途中からすっかり忘れてたわ」
普通は喜ぶところだが、苦笑するアンジェ。
それからゴリティーアの方を向いて、
「あんたとの続きはまた今度にするわ。一応、残りの試合を見ておきたいし」
「ふふっ、仕方ないわねぇん」
あっ、元の乙女口調に戻った。
「でも……正直、アタシがアナタに勝てるチャンスは、残念ながらもう二度となさそうだわぁん。だって、これからもっともっと強くなっていっちゃうだろうし」
「そうかしら?」
「そうよぉん。だって、今だって本気じゃなかったじゃない」
「…………別に、本気だったわよ」
「あらぁん、アタシの目が節穴だと思ってるのかしら? あの武闘大会のとき、アナタが土魔法を駆使してたの、覚えてるわよぉん?」
そう。
アンジェはこの最終試験で、土魔法を一切使わなかったのだ。
ゴリティーアとは格闘だけで互角以上に渡り合った。
もし土魔法も使っていたとしたら……アンジェが一方的に勝利していたかもしれない。
それを理解して、あえて土魔法を封印して戦ったのだろう。
「うふふふ……久しぶりねぇん、この悔しさは……。アタシももう一度、自分を鍛え直したくなっちゃったわぁん」
「では続いて、どなたが挑戦されますか?」
「ん、戦いたい」
アンジェの戦いぶりを見て触発されたのか、ファナが即座に名乗りを上げる。
「よろしいですか?」
「うん、ぼくは最後で構わないよ」
オリオンが了承し、ファナが訓練場の真ん中に出てきた。
「さて、ではファナ氏の試験官ですが……」
「私が」
ランディアが言い切る前に、一人の仮面マントが観客席から跳躍し、降りてくる。
背丈や今の声質、それに胸のふくらみ具合から考えて女性だろう。
『それも割と大きいぞ。ファナに匹敵……いや、それ以上かもしれん。よし、後で抱っこしてもらおう』
『相変わらず胸のことばかりですね。他に注目する箇所はないのですか?』
「おお、フィア氏。ではあなた様に担当いただくとしましょう」
フィアと呼ばれたその試験官もまた、Sランク冒険者なのだろう。
「まさか、銀翼の双剣士、フィア氏か?」
「珍しいな。彼女がこの試験を引き受けるのは」
「Sランク冒険者の中でも群を抜いた人嫌いって話だしな」
「人嫌いっていうか、そもそも一年の大半を高難度ダンジョンに潜っていて、滅多に地上に姿を見せないそうだ」
見学している冒険者たちがヒソヒソとそんな話をしている。
その試験官、フィアは腰に提げていた剣を構えた。
どうやら仮面マント姿のままで戦うつもりらしい。
「って、二刀流でござるな?」
「うん、ファナと同じだね」
珍しい二刀流だったが、ファナはあまり驚いた様子もなく、相変わらずの無表情でこちらも二本の剣を構える。
「ではこれより、ファナ氏の最終試験、開始です!」
風が吹いた。
ファナが巻き起こした風だ。
アンジェは土魔法を使わずに戦ったが、ファナは端からその気はないらしい。
風の後押しを受けながら彼我の距離を一気に詰めようとする。
だが、風を味方につけていたのはファナだけではなかった。
「あ、あの試験官もでござる!」
「ほんとだ、同じだね」
フィアもまた、全身に風を纏っていた。
こちらも風魔法と剣技を融合させた戦いをするようだ。
両者が凄まじい速度で激突する。
「は、速いっ……なんという、剣戟の嵐でござる!?」
先ほどのアンジェとゴリティーアの拳の応酬も瞬き厳禁の速さだったが、こちらはそれ以上だ。
同じ場所に一切留まることなく訓練場を端から端へと移動しながら、両者の立ち位置も目まぐるしく変わり、さらには計四本の剣が五月雨と五月雨がぶつかるように交錯し続ける。
「しかも……互角でござる!」
「そうだね。加えて、剣の軌道がすごく似てる。それは多分、背丈や腕の長さ、関節の可動域や柔軟性、そして筋肉組成といった、二人の身体能力が似てるからだ」
「そんなに似てるなんてこと、あるでござるか?」
と、そのときだ。
激しい攻防に耐えられなくなったのか、ボロボロになったマントが風に舞った。
それとほぼ同時に、仮面もまたフィアの顔から外れて床に落ちる。
「どういうことよ!?」
アンジェが信じられないといった顔で叫ぶ。
というのも、露わになったフィアの容姿が、ファナとそっくりだったからだ。
青い瞳に、整った目鼻立ち、長さこそ短いが銀色の髪。
そして何より。
『胸の形状がそっくりだ』
『キモイです、マスター』
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