第328話 このまま目ん玉潰してやるわ
最強生物によるフライングボディプレス。
当然ながらまともに浴びていたら一溜りもないだろう。
「ファナ殿とオリオン殿は無事でござるっ! あの一瞬の間に、空中へ逃れていたでござるか!」
ファナ、そしてオリオンの姿は空中にあった。
二人ともベヒモスの腹に潰される前に、退避していたのだろう。
「だがアンジェ殿が……」
「アンジェお姉ちゃんなら大丈夫だよ。ほら」
ベヒモスのプレスで圧縮され、凹んでしまった場所から100メートルほど離れた地面が爆発した。
土砂の雨を降らせながら、アンジェが地中から飛び出してくる。
「地面の中に隠れていたでござるか!」
「うん、咄嗟に穴を掘って逃げ込んだんだと思う」
鬱陶しい羽虫を始末することができず、ベヒモスはさらに苛立っている。
鼻息が荒くなり、竜巻が次から次へと発生した。
「残り時間はどれくらいでござるか? 5分くらいでござるか?」
「今ちょうど20分だから、あと10分あるね」
「まだ10分もあるでござるか……」
「早く終わってほしいときって、時間がなかなか過ぎないよね。でも、本人たちはそうでもなさそうだよ」
ハラハラしているカレンとは裏腹に、ファナとアンジェの目には強い闘争心が。
「ん、こっちから攻撃するの、あり?」
「それはありでしょ! ずっとこのまま防戦一方っていうのもつまらないものね!」
「ちょっ、二人とも正気かい!?」
信じられないという顔をするオリオンを余所に、ファナとアンジェはベヒモスに躍りかかっていった。
ガキイイイイインッ!!
「ん、硬い」
ガアアアアアアンッ!!
「確かに、ダンジョンの壁よりも硬いわね!」
だがベヒモスの岩よりも遥かに硬い体表には傷一つ付かない。
「なら」
「柔らかいところを狙う」
普通の身体を攻撃しても無意味と理解した二人が狙ったのは、両目だ。
巨体から考えるとごくごく小さな目だが、それでも人間よりもずっと大きい。
ファナとアンジェはそろってベヒモスの目を襲撃した。
「ッ!?」
咄嗟に目を瞑るベヒモス。
しかし二人はそのまま構わず渾身の一撃を叩き込む。
ベヒモスの瞼は、かなり分厚い。
それでも普通の体表と比べれば薄いため、瞼を破壊するとまではいかなかったものの、それに守られた眼球にまでダメージが届く。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
ベヒモスが絶叫を轟かせる。
最強生物にとって、痛みを感じることなど久しくなかったのかもしれない。
「ん、痛がってる」
「このまま目ん玉潰してやるわ!」
さらに追撃しようとするファナとアンジェ。
「さ、さすがでござるな」
「うちの弟子たちは気性が荒いね。でも……正直、悪手だったかも」
「え?」
ゴーレムが元の土に戻ったかと思うと、完全に激怒したベヒモスの巨体が、突然、地面に沈み込んでいく。
ベヒモスの土魔法で地面が液状化したのだ。
まるで水中に潜るように姿を消したベヒモス。
一瞬の静寂ののち、
ドオオオオオオオオンッ!!
巨体が地面から飛び出してきた。
大きな口を開け、三人を丸呑みしようとする。
運よく口の中心から外れていたお陰で、三人はどうにか逃げ出すことができた。
ベヒモスは空で身体を捻ると、頭から液状化した地面に飛び込んでいく。
「ん、ヤバい」
「どこから飛び出してくるか分からないんだけど!?」
「こんな化け物に食べられたら一巻の終わりだぞ!?」
ベヒモスの予想外の攻撃に慌て出す三人。
「残り時間は約五分……うん、頑張って耐えてね」
「30分が経ちましたので、お知らせに参りました。皆様、無事ですか? ……あれ? 随分と静かですね? って、ベヒモスはどこに!?」
ゲートから姿を現したランディアが、ベヒモスの巨体が見当たらないことに気づいて驚く。
とそこへ凄まじい勢いで殺到してくる三人が。
「ん、待ってた」
「そこにいると危ないわよ!」
「早く帰らせてくれえええええっ!」
「えっ?」
ランディアを押し退けるようにして、ファナ、アンジェ、オリオンがゲートを潜り抜けていく。
「い、一体何が……」
ドオオオオオオオオンッ!!
「は?」
激高状態のベヒモスが地面から飛び出してくる。
空を舞ったあと、呆然としているランディア目がけて降ってきた。
「ぬ、ぬあああああああああああああっ!?」
絶叫と共に、ランディアは慌ててゲートに飛び込んだのだった。
場所が変わって、深部の入り口にある塔の一階ロビーに。
ゲートから戻ってきたランディアが、先に戻ってきていたファナたちを詰問する。
「何をしたんですか!? あんなに怒り狂ったベヒモスは初めて見ましたよ!? しかも何ですか、あの攻撃は!?」
「ん、目を攻撃したら、ああなった」
「攻撃した!? あの場所で30分耐える試験だと言ったでしょう!? わざわざ攻撃して怒らせる人なんて初めてですよ!?」
「だって、やられっぱなしじゃ癪でしょ?」
「普通はそれだけで精一杯なはずなんですが!?」
「……一応言っておくけど、ぼくは攻撃してないからね? 二人に巻き込まれただけだから。それにしても危ないところだった……」
ランディアは大きく息を吐いて、
「……まったく、つい年甲斐もなく叫んでしまったではないですか。しかし、突破率10パーセントの二次試験を、五人中三人もクリアしてしまうとは……最終試験の試験官、そろえるのになかなか骨が折れそうですね」
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