第327話 奥の手は最後まで取っておきたかったけど
「っ!」
土砂の濁流からファナが抜け出し、空へと舞い上がった。
「な、何なのよ、今の!? ただ足を地面に振り下ろしただけでしょ!?」
土魔法で土砂を掻き分けることで、同じくそこから脱出したアンジェが叫ぶ。
「これが神話級の魔物の中でも最強と謳われるベヒモスだよ。足を踏み下ろせば土砂の津波を起こし、鼻息は竜巻と化す。もはや生きる自然災害と言っても過言じゃないよね」
「に、二次試験の突破率が、たったの10パーセントなのが理解できたでござる……」
「もちろんそれだけじゃない」
土砂災害からどうにか五人全員が逃れていた。
「だが幸か不幸か、これだけの巨体となれば、今のような大雑把な全体攻撃しかできないはずだ! 30分、それに耐え続けさえすれば……」
受験者の一人である聖騎士が微かな希望を口にした、そのときだった。
地面が次々と盛り上がっていったかと思うと、土が巨大な人型を形成していく。
「「「ゴーレム!?」」」
現れたのは無数のゴーレムだった。
それも一体一体が身の丈十メートルを超す大きさである。
それらが一斉に受験者たちに躍りかかった。
「ベヒモスは土魔法でゴーレムを操るのも得意なんだ」
「そんなことまでできるのでござるか!?」
「しかもそのゴーレム一体一体が、強い」
巨体とは思えない俊敏さで動くゴーレムたち。
当然パワーも耐久力も並のゴーレムとは比較にもならず、数でも勝るそれらに囲まれると、さすがに一次試験を突破してきた猛者たちも防戦一方だ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!
さらにそこへ、ベヒモスの鼻息による暴風が彼らを襲う。
またもそろって巻き込まれ、天高くまで跳ね上げられる。
地面に落ちてきたところで、再びゴーレムが殺到。
「くっ……これはっ……」
顔を歪めながら、ゴーレムの猛攻に必死に耐えている聖騎士。
どうにか治癒魔法でダメージを回復しようとするが、その暇がない。
「がっ!?」
焦りのせいで立ち回りに綻びが出てしまったのか、ついにはゴーレムの拳をまともに浴びてしまう。
吹き飛ばされて地面に転がった聖騎士は、もはや立ち上がることもやっとといった様子だったが、幸いにもすぐ近くにランディアが残していったゲートが。
「も、もう無理だっ……た、退散っ……」
彼は必死にそのゲートへと飛び込んだ。
これで一人脱落。
いや……もう一人、すでに危うそうな冒険者がいる。
「我が剣が、まるで通じぬとは……」
ベテラン冒険者だ。
剣を幾つも作りだし、ゴーレムの群れに向けて雨のごとく降らせるが、その硬い装甲に弾かれるだけ。
一方でゴーレムの大攻勢やベヒモスの全体攻撃によって、どんどんダメージを負っていく。
「今、どれくらい経った!? っ……まだ10分も経っていないだと!? 30分も耐え抜くなど不可能だろう!?」
今にも撤退しそうなベテラン冒険者は、そこで周りを見渡して叫ぶ。
「あの若い三人っ、まだ生き残っているというのか……っ!?」
ファナ、アンジェ、そしてオリオンの三人は、この嵐のような環境にも対応できていた。
迫りくるゴーレムの猛攻の中を、俊敏な動きで飛び回り続けるファナ。
ベヒモスが作りだしたこのゴーレムは高い耐久力を持っている上に、破壊したところでいくらでも再生産されるため、ひたすら回避に徹していた。
ビヒモスが放つフットスタンプも、初見でその予備動作を見切ったようで、先んじて空に逃げれば完璧に凌ぐことが可能だ。
一方のアンジェはというと、ゴーレムの懐に飛び込んでは、強烈な掌底で次々と吹き飛ばしていく。
ゴーレムはノーダメージですぐに起き上がっているが、そもそも倒しても意味のない相手なので、強制的に距離を取って包囲を防ぐことで凌いでいく作戦だろう。
ビヒモスのフットスタンプに対しては、土魔法で簡単に避けることができた。
そしてオリオンは、
バチバチバチバチッ!!
「足で何かが弾けているでござる?」
「雷だね。なるほど、雷を推進力に変えることで、高速移動を実現したのか」
乱立するゴーレムの隙間を、まさに雷のような速度で抜けていくオリオン。
一瞬の加速力と最高速度においては、ファナをも上回るだろう。
「なるべくこの奥の手は最後まで取っておきたかったけど……」
土砂の津波も鼻息の竜巻も、彼のこの超機動力をもってすれば、余裕で凌ぐことができた。
「は、ははは……どうやらSランクに届くのは、彼らのような才能に溢れた冒険者たちのようだな……」
自分との才能の差を痛感したのか、ベテラン冒険者は乾いたような笑いを零し、ランディアのゲートから退散していった。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
そのときだ。
なかなか羽虫を排除できないことに苛立ったのか、ベヒモスが怒ったような雄叫びを上げたかと思うと、
ドオオオンッ!!
「ん、飛んだ」
「ちょっ!?」
「なっ……」
四本足で地面を蹴り、跳躍したのだ。
全長300メートルを超える巨躯が、ファナたちの頭上へ。
そのまま足を広げ、ムササビのような姿でお腹からのフライングボディプレス。
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッ!!!
荒野全体に激震が走り、巻き起こった衝撃波が離れた位置に浮かんでいるはずのセノグランデ号・快を大きく揺らした。
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