第326話 心臓が止まるだろうね
「それではこれより二次試験をスタートいたします」
翌日、塔の一階ロビーに集合した面々に、ランディアが告げる。
一次試験を突破し、二次試験に進んだのは全部で五人。
ファナ、アンジェ、オリオンの三人の以外の二人は、どちらも男だ。
一人は二十代半ばくらいの金髪の青年。
どうやら聖騎士らしく、剣と盾でバランスのいい攻防が可能な上に、優秀な治癒魔法の使い手でもあった。
もう一人は三十代と思われるベテラン冒険者。
こちらは剣を瞬間的かつ無数に作り出し、さらに自在に操ることができるという特殊な能力を持っているようで、エビルユニコーンも割と簡単に討伐していた実力者だ。
「これから皆様を試験場所にお連れいたしますので、そこで逃げずに30分だけ耐え忍んでください。そうすれば二次試験合格で、最終試験に進むことができます」
受験者たちがそろって首を傾げた。
「ん、それだけ?」
「はい、それだけでございます。至ってシンプルでしょう? なお、試験場所は最初にお伝えした通り、無限の荒野の中心、最深部となります。さあ、皆様、準備はよろしいでしょうか?」
訝しみつつも全員が覚悟したように頷くと、ランディアは何やら気合を入れ始めた。
「はあああああああああっ!」
直後、何もない空間に謎の門が出現した。
「……ふう」
ランディアは額の汗を拭って、
「これは私の特殊能力で生み出した〝ゲート〟と呼ばれるものです。潜り抜けることで任意の場所へと一瞬で移動することが可能なもので、今は無限の荒野の最深部に繋げてあります」
門の通り口の部分は鏡面のようになっていて、向こう側は見ることができない。
ランディアは自ら先陣を切って、門の中へと飛び込んでいった。
「ん、消えた」
「後ろ側にもいないわね」
「ぼくたちも行こう」
後を追って、受験者たちも次々と門を潜り抜けていく。
その瞬間、急にモニターが真っ暗になってしまった。
「おっと、繋がりが切れちゃった」
「どういうことでござる?」
「あのゲートのせいで、遠見魔法の対象から外れちゃったってこと。でも目印を付けてあるから大丈夫。……最深部に行ったはずだから……あっ、いたいた」
再びモニターに映像が戻る。
ファナたちの向こうには岩の壁が映っていた。
「崖でござるか?」
「いや、これはただの崖じゃない」
遠近を調整し、どんどんズームアウトしていく。
冒険者たちの姿が豆粒のようになっていったところで、ようやくその全貌が明らかになった。
恐ろしく巨大な一枚岩だ。
高さは200メートルほど、全長は300メートルを超えているだろうか。
「ほう、まさか、やつか」
一緒にモニターを見ていたリルが何かに気づいたように唸った。
「やつ……?」
「これの正体が分かったみたいだね。さすが神話級の魔物」
『神話の時代を生きた者ならば、知らない者はいないでしょう。なにせ、あらゆる生物の中で、最強と言っても過言ではない存在なのですから』
リントヴルムすらも恐れ戦く中、いきなり巨大な岩が揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「ん、地震?」
「違うわ! この巨大な岩が動き始めているのよ!」
「まさか、これは、岩などではない……っ!?」
ランディアが頷く。
「ええ、これは岩などではありません。れっきとした生物です。今とは比較にもならないほど凶悪な魔物が跋扈したとされる神話の時代にあって、頂点捕食者として君臨したと言われている最強の魔物――」
四本の足で立ち上がり、さらに頭を持ち上げてその正体を露わにする。
その姿は水棲生物のカバによく似ていた。
「――ベヒモスです」
目を覚ましたベヒモスが大きな口を開け、豪快に欠伸をする。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
その凄まじい大音量に、ファナたちは慌てて耳を塞いだ。
「並の人間だったらこれだけで心臓が止まるだろうね」
「今、この船が揺れなかったでござるか!?」
「うん、揺れたね。遠いけど窓からも見えるよ」
「ほ、本当でござる!? なんという化け物でござるか!? 明らかにあの八岐大蛇を超えているでござるよ!? こんなのどうやって討伐するのでござる!?」
「いや、討伐する必要はないよ。あのおじいちゃんが言ってたけど、二次試験の内容は、30分間、逃げずに堪えること。つまり死なずにあの場に留まっていればOKってことだよ」
ランディアが「試験はすでにスタートしています。皆様のご武運を。では、私はいったんこれで。また30分後に参りますので」と告げ、ゲートの向こうへと退避していく。
ゲートは残ったままだ。
恐らくあれを使ってこの場から逃げ帰るのもできるということだろう。
無論、その際は失格となるが。
「30分、ここから逃げずにいればいいってことね! 倒すのは無理でも、それくらいなら問題ないでしょ!」
「ん、いける」
ベヒモスはどうやら足元にいる虫けらのような存在に気づいたようで、右の前足を振り上げると、地面に思い切り叩きつけた。
ドオオオオオオオオオオオオンッ!!
「「「~~~~~~っ!?」」」
巨大なクレーターが形成されると共に、大量の土が津波と化して一同に襲いかかる。
全員そろって濁流のようなそれに呑み込まれてしまった。
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