第324話 何より厄介なのが
「さて、どうやら全員が無事にスタート地点に立てたようですね」
48時間後、11人の受験者たちが塔に集結していた。
脱落した者は一人もおらず、時間内に到着することができたようだ。
もっとも、ほとんどの受験者は時間ギリギリで、最後の一人は残り10分前にようやくたどり着くことができたほど。
ちなみに俺は引き続きセノグランデ号・快の操舵室で、モニターに映しながら試験の様子を見学している。
ちゃんと音声付きだ。
「それでは早速、一次試験を始めたいと思います」
「ま、待ってくれっ!」
慌てて手を上げたのは、その最後に到着した冒険者だ。
「お、俺はたった今、着いたばかりなんだ。それも、ほんの10分前のことだぞ? 不眠不休で走り続けて、途中、何度も魔物に襲われて……せめてもう少し休憩時間をくれないか?」
早く来れた者はたっぷり休みを取れたはずで、不公平だというのだろう。
するとランディアは苦笑して、
「なるほど、しっかりと準備運動をなさったようで。ぜひともその成果を一次試験で見せてください」
そんなふうに希望を軽く一蹴する。
「それで肝心な一次試験の内容ですが、それはエビルユニコーンを発見し、その角を手に入れてくることです」
「「「エビルユニコ―ン?」」」
「はい。ここ無限の荒野の深部にしか生息しない、ユニコーンの上位種です。その角はエリクサーの素材になるとも言われる非常に希少なものです。制限時間は……24時間。つまり明日のこの時間までに、エビルユニコ―ンの角を持ってこの塔に戻ってくることができれば一次試験通過となります。なお、エビルユニコーンの好物はニンジンです。特にコーラーイ地方のニンジンを好むようでして、優れた嗅覚で数百メートル離れていても匂いを察知し、近づいてくるとされています」
ランディアが足元に置いていた箱を開けると、そこには大量のコーラーイ地方のニンジンが入っていた。
「各自、五本ずつ持っていっていただいて構いません。すべて無くなってしまっても、追加分はありませんのでご注意を。それでは、只今の時刻より一次試験を開始いたします」
ニンジンを我先にと手にした受験者たちが、一斉に塔を飛び出していく。
ファナ、アンジェ、オリオンの三人もそれに続いた。
「またファナお姉ちゃんに有利そうな試験だね」
「エビルユニコーンというのは、どのような魔物でござるか?」
カレンが質問してくる。
「そもそもユニコーンというのは、頭に角を生やした馬の魔物だよ。とにかく素早くて警戒心が強くて、なかなか討伐が難しい。その代わり、強さ自体は大したことないんだけど……上位種のエビルユニコーンとなると、まったく話が変わってきちゃう。めちゃくちゃ好戦的で、しかも強い。何より厄介なのが、その角に――あっ、早速、遭遇しちゃった受験者がいるね」
十一人いる受験者のうちの一人が五本のニンジンを腰にぶら下げながら歩いていると、遠くから凄まじい速度でエビルユニコーンが接近してきた。
「っ、この足音はっ……来たかっ――へ?」
気配を察して振り返ったその冒険者は、我が目を疑った。
なにせ振り向いたときにはもう、目の前に巨大な馬体が迫っていたからだ。
「~~~~~~~~~~ッ!?」
吹き飛ばされ、宙を舞った。
そのまま岩場に強かに叩きつけられてしまう。
「がっ……ぐっ……あ、あれがっ……エビルユニコーンっ!?」
それでもさすがはSランクを目指すAランク冒険者だ。
顔を歪めながらもなんとか立ち上がる。
「こんなにデカいのかよっ……」
「ヒヒイイイイイイインッ!!」
鳴き声を轟かせるエビルユニコーンは、全長およそ十メートル、体高は五メートルといったところだろうか。
頭に生えた角は一メートル近い長さを誇り、さながら騎士が手にする突撃槍のようだ。
「ファイアランスっ!」
Uターンしながら悠然と方向転換してくるエビルユニコーンへ、冒険者が攻撃魔法を放つ。
だがそれはあっさりと躱され、再び猛スピードで躍りかかってくる。
「やばっ……うおおおっ!?」
慌てて突進を回避するAランク冒険者だったが、
「ニンジンがっ!?」
腰に提げていた五本のニンジンをすべて、角で器用に奪い取られてしまう。
走りながらニンジンを食べるエビルユニコーンを逃がすまいと、冒険者は追いかけるが、走力が段違い過ぎてどんどん引き離されていく。
「くそっ……逃げられたかっ……」
諦めて足を止める冒険者。
しかしそこへ、ニンジンを食べ終えたエビルユニコーンが戻ってきて、
「よかった、まだ近くにいたのか! ……ん、何か、角の周りで何かが光ってるような」
次の瞬間、エビルユニコーンの角から猛烈な黒い雷撃が放たれ、その冒険者のすぐ足元の地面が爆散した。
「……は?」
しばし唖然としたのち、冒険者はようやく自分が何をされたのか理解できたようで、
「こここ、こんな化け物っ、倒せるわけねぇだろおおおおおおおおっ!」
尻尾を巻いて逃げ出したのだった。
「そう、あの角が厄介なんだ。あんな風に強い雷撃を放つから」
「なるほどでござる。しかし、好物のニンジンを手に入れたのに、何でわざわざ戻ってきたのでござるか?」
「好戦的だって言ったでしょ? 特に自分に攻撃してきた相手には容赦なくて、トドメを刺すまでどこまでも追いかけてくるんだ」
「怖すぎでござるな。あの冒険者、大丈夫でござるか?」
「どうだろう? まぁそれよりニンジンの方が好きだから、別のニンジンの匂いを嗅ぎ取ったらそっちに行くんじゃないかな。……あっ、言ってる傍から」
エビルユニコーンが何かに気づいたように鼻先を震わせたかと思うと、追撃していた冒険者を急に放置し、方向転換する。
「あの冒険者、命拾いしたでござるな」
「うん。ニンジンも食べられちゃったし、きっと棄権かな」
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