第323話 まったく信用できませんね
翌日、試験を辞退したモヒカン男を除く11人全員が、時間通りにロビーに集まっていた。
試験官のランディアが、腕時計で定刻になったことを確認してから、
「では、昇格試験を開始したいと思います。場所は昨日ご説明した通り、無限の荒野の深部となります」
「そこまでどうやっていくのよ? 行くだけで一週間はかかるって聞いたわ?」
質問したのはアンジェだ。
彼女の言う通り、無限の荒野の深部ともなると、辿り着くだけで何日も必要になる。
「おっしゃる通りです。ただ、正直なところ、たかが準備運動でそんなに何日もかけてはいられません。というわけで、期限は今から48時間。48時間以内に、深部に辿り着いてください。ここから荒野を突っ切ってひたすら真っすぐ北に向かっていけば、一本の塔が見えてくるはずです。そこを集合場所といたしましょう。もし途中で引き返したり死んでしまったり、あるいは時間内に到着できなければ……その時点で試験は不合格となります」
受験者たちがざわつく。
「つまりはそれが一次試験ってこと?」
「なるほど、そういうことか」
「48時間以内は相当難しいはずだぞ」
「けど今、準備運動って言ってなかった?」
ランディアは首を振って、
「いえいえ、一次試験はそこからスタートするのですよ」
「「「え?」」」
「48時間で深部まで行くのは、ほんの準備運動です。つまり、それくらいできなくては昇格試験のスタート地点にも立つことができない、ということですね。さあ、そんなことを話している間にも、すでに一分が経ってしまっていますよ?」
「ちょっ!?」
「もう始まっているのか!?」
「くそっ、急がないと!」
建物を急いで飛び出していく受験者たち。
……そんなに慌てなくても、48時間もあるんだし、数分くらい誤差の範囲だけどなぁ。
「じゃあ、頑張ってね、お姉ちゃんたち」
「ん」
「あんたたちはどうしてるのよ?」
「飛空艇から見学してるよ」
「見学……?」
首を傾げるオリオンに、俺は頷いて、
「うん、遠見魔法を使えば、離れた場所にいるお姉ちゃんたちの様子をリアルタイムで見ることができるんだ」
「そんな不道徳な魔法があるのか!?」
「あはは、大丈夫だよ、別にそれでこっそり裸を見たりなんてしないからさ」
『まったく信用できませんね』
『何を言ってるんだ、リンリン。見るだけ触れないなんて、むしろ地獄だろう』
『……さいですか』
少し遅れてファナたちも出発していく。
試験を受けない俺やカレンは飛空艇に戻ると、そこで言った通り遠見魔法を使用し、操舵室にあるスクリーンに三人の様子を映し出した。
『なぜ胸をアップにしているのですか、マスター?』
「おっと、間違えちゃった」
荒れ果てた大地を疾走する三人娘。
深部に向かって同じルートを進むわけだが、仲良しこよしでみんな一緒にゴール、なんて考えは彼女たちにないため、すでにバラけていた。
やはり足の速いファナが、オリオンやアンジェをどんどん引き離していく。
それどころか、最初に建物を飛び出していった受験者たちをもあっさりと追い抜き、全体の先頭へと躍り出た。
「じゃあ、僕はちょっとお出かけしてくるから」
「見ないのでござるか?」
「うん、あの三人なら深部に辿り着くことくらい余裕だろうからね。一次試験が始まる頃にまた見に来るよ」
そう告げて、転移魔法を使う。
向かった先は――もちろん、東方のエドウ将軍のお風呂だ!
「ママあああああああんっ! またおっぱい飲ませてもらいにきたよおおおおっ!」
「む? 何だ、この面妖な赤子は」
「って、男!?」
しかしそこにいたのは筋骨隆々の男で。
「将軍じゃないの!?」
「拙者は将軍の夫だが」
「あ、そう。出直してきます」
俺は即行で飛空艇に舞い戻った。
「? もう帰ってきたでござるか?」
「ねぇ、カレンお姉ちゃん、何で母乳って子供を作らないと出ないのかな? 男なんていなくても、おっぱいから母乳が出るような世界になればいいのにね」
「何の話をしているでござる!?」
最初に深部に辿り着いたのはやはりファナだった。
協会本部を出発してから、およそ十六時間。
真夜中のことである。
「ん、塔」
暗闇の奥に明かりが見え、近づいていくとそれは人工的に作られた塔から漏れ出る光だった。
入り口から中に入ると、待っていたのは試験官のランディアだ。
「もういらっしゃいましたか。お早いですね。断トツの一番乗りでございますよ」
「……先に着いてる?」
「ははは、もちろん走ってきたわけではございません。それより、お疲れでしょう。上に宿泊できる部屋がございますので、そこでお休みになられてください」
ランディアが言うには、この塔はかつて、この荒野の一部を支配していた魔族の住処だった建物だという。
「他にもこうした建物は荒野の各所に残っていましてね。こうした塔型の他に、ピラミッド型や柱型、地下壕型など色々ありまして、なかなか面白いのですよ」
そしてファナが到着してから約三時間後に、二人目のアンジェが辿り着く。
少しずつ空が明るくなり始めた頃合いである。
「さすがに早いわね」
さらにアンジェから遅れること三十分後、今度は三人目のオリオンが到着した。
「翌朝までに三人も……今回の昇格試験はなかなか期待できそうですね」
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