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第318話 僕は手出ししてないよ

 ベルゼブブはちゃんと倒せていたようだ。

 しばらく待ってみても復活することもなければ、第二のボスが登場することもなかった。


「この羽根は……ドロップアイテムってところかな」


 床はボスの翼から抜け落ちたと思われる、漆黒の羽根が何枚か散らばっていた。

 かなり強力な魔力を宿すこの羽根は、恐らく武器や防具などの素材として利用すると、高い効果を発揮することだろう。


「やったね、お姉ちゃんたち。これで無事にダンジョンクリアだよ」


 激しい戦いを経て、ぐったりしている三人娘に声をかける。


 それにしても、まさかボスの機動力を奪うために、広い空間そのものを狭くするなんていう戦法に出るとは思わなかった。

 奇抜なアイデアを即実行に移したアンジェはもちろんのこと、その意図をすぐに察して風でさらに機動力を封じつつ本物を焙り出したファナも、千載一遇のチャンスを一撃でモノにしたカレンも、俺の想定を超えた素晴らしい働きをした。


「ん、お腹空いた」

「あんた、第一声がそれ? まぁ、確かにお腹は空いたけど……」

「危険だからと師匠に止められて、今まで一度も試したことがない、一か八かでやった秘技でござったが……上手くいって、よかったでござる……反動で、ぜんぜん動けないでござるが……」


 カレンは潰れたカエルのように地面に倒れ伏していた。

 どうやらあの秘技は、ぶっつけ本番で繰り出したものだったらしい。


「内外聯絡式完全再生魔法」


 三人に治癒魔法を使う。

 身体の内外から治癒させる魔法なので、カレンのような闘気が枯渇した状態の人にも効果がある。


「ん、階段」

「どこに繋がってるのかしら?」

「これで地上に戻れるはずだよ。ダンジョンの中には、ボスを倒すと地上までの直通経路が出現するところがあるんだ」


 ダンジョンコアを壊されたくないので、早くお帰り願おうというダンジョン側の意図だろう。


 螺旋状の階段が、遥か上の方まで延々と続いていた。

 地上から七十五階層まで下りてきただけあって、かなりの距離であるが、特に急ぐ必要もないのでのんびり地道に上っていった。


 階段を上り切ると、ダンジョン一階、入り口を入ってすぐ傍にある通路に繋がっていた。

 全員が通路に出ると、ボス部屋と繋がる階段ルートが消失する。


「魔物の死体があちこちに転がってるけど、随分と静かね」

「ん、動いてる魔物がいない」


 ダンジョンを出ると、冒険者たちが魔物の死体を解体したり運び出したりしていた。

 どうやらすでに後処理に入っているらしい。


「戻ってきたのか」

「アークのおじちゃん。どうやら迷宮暴走が収まったみたいだね」

「ああ。五時間ほど前にな。今は見ての通り、大量の魔物の死体を片付けているところだ。ギルド総出でやっているが……多すぎてまだまだ終わりが見えん」

「……五時間ほど前?」


 三人娘がボスを倒してから三十分程度しか経っていないので、それより前に迷宮暴走は収まったらしい。


「それもこれも、あの獣人のお陰だ。正体はフェンリルだそうだが……獣化していて、本来の力より遥かに制限されているのだろう? それであの強さとは……」

「うん、少なくとも半分以下にはね」

「そいつは恐ろしいな……そんな魔物を手懐けているお前さんの方が、よっぽど恐ろしいが」


 魔物の死体を運び出す手伝いをしていたリルが、俺を見つけてこっちに来る。


「我が主よ、戻ってきてたのか」

「今さっきね。五十階層の魔物程度じゃ、人化したリルの相手にもならなかったみたいだね」

「当然だ。あれくらいなら何体いようが我の敵ではない」


 さすがに人化状態を解除する必要があっただろうが、リルならベルゼブブでも一人で倒せただろう。


「リル、と言ったか? 今日でAランクに昇格だ。そんなやつをBランクにしておくなど、意味が分からないからな」


 アークが肩をすくめながら、ギルド長権限でのリルの昇格を口にする。


「それはそうと、お前さんたちのことだから、てっきりもう少し粘るかと思っていたぞ」

「……何の話?」

「ダンジョンを攻略すると宣言していっただろう? その割に随分と早く帰ってきたな」

「え? ダンジョンなら攻略できたけど?」

「は?」

「ちゃんとボスを討伐してきたよ。僕の予想通り、ぴったし七十五階層。ボスは堕天使で、気持ちの悪い蝿の顔をした強敵だったね」


 俺がはっきり告げると、アークはしばし呆然としたあと、


「な、な、なっ……ベガルティア大迷宮をっ……本当に攻略してしまっただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 大声で絶叫した。

 片付け作業をしていた職員や冒険者たちが一斉に手を止め、仰天した顔でこっちを見てくる。


「ん、間違いない」

「思ってたより苦戦したわ」

「拙者がトドメを刺したでござるよ!」


 ギルドの地下に設けられたこの部屋の中が一気にざわつく。


「え、マジ?」

「このダンジョンって、今まで誰も攻略できてないダンジョンだよな?」

「ボスの姿を見たことのある冒険者もいないはず……」


 アークはわなわなと唇を震わせたまま、


「まさか、本当に攻略してしまうとは……しかもこんな短期間で……まぁ、お前さんの規格外っぷりを考えたら、おかしな話ではないが……」

「あ、もちろん宣言通り、あの三人娘だけで攻略したけどね。僕は手出ししてないよ」

「嘘だろおおおおおおおおおおおおおっ!?」


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