第315話 ただの勘じゃないの
五十階層を超えてくると、再び魔物が現れ始めた。
「どうやら今回の迷宮暴走は、五十階層より浅いところで起こっているみたいだね」
迷宮暴走には、その範囲が存在している。
ダンジョンの全体が迷宮暴走に陥ることもあれば、今回のように一部の階層のみで発生することもあるのだ。
「まぁ時間差で範囲が広がっていくケースもあるけど」
そんなことを俺が一人で呟いている間にも、三人娘は五十階層の魔物を難なく蹴散らしている。
「うん、まだまだ余裕そうだね」
やがてアークがかつてソロで来たという五十五階層を越え、六十階層へ。
俺が以前、純度80%超えのミスリルを見つけるため、単独で潜ってきた階層だ。
「……そういえば、あのとき他にもソロで来てる冒険者のおじさんがいたっけ。いま考えると、割と凄腕の冒険者だったのかもしれないな」
『わたくしが一時休眠に入っているときですね。元Sランク冒険者のギルド長でもソロで五十五階層が最高ということですから、少なくとも同等以上の実力者と考えられます。しかし、マスターを見つけてさぞかし驚いていたことでしょう』
六十階層の魔物となると、さすがに今のファナたちでも瞬殺とまではいかなかった。
それでも苦戦するようなことはなく、余力を残しながら倒している。
「はぁっ、はぁっ……じゅ、十分、戦える相手ではござるがっ……た、体力が、そろそろキツイでござる……っ!」
カレンは疲労困憊といった様子で、呼吸が荒くなってるけど。
「確かにここまで強行軍だったからね。ちょっと休憩しよう」
いったん体力と魔力の回復を待つことにした。
周辺の状況を確認しやすく、同時に遮蔽物があって身を潜めやすい場所へ。
「僕が魔法で回復させた方が早いけど、なるべく独力で頑張ってほしいからね」
俺が結界を張れば安全に休めるが、それもやめておく。
「道案内もこの辺で終了だよ。後は自分たちの力だけで進んでごらん」
「普段ならともかく、今は迷宮暴走中なのよ? 地道に探索してる場合じゃないと思うんだけど?」
「大丈夫だよ。リルも置いてきたし、せいぜい五十階層までの魔物しか出てこないはずだから。それに……この中に、探索魔法に準じる方法が使える人がいるからね」
「え、それ誰よ?」
アンジェが眉根を寄せながら順番に顔を見ていく。
「まさか、拙者でござるか!? 言われてみれば、なんとなく進むべきルートが分かるような気がしていたでござるよ! 次は……あっちに進めばよいでござるな!」
「ううん、全然違うよ」
「ただの勘じゃないの……」
まったく逆の方向を自信満々に指さすカレン。
まかり間違っても彼女ではない。
「ん、向こう……100メートルほど進んで……左に……それから50メートル……今度は右斜め方向……」
「っ!? あんた、分かるの!?」
「……ん、なんとなく」
「あんたも勘?」
「でも合ってるよ、ファナお姉ちゃん」
ファナは完璧に行くべきルートを認識していた。
「ここまで、師匠が示した道……なぜか、私も分かってた。たぶん、勘じゃない。……魔力の流れ?」
「ご名答だね」
ダンジョンには、魔力の流れというものがある。
それは浅い階層から深い階層へと向かっていて、非常に緩やかだが、まるで風のように吹いているのだ。
それを感じ取ることができれば、どこに次の階層へと続く階段へのルートが分かるという寸法だ。
「でも、魔力の流れならあたしたちだって感じれるはずでしょ? ……まったく分からないけど」
「すごく微細だから、繊細な人じゃないと難しいんだよね」
「どうせあたしは繊細とはかけ離れてるわよっ!」
アンジェが憤慨する。
「こればかりは才能だね。ファナお姉ちゃんは風魔法が得意だから。一番繊細な魔力操作が必要になる魔法だからさ、風魔法は」
「てか、こいつなんて、むしろ誰よりも図太いはずでしょ? どんなことがあってもぜんぜん動じないし」
「それはそうだけど、性格の話じゃないからね。気持ちが繊細な人と、繊細な作業が得意な人は別でしょ」
なお性格で言えば、むしろアンジェの方が繊細かもしれない。
「逆に土魔法が得意な人は、持続力が高いよ。魔力の総量が多いだけじゃなく、魔力を長時間使い続けられるだけの精神力があるんだ」
「悪くないわね!」
アンジェの機嫌が良くなる。
「二人は魔法が使えてよいでござるな……いや、拙者はサムライ! 刀に命を捧げた身でござる! 羨ましくなんてないでござるよ!」
「身体強化魔法は使ってるけどね」
「それはノーカンでござる」
三人とも回復したようなので、探索を再開することにした。
正しいルートが分かるようになったファナが先導し、進んでいく。
「ん、曲がった先に魔物」
「あんた、見えないのに分かんの?」
魔力の流れを感じ取れるなら、魔物を察知するのは難しくない。
果たしてファナの言った通り、通路を曲がった直後に魔物が待ち構えていた。
「柳生心念流・迅雷」
すかさずカレンが斬撃を叩き込む。
「本当にいたでござるな!」
「ん、足元、トラップ」
「へ?」
カチッ。
ファナが指摘したときには、すでにカレンは床のスイッチを踏んでいた。
直後に壁から矢が発射されてカレンに襲い掛かる。
技を出したばかりのカレンは咄嗟に反応できなかったが、代わりにファナが斬り落とした。
「トラップまで分かるでござるか……た、助かったでござる……」
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