第314話 いくら脳筋のあたしでも
「ダンジョンのボスを倒す、だと……? おいおいおい、本気で言ってるのかっ?」
しばし呆然とした後、アークが信じられないといった顔で問い詰めてくる。
「ベガルティア大迷宮は、まだ誰も攻略者がいない、国内、いや、世界でも最高レベルの高難度ダンジョンなんだぞ!? それをいきなり攻略するなんて……ましてや、その娘たち三人だけで攻略するなんて、どう考えても不可能だ!」
「大丈夫、一応僕が付いていくから。まぁ手は出さないつもりだけど。ついでにこっちにはリルを残しておくから、どんな魔物が現れてもまず問題ないと思うよ」
いくら高難度ダンジョンでも、フェンリルに匹敵する魔物はいないだろう。
仮にいたとしても、それこそボスくらいだ。
「ちょっと待ちなさいよ! 前に四十階層くらいまでは潜ったことがあるけど、それでも割とギリギリだったわよ? それよりもっと深いんでしょ?」
「アンジェお姉ちゃんにしては及び腰だね?」
「いくら脳筋のあたしでも、勇敢と無謀をはき違えたりはしないわよ! って、誰が脳筋よ、誰が!?」
今のは自分で言ったんじゃん……。
「心配は要らないよ。僕は一人で六十階層まで行ったけど、今のお姉ちゃんたちならそれくらい余裕だと思う」
「六十階層が余裕、か……」
「あはは、うちらなんて、五人パーティで四十五階層が限界だったけどねー」
「俺は現役時代、ソロで五十五階層まで行ったことはあるが……それ以上の探索は危険と判断して断念した」
ゲインとエミリー、そしてアークが、自身の攻略記録を明かす。
記録に残っている範囲だと、六十三階層が過去最高らしい。
「ちなみにこのダンジョン、僕の見立てだと、最下層はたぶん七十五階層くらいかな」
「「「七十五階層!?」」」
みんなの声が重なる。
「六十階層ならともかく、七十五階層は無理でしょ!? Sランクのギルド長でも、五十五階層が限界だったって聞いてなかったの!?」
「……いや、限界だったと言っても、あくまで安全に探索できる範囲では、の話だがな」
「あはは、アンジェお姉ちゃん。心配しなくたって、今のお姉ちゃんならギルド長にだって勝てるから。もちろん、ファナお姉ちゃんもね?」
俺の言葉を受けて、アークのこめかみがピクリと動いた。
「そいつは聞き捨てない話だな……と言いたいところだが、他ならぬお前さんの見立てだ。きっと正しいんだろう」
本人が認めたことで、冒険者たちがざわついた。
「マジか……あの娘たちが、ギルド長よりも強い……?」
「おいおい、さすがにそれは……」
「けど、当のギルド長が頷いてるぞ?」
ちなみにカレンは二人よりも少しレベルが落ちるが、まぁ細かいことは良いだろう。
「ほら、こうしている間にも、どんどん魔物が出てくるから早く出発するよ!」
「ん」
「っ……まったく、どうなっても知らないわよ!」
「気合入れて行くでござる!」
そうしてファナ、アンジェ、カレンの三人娘たちが、勢いよくダンジョンへと飛び込んでいった。
「じゃあ、リルはお留守番だけど、よろしくね」
「承知した」
こっちのことはリルに任せ、俺もその後を追う。
「あんまりのんびりはしてられないから、ルートだけは僕が指示するね。あと、トラップも」
六十階層までしか行ったことはないが、探索魔法を使えば正しいルートは簡単に分かる。
「ん、任せた」
「じゃあ、あたしたちはひたすら目の前に現れる魔物をぶっ倒していけばいいってわけね!」
「分かりやすくて助かるでござる」
最初の階層は、ゴブリンやスライムといった雑魚ばかり出現するのだが、今は迷宮暴走中のため、四十階層などに出現するような魔物が列をなしていた。
「んっ」
「はあああああっ!」
「柳生心念流・波濤」
しかし三人娘たちは、それらを軽々と蹴散らし、一切速度を緩めることなく通路を駆け抜けていく。
「いいね。もう四十階層の魔物じゃ、全然相手にならないね」
ベガルティアにいたときは、この階層の魔物に割と苦戦していたというのにな。
「とはいえ、こんな浅い階層から四十階層の魔物と戦っていたら、さすがに持たないかも。お姉ちゃんたち、そこを左に曲がって!」
俺は指示を出し、魔物の多いルートを迂回していくことにした。
多少回り道をしたとしても、この方が結果的に早いだろう。
そうしてダンジョンを進むこと、小一時間。
全力疾走を続けたお陰で、あっという間にかつての最高到達階層、四十階層に辿り着いていた。
もちろんただの通過点に過ぎない。
七十五階層まで、まだあと半分近くもあるのだ。
「どう、疲労度は? 休憩とか要りそう?」
「ん、問題ない。でもお腹空いた」
「食べ物ならあるよ」
「ほしい」
「あたしも食べたいわ!」
「拙者も!」
亜空間から食料を取り出し、彼女たちに放り投げる。
パンや肉などを頬張りながら、足を止めることなく走り続けた。
「もぐもぐ……魔物、少ない? もぐもぐ……」
「むしゃむしゃ……確かにそうね! むしゃむしゃ」
「はぐはぐはぐっ……しばらく会っていないでござるが、そういうルートを選んでいるでござるか? はぐはぐはぐっ」
「ううん、そんなことないよ。多分、この辺りの階層の魔物はみんな上の階層に行っちゃったんだと思う。んぐんぐんぐ」
俺もミルクで栄養補給だ。
そうしてほとんど魔物と遭遇することなく、一気に四十階層から四十九階層まで踏破したのだった。
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