第305話 やはり嫌われていたようですね
前世の俺が作った魔導飛空艇の最高傑作、ベレテッテグロッセ号。
まさか、こんなところで再会できるとは思ってもいなかった。
俺が死んだときには大賢者の塔にあったはずだ。
恐らくそれを三人の弟子たちが持ち出したのだろう。
「ねぇねぇ、ダーナお姉ちゃん。その三賢人たちって、どういう人たちだったの?」
もしかしたら俺のことも言い伝えられているかもしれない。
そう思って訪ねてみると、
「分からない。彼らは自分たちの出自について多くを語らなかったそうだからな。ただ、凄腕の魔法使いたちだったことは確かだ」
そんな返事が返ってくる。
『いや語れよおおおおおおおおおおおおおおおっ!? 特に俺のこと! 師匠としてお前らを育てた大恩人だぞ!? この魔導飛空艇だって大賢者アリストテレウスが作ったものだって、ちゃんと後世に伝わるように語っておけよおおおおおおっ!』
なんて使えない弟子たちなんだ……。
『その弟子たちに嫌われていたのでは? どうせ若くて美人で胸の大きな弟子以外には、片手間で対応していたのでしょう』
『それは当然だろ』
『…………やはり嫌われていたようですね』
現在は神船として祀られているため、中に入ることはできないそうだ。
「そもそもどうやって船内に入ればいいのかが分かっていない。入り口らしき場所が見たらないためだ。当時の記録も断片的にしか残っておらず、長年この謎を解くために学者たちが頭を捻っているが、未だに判明していない」
船内に出入りする方法は、セノグランデ号と同じだ。
昇降台などの存在しないエレベーター式で、船の真下であらかじめ設定しておいた合言葉を口にすれば、自動で船内にまで吸い上げてくれる。
『……はっ!? 今ここで船に入ってみせて、実は三賢人の一人の生まれ変わりですってやれば、島の住人たちから讃えられて女の子と好きなだけイチャイチャできておっぱいも自由に飲ませてもらえるようになるかも……っ!?』
『弟子のフリをするとか、マスターにはプライドがないのですか?』
プライド何それ美味しいの?
しかし結局、リントヴルムに全力で止められてしまい、懐かしい飛空艇と別れを告げて神殿を後にしたのだった。
「せっかくだし、今日のところはこの街の宿にでも泊っていこう」
「宿? それなら神殿に参拝客たちのための無料の宿が併設されている」
「それって、個室とかあるの?」
「個室はない。男女別の大部屋で、そこに幾つもベッドが並べてある」
男女別の大部屋とかクソじゃん。
「無料じゃなくていいから、宿を教えてほしいな」
「無料ではない宿……? そんなものはないが」
「え?」
『この島には、島の外から訪れる人がいませんからね。しかも基本的に街ごとに自給自足していて、滅多に行き来がないとなれば、有料の宿があっても採算など取れないでしょう』
まさか、宿がないとは……。
『まぁでも、よく考えてみたら僕は赤ちゃんだからね。女性用の方で大丈夫だったよ、うん。というか、むしろ女性しかいない大部屋とか、最高じゃん。ベッドの間隔も近そうだし、間違って隣に寝ていた女の子のベッドに潜り込んじゃったりしても仕方ないよね!』
『……』
そうして神殿に併設された無料宿に泊まることになったのだが。
「うーん、思ってたのと違う……」
大部屋では、参拝客の女性たちが無言で粛々と寝る準備を進めていた。
若い女の子も少なくないのだが、お喋りする者はほとんどおらず、まるでお葬式のような辛気臭さである。
『しかもこんな時間なのにもう寝るとか。夜遅くまで女子トークに花を咲かせたり、もっと華やかな感じかと思ってたんだが』
『葬式というか、この神殿に参拝に来ている敬虔な女性たちですから、こうした雰囲気になるのは当然でしょう』
仕方ない。
夜の街にでも繰り出すとするか。
俺は無料宿を出ると、歓楽街を探して街を散策した。
「って、やってる店が一つもねえええええええええっ!」
小一時間ほど探し回った挙句、俺は絶叫する。
「え、まさか、夜のお店がないとか? 嘘だよな? 嘘って言ってくれ!」
クラブや賭博場、風俗店はもちろんのこと、普通の酒場すらまったく見当たらないのだ。
そもそも道行く人が全然いない。
ようやく見つけたのは、不審者のようなおっさんだ。
『ただ散歩をしているだけの男性のようですが。マスターの方が明らかに不審者かと』
堪らず俺は声をかける。
「ねえ、おじさん! この街には夜にやってるお店がないの!?」
「うおっ!? な、なんだ、お前は!? 赤子!? 赤子が喋ってる!?」
驚きつつも、おじさんは教えてくれた。
「そういうものはないなぁ。始まりの三賢人様たちに習って、俺たちは慎んだ生活を送っているからね。男女の淫らな関係はご法度だし、お酒も特別なときに少し嗜むくらいだよ」
あいつらか!
これもあいつらのせいなのか!
『そういえばあの三人、魔法の研究ばかりしていて、若いくせに浮いた話の一つもない真面目な連中だったな……くそっ、こんなことなら、もっと女の子と遊ぶことを教えておくべきだった!』
『そういうマスターも、魔法の研究ばかりで引きこもっていたのでは?』
『確かに若い頃は研究に没頭してて、女の子とも上手く話せないチー牛だったけどよおおおおおおおっ!』
『よかったですね。どうやらそんなマスターを、彼らはしっかりリスペクトしてくれていたようです』
『何にも嬉しくねえええええええええっ!!』
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