第304話 キモ過ぎ死ね
この島の住民たちにとって、徒歩で街から街へと移動するのは一般的なことではないらしい。
街の外は氷点下を大きく下回る気温で、しかも空気が薄いからな。
魔道具師だというダーナは必死に止めてきたが、
「大丈夫、これを使うから」
「なっ……石の船?」
俺が魔法で作り出したのは、石でできた船だ。
それに乗り込むと、船が地面を滑り出し、軽くその場をぐるりと一周する。
「こ、こんな魔法が!?」
「よかったらお姉ちゃんも一緒に行く? もう一人くらい乗れるスペースあるよ」
「……記憶喪失の君たちだけでは、街の場所が分からないだろう。私も付いていこう」
石船に乗り込んだダーナは、あることに気づいて驚く。
「なんだ? この中、暖かい……?」
「うん、寒いから石を暖かくしたんだ。これなら走ってもしばらくは寒くないはずだよ。じゃあ、出発!」
石船が加速する。
どんどん速度を増していき、真っすぐ島の中央へ。
「あの山を迂回していくのだぞ……?」
「え? でも直線ルートの方が早いでしょ?」
「まさか」
猛スピードで坂を上っていく。
やがて山の頂上を超えると、今度は一気に滑り降りる。
「うあああああああああああああっ!?」
絶叫するダーナ。
「なかなか気持ちがいいわね!」
「ん、爽快」
一方、うちのメンバーたちは余裕の表情だ。
いや、約一名、引きつった顔で叫んでいるな。
「ささささささすがに速すぎないかでござるかああああああああっ!?」
カレンの悲鳴が響く中、船が山を下り切り、平地に出た。
「ダーナお姉ちゃん、街はどっち?」
「おええええええっ」
「あ、リバースしちゃった……」
しばらく休息した後、ダーナの案内で俺たちはこの島の西にある街にやってきていた。
先ほどの街よりもずっと大きく、活気に溢れた街だ。
高層の新しい建物も多い一方で、古い街らしく年季の入った建造物も少なくない。
「祖先たちがこの島に移住し、最初に築かれた街だ。人口は5万人ほど。この街だけで、島の四分の一が住んでいる計算になる」
と、船酔い(?)から復活したダーナが教えてくれる。
神殿はこの街の中心にあった。
巨大な建物を取り囲むように広場が設けられ、大勢の人で賑わっている。どうやら住民たちの憩いの場として利用されているようだ。
神殿には人々が頻繁に出入りしていた。
いつでも自由に参拝ができるよう、日中は常に解放されているらしい。
普通は島の人間しか訪れないわけだから、厳しい警備も必要ないのだろう。
「それにしても立派な神殿ね」
「ん、大きい」
地上でも、これほどの規模の神殿はあまり見かけたことがない。
外観は晴れた空を思わせる美しい青を基調としており、細かな模様が施されている。
始まりの三賢人を祀っている神殿ということで、島内で最も大きな建造物だとか。
『ほとんど神のように扱われていますね』
『何であいつらが死後にこんなに敬われてるんだよ! 大賢者だった俺ですら、こういう神殿とか作ってもらってないのに! いや、もしかしたら探せばどこかに……』
『ないでしょう笑』
『今めっちゃ嘲笑しなかったか?』
『気のせいでは?』
神殿の内部もまた、外観に勝るとも劣らないほど、荘厳で見事なものだった。
礼拝堂には三賢人たちを模した像が置かれていて、大勢の参拝者たちが真摯に祈りを捧げている。
俺の弟子だった連中が人々に拝まれているなんて、なんだか不思議な光景だ。
『それにしても三人ともかなり美化されてるな。本物はもっと不細工だったぞ』
『口に出して言ったら殺されますよ、マスター』
そして件の魔導飛空艇は、神殿の地下にあるらしい。
他の大勢の参拝客たちに交じって、俺たちも地下へと続く階段を降りていく。
そこには広大な地下空間が広がっていた。
「これこそが、三賢人様たちが我々の祖先をこの地に連れてきた船……神船だ」
快造によってボリュームアップを果たしたセノグランデ号・快と比べても、遜色のないほどの大きさである。
なるほど、確かに数千人もの人々を一度に運んだだけのことはあるな。
『って、これ俺が作ったやつじゃねぇかあああああああああああああああああああっ!!』
俺は思わず心の中で絶叫した。
『え? 三賢人(笑)が作った船? いやいやいや、どこからどう見ても俺が作ったやつだって』
前世の俺は、生涯で三つ、魔導飛空艇を建造した。
初号機がセノグランデ号で、目の前にあるこれは三つ目、最後に作った最高傑作、ベレテッテグロッセ号だ。
その証拠に、この楕円体を左右に二つ並べたような形状。
初号機であるセノグランデ号と、まったく同じコンセプトから生まれている。
ただ、セノグランデ号と違って、前から見るとほんの少し垂れ下がったような形にすることで、より本物のおっぱいに近づけたのだ。
『……なるほど、確かにこんな卑猥な形状、マスターしか思いつきませんね』
加えて、左右の楕円体には、それを覆う防御シールドを取り付けている。
このシールドは任意でオフにすることが可能なのだが、オフにすると楕円の先端に突起物が出現するのだ。
そう、その姿はまるで、解放されたおっぱいそのもの……っ!
『ああ、改めて考えてみても最高傑作……っ! セノグランデ号・快も、できれば同じようにしたかったんだが素材が足りなくてな……今回は性能アップだけに留めるしかなかったんだ』
『マスター、全女性を代表して申し上げますね。――キモ過ぎ死ね』
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