第300話 可哀そうに思えてきたわ
東方を十分に満足した俺たちは、西に戻ることにした。
「ぜひまた来たいな。また将軍におっぱい飲ませてもらいたいし。幸いそろそろ転移魔法が使えそうだから、次は簡単に行けるはず」
転移魔法は膨大な魔力量が必要な上に、身体の負担が大きい。
そのため今まで使用を控えていたのだ。
ちゃんと魔法陣も刻んでおいた。
転移先に目印をつけておくことで、負担を軽減することができるのである。
『ちなみにどこに刻んだので?』
「え? もちろん将軍のお風呂だけど。大丈夫。しっかり隠蔽してあるから」
『……さいですか』
呆れているリントヴルムを余所に、俺たちはセノグランデ号に乗り込もうとする。
「ん、大きい?」
「なんか大きくなってない?」
ファナとアンジェが、その外観を見て首を傾げた。
「よく気づいたね! そう、実は快造したんだ!」
俺はセノグランデ号に大快造を施していた。
それに伴い、この飛空艇の最大の特徴とも言える左右のおっぱいをボリュームアップさせたのである。
「HカップからJカップに豊胸させた感じだね。本当はLカップくらいにしたかったんだけど、あんまり大型化させるより、飛行性能アップに振った方がいいかなって思って泣く泣く断念したんだ」
「何の話してんのよ……」
そもそもこの人数しか乗らないのに、大型化する意味はまったくないしな。
現状でも十分に広い。
「けど、そのお陰で飛行性能は素晴らしいよ! これなら東西を両断している大山脈だって余裕で超えていけるはず!」
なお名前も、セノグランデ(巨乳)号をセノトロッポグランデ(爆乳)号に変えようと思っていたが、長いのとこのサイズではまだ爆乳とは言い難いため、セノグランデ号のままにしておいた。
『Jカップは十分に爆乳かと思いますが』
は? 爆乳は最低でもLカップからだろ?
その代わりと言ってはなんだが、これからはセノグランデ号・快と呼ぶことに使用。
『先ほどから気になってましたが、〝改〟の間違いでは?』
「いいや、快だ」
『……』
そしてこの快造にあたって、必須だったのが強力な動力源だが、先日捕獲した女型魔族を利用している。
今も機関室で俺の代わりに魔力を供給してくれているはずだ。
『魔族とはいえ、容赦ありませんね。マスターの好きな胸もついている女型ですし』
「女型魔族のおっぱいは硬くて全然おっぱいじゃないからな。むしろ期待させておいた分、罪深いと言っても過言ではない」
『改めてしみじみと痛感しますが、マスターは本当に気持ちの悪い人間ですね』
セノグランデ号・快が空へと舞い上がり、エドウの街並みがどんどん遠ざかっていく。
「我が故郷、エドウ……しばしの別れでござるな。拙者は必ず強くなって戻ってくるでござる」
窓の向こうを見つめながら、カレンが決意の籠った表情で呟いている。
東方で新たに仲間になった彼女にとって、故郷から離れるのはこれが初めてのことだ。
やがて飛空艇は雲を見下ろすほどの高度まで上がり、エドウの街並みが豆粒のようになる。
もはや大半の鳥や飛行系の魔物が届かない高度だ。
「さて、それじゃあ、さらに加速するよ」
遠くに見えている大山脈に向かって最高速度で飛行する。
快造によって以前の倍近い飛行速度を実現していた。
「山脈があっという間に近づいてくるんだけど……どれだけの速度が出てるのよ?」
「ボランテからベガルティアまでなら、5分くらいで着いちゃう速さだね」
「5分!? なんかもう、速すぎてわけがわからないわね……」
「さすが師匠、天才」
「この速さ、我が全速力で走っても到底敵わぬな」
リルも驚いたように言う。
彼女は人化したフェンリルで、俺のペットなのである。
やがて東西を分断する大山脈が間近に迫ってきた。
かなりの高度を飛んでいるはずだが、それでも山々の頂上が割と近い位置にある。
「何千メートル級の山々が連なっているのが、このアトラス大山脈だからね」
ちなみにアトラスは巨人の魔物の名前でもある。
この魔物にちなんでアトラス山脈と名付けられたのか、アトラス山脈にちなんでこの魔物がアトラスと名付けられたのかは定かではない。
そしてこの大山脈には――無数のドラゴンが棲息している。
「この高度なら回避できるけど、せっかくだし、ちょっと見に行ってみよう」
少し高度を落とし、大山脈に接近していく。
すると一番近い山頂のあたりに、うじゃうじゃとハエのように飛び回るドラゴンの群れが見えてきた。
なお、今はステルスモードをオフにしてある。
「ちょっ、何でわざわざ突っ込んでいくのよ!?」
「戦う?」
「大丈夫、僕らはただここでのんびり見てるだけでいいから。少し飛空艇の試運転をしてみたいと思って」
ドラゴンの一体がこちらに気づいて躍りかかってきた。
飛空艇から魔力砲が発射される。
ドオオオオオンッ!
「~~~~~~ッ!?」
巨躯をあっさり貫く。
ドラゴンは絶命して真っ逆さまに落ちていった。
「さあ、どんどん行ってみよう」
最初の一体を皮切りに、無数のドラゴンが次々と殺到する。
しかしそれらを魔力砲がことごとく撃墜していった。
「ドラゴンがまるで小鬼のように瞬殺されていく……こんな光景、初めて見たでござる……」
「うんうん、魔力もまだまだ余裕だね。さすがは魔族。動力源としてとても優秀だよ」
「魔族ってそういうものだったかしら……。こんな鬼畜な赤子に遭遇してしまったばかりに動力源にされるなんて、なんだかあの女型魔族が可哀そうに思えてきたわ……」
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