第297話 一番残念な魔族かもしれん
建物が激しく揺れる中、俺たちは急いで地下から脱出した。
地上に出ると、カラクリ忍者たちと戦っていた兵士たちも異変を察し、建物の外へと逃げ出していた。
「やっぱり外は揺れてないね。この建物だけだ」
「な、何が起こるのでござるか?」
誰もが不安の表情で様子を見守る中、地上の建物が倒壊を始めた。
しかし単に揺れで崩れ始めたわけではない。
地中から何かが出現しようとしていて、それで地上の建物が破壊されているのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
やがて地上の建物を押し退けるように現れたのは、
「「「でかっ!?」」」
恐ろしく巨大なカラクリ兵だった。
ゆうに全長十五メートルは超えているだろう。
人型ではあるものの、五頭身ほどの身体のバランスで、右手には幅広の剣を持ち、左手には長い銃身を有する銃器を担いでいる。
「ククク、ハハハハハハッ! 驚いただろう! これこそが、我の最終カラクリ兵器! カラクリ巨兵だ!」
響いてきた声は、一当斎のものだった。
そういえば途中から姿を消していたな。
見ると、カラクリ巨兵の腹部のあたりが透明な壁になっていて、その奥に操縦席に座る一当斎の姿があった。
さらにその下の方から別の声が聞こえてくる。
「一体これはどういうことだ!? わらわはどうなっている!?」
女型魔族だ。
操縦席のすぐ下あたりに、こちらも透明な壁があり、その奥にカラクリの腕に拘束されたままの女型魔族の姿があった。
「ククク、お前はこの最終兵器の動力源だ!」
「な、何だと!?」
「この巨大兵器を動かすためには、膨大なエネルギーが必要だ。だが、現状では一度にそれだけの電力を生み出す方法がない。そこで、我は考えたのだ! 魔族の持つ膨大な魔力を電力に変換することで、十分なエネルギーを生み出せるのではないかとなぁ!」
愕然とする女型魔族に、一当斎は意気揚々と語る。
「実はお前を改造するとき、密かにそのための機構も埋め込んでいたのだ! そうとも知らずになんとも愚かな魔族だ! ハハハハッ!」
「ば、馬鹿な……」
つまり女型魔族は一当斎を利用しているつもりで、実は逆に利用されていたというわけだ。
『なんだか少し可哀そうになってきましたね』
『そうだな。もしかしたら今まで会ったことのある魔族の中で、一番残念な魔族かもしれん』
リントヴルムと一緒に同情してしまう。
「やめろおおおおおっ! 人間の分際で、わらわをそんな目で見るなあああああっ!!」
とにかく、今はあの女型魔族より、一当斎の操るカラクリ巨兵の方だ。
「ハハハハハッ! ここから見下ろせば、エドウの精鋭どもがまるでゴミのようだなぁ! 我のカラクリ技術が極まれば、いずれ戦いの主体はカラクリ兵になるだろう! 人間が必死に肉体を鍛えて戦う時代などお終いだ!」
まぁ前世の俺の時代では、魔導巨兵と言って、これによく似たものが使われていたけどな。
ただ、動力こそ魔力だが、魔法なしで同様のものを生み出してしまうとは驚きだ。
「どれ、貴様らに軽く見せてやるとしよう! このカラクリ巨兵の圧倒的な力を!」
カラクリ巨兵が右手の大剣を振り上げると、思い切り目の前の空間を斬り裂いた。
ゴオオオオオオオッ!!
猛烈な風が巻き起こる。
それだけで前方にいたエドウの精鋭兵たちの身体が浮き上がり、何人かは後方へと吹き飛ばされていった。
「ハハハハッ! まだまだこんなものではないぞ!」
今度は左手の銃器を構えるカラクリ巨兵。
次の瞬間、魔力の弾丸が放たれて海面に着弾、海が爆発し、こちらまで海水の雨が降り注いできた。
「あ、あんな巨大なカラクリと、一体どうやって戦えばいいんだ……?」
「やつの言う通り、もはや生身の人間に出る幕なんてないのではござらぬか……」
刀や槍を武器としている兵士たちは、唖然とした様子で立ち竦むのだった。
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