第295話 証拠ならここにあるよ
くノ一かと思ったら、女型の魔族だった。
俺の期待を返してほしい。
『……勝手に期待しておいて勝手に落胆するなど』
「てか、服部ハンナっていう、くノ一はどこに行ったの?」
「あの頭の悪い小娘のことかの? 当の昔にわらわが殺してやったわ」
どうやら本物のくノ一はすでにやられてしまっていたらしい。
忍者組織そのものが、この魔族に乗っ取られていたようだ。
「何のために乗っ取ったの? しかも自分の身体をカラクリ化までさせてさ」
俺の問いに、女型魔族はどこか恍惚とした顔になって答える。
「すべてはあのお方の復活に備えるためだ」
「あのお方?」
「かつて魔族の王と謳われた、至高のお方のことだ! 忌まわしき人間どもに殺されたと聞いていたが、実は密かに命を繋ぎ、復活のときを見計らっておられるのだ!」
珍しいタイプの魔族だな。
というのも、魔族は基本的に徒党を組まない。
それどころか魔族同士も仲が悪いことが多く、同族で殺し合いをするほどだ。
まぁ人間も戦争とかあるが、それでも魔族よりは協調性がある。
そうして女型魔族は、その魔族の名を口にする。
「魔王アザゼイル様! わらわが手に入れたこのカラクリの知識はきっと、再びこの世界の支配者にならんとするあなた様の力になるだろう!」
俺は言った。
「いや、魔王アザゼイルならつい最近、復活したけど倒したよ」
「…………は?」
女型魔族は一瞬、唖然としてから、
「ふ、ふはははははっ! あのお方が倒されただと? 何の冗談だ!」
「本当だって。僕が倒したんだから」
「……あの方を侮辱する気かぁぁぁぁぁぁぁっ!」
突然、女型魔族は魔力を爆発させる。
気の弱い人間なら、これだけで気絶してしまうだろう威圧感だ。
俺はもちろん平然としつつ、亜空間からそれを取り出した。
「証拠ならここにあるよ」
魔王の心臓だ。
かなり強固な封印を施しているというのに、ドクドクと鼓動している。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
女型魔族は目を見開いた。
「こここ、この魔力はっ……ままま、まさかっ、本当にっ!?」
「だから本当だって言ってるでしょ」
「それを寄こせえええええええええええええええっ!!」
女型魔族が絶叫と共に飛びかかってくる。
同時に装束の背中側が破れ、翅が出てきた。
昆虫などの翅とよく似た感じのもので、恐らくカラクリの一種だろう。
その翅を猛スピードで羽ばたかせ、女型魔族が加速する。
しかしその前に立ちはだかるサムライ少女がいた。
「柳生心念流・迅雷」
カレンの繰り出した斬撃が、横合いから女型魔族の胴に叩き込まれた。
「っ!? がああああっ!?」
怒りで俺以外は見えていなかったのか、まともに技を喰らった女型魔族は吹き飛んで壁に激突する。
「まぁ正直かなり弱い魔族みたいだからさ、僕が出るまでもないよね。カレンお姉ちゃんのいい訓練になると思うよ」
「貴様あああああああっ! わらわを愚弄するかああああああっ!?」
さらに激高した女型魔族は、今度は腕を変形させる。
右腕は剣と化し、左腕は盾となった。
ウィイイイイイイイインッ、という音が響く。
よく見ると剣と盾はごく微細ながら猛スピードで振動していた。
「高速振動させることで、凄まじい切断力を実現した特殊な剣だ!」
女型魔族が軽く剣を振ると、まるで空気でも斬ったかのように近くの壁が切断される。
「そしてこの高速振動する盾は、ありとあらゆる攻撃を跳ね返すことが可能! 下手に攻撃すると、武器の方が破壊されるだろう!」
「なかなか面白い武具でござるな。しかし……拙者は負けぬ!」
「人間の小娘がっ、わらわの邪魔をするというなら、その身を無数の肉塊に変えてやる!」
翅の後押しを受け、一気にカレンとの距離を詰める女型魔族。
繰り出される振動剣を刀で受けるわけにもいかない上に、不用意な反撃も盾で防がれて刀を破壊されかねない。
「柳生心念流奥義・闘念」
カレンの刀が闘気を帯びた。
そういえば爺さんが闘気のすべてを刀に集めた攻撃を放っていたが、どうやら柳生心念流には闘気を利用した技があるらしい。
闘気を帯びた武器は、攻撃力が上がるだけでなく頑強さも大幅に増す。
ガキイイイインッ!
カレンの刀が、女型魔族の剣を受け止めた。
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