第290話 倫理観どないなっとんねん
「師匠、顔色がいい。何があった?」
「ふふふふ~、分かる~、ファナお姉ちゃん?」
「ずっとニヤニヤしてるんだから誰にでも分かるでしょうが。気持ち悪いくらいよ」
「きっとニコウの温泉を気に入ったのでござろう。噂通り、素晴らしい湯でござったな」
「確かにとってもいいお湯だったなぁ!」
爆乳からの直母という、考えうる限り最高のひと時を堪能できた俺は、温泉を出た後もずっと上機嫌だった。
なんだか身体の奥底から力が湧いてくる感じもする。
最近はすでに大人と同じ食事をしているが、やはり赤子のこの身体は、定期的におっぱいを飲む必要があるのかもしれない。
いや、きっとそうだ、そうに違いない!
「また飲ませてくれないかなぁ」
『そんなことより、マスター。それと引き換えに、なかなか面倒な条件を飲まされましたね』
実は将軍から、おっぱいを飲ませてもらう代わりに、あることを依頼されたのだ。
「忍者集団の本拠地を見つけたら、壊滅作戦に手を貸してほしいってやつだな」
『そうです。それがどこにあるかも分からないというのに、果たしてどれだけ時間がかかることか……』
当然ながら幕府も懸命に探しているものの、まだ手がかりすら掴めていないという。
将軍からは何か分かればすぐに連絡すると言われているが、一体いつになることか。
『マスターが一時の性欲に負けて、あっさり承諾するからです』
「おっぱいを飲めることと比べたら大したことじゃない!(キリッ)」
一応、忍者集団の本拠地について、俺にはある目星がついていた。
「森の中に隠れて密かに戦況を見ている忍者がいたから、こっそり目印を付けておいた。どこに逃げ帰るのか分かるようにな」
『なるほど。だから戦闘が始まってすぐには動かなかったのですね』
その目印は今、ある場所で停止していた。
そこが奴らの本拠地の可能性が高いだろう。
その後、再襲撃が懸念されていたトウショグウへの参拝時には何事もなかった。
さらに本来なら一週間ほどニコウに滞在する予定だったが、急遽、三日間に変更してエドへと帰路に就くことに。
帰り道の襲撃もなく、将軍御一行は無事にエドウ城へと帰還したのだった。
「これがカラクリ化された忍者だよ」
「人間をカラクリに改造するなんて、倫理観どないなっとんねん」
俺たちは再び平賀源子のところを訪れていた。
あのとき丸ごと凍らせることで自爆を止め、保管庫に入れておいた忍者を彼女に調べてもらうためだ。
カラクリについて彼女以上に詳しい人間はいないからな。
「もちろん、うちかて人のカラクリ化くらい考えたことあるで。ただ、せいぜい腕に武器を仕込ませたり、人工筋肉で身体能力を強化させたりとか、その程度や。さすがにここまではなぁ……なんせ、人間の要素がほとんど残っとらんし。脳まで弄られとるで」
どうやら忍者たちは全身の大部分をカラクリ化されていたようだ。
「そもそも相当な知識と技術がないと難しいよね?」
「せやな。うちですら、これをやろうとしたら数年はかかるやろう」
「そんなことができる人間に心当たりある?」
当然ながらすでに将軍直々の調査が、源子とこの研究所に入っているだろう。
なにせ人間をカラクリ化するという芸当が可能なのが、ここ以外にないためだ。
「……あるで。すでに役人にも話したんやけど、以前うちに将来を嘱望されとる研究員がおったんや。平賀の血筋やないものの、うちと遜色ない才能を持っとったと言っても過言やない」
だがその研究員は、危うい思想の持ち主だったという。
「カラクリの発展のためなら、何でもありっちゅう危険な考えしとってな。そのために何体も犬や猫を解体し、殺しとったのが発覚して、研究所を追放したんや」
そう言う源子も、俺を解体しようとしてたけどな?
「その後の行方は知らへんけど……人間の身体を改造し、自爆機能まで付けるなんて真似、まさにあいつならやりそうなことや」
研究所を追放された後、忍者組織と合流し、そこで密かにカラクリの研究を続けていたのかもしれない。
「そいつの名は国友一当斎。うちの知る限り、東方一の異常者や」
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