第288話 ちょっと穴開けてもいいかな
このニコウの街には、将軍が滞在するときのためだけに建てられた専用の屋敷があった。
さすがにエドウ城とは比べられないが、三百人を超える将軍一行を迎えてもまだまだ余裕があるほどの広さである。
俺たちもこの屋敷の一室を宛がわれ、将軍滞在のこの期間、基本的には自由に過ごして構わないとのことだった。
トウショグウへお参りにいくときだけ、再び護衛としての役目があるらしい。
「温泉にも自由に入ってよいとのことでござるよ」
「それはありがたい。我が主よ、早速入ってきても構わぬか?」
「いいよ! せっかくだし、みんなで一緒に入ろうよ!」
「当然あんたは男湯よ?」
赤ちゃんらしく必死に駄々を捏ねたのだが、結局、俺だけ男湯に入れられる羽目になった。
「酷すぎる……赤ちゃんなのに……そもそも魔力回路の治療とかで、すでに裸は見てるよね? 今さら見られたところで困らないでしょ?」
『キモ男らしい言い分ですね』
屋外に作られた温泉は、相当な広さだった。
ちょっとした池くらいはあるだろうか。
庭園というのか、周りには植物や岩などが置かれており、東方特有の趣が感じられる。
お湯は白濁していて、底まで見ることができない。
普通の護衛や付き人は別の温泉を使うこともあって、俺以外、誰も見当たらなかった。
「まぁ、こんな広いお風呂が貸し切りなんて、それはそれで悪くないけどね!」
ヤケクソ気味に叫んで、お湯に飛び込む。
「ふ~~、生き返るねぇ~~」
『ジジイ臭いです、マスター。まぁ中身はジジイなので当然でしょうか』
温泉の周りは竹垣と呼ばれる塀で遮られているのだが、その向こうから女性陣の声が聞こえてくる。
「ん、いい湯」
「空が広くてすごく開放的ね!」
「しかもほとんど貸し切りでござるよ!」
「うむ、これは癒される」
くっ、なんという生殺しだ……。
「あの竹垣、後で直しておくからちょっと穴開けてもいいかな?」
『覗きは犯罪ですよ』
と、そのとき俺はあることに気づいた。
「なんだ? お湯に流れがある……? 風が吹いているからか? いや、今は無風だ。湯口は離れた位置にあるし……もしかして!」
俺は流れの発生源を探るため、お湯に潜った。
視界が非常に悪くて先が見えないが、魔力を反響させることで周囲の状況を把握する。
あそこだ!
そうして俺は発見する。
浴槽は天然の岩で構成されているのだが、その一部に穴が開いていたのだ。
しかもその穴はずっと奥まで続いている。
ちょうど隣の女湯の方向だ。
「あれあれあれ~、温泉、こっちまで続いてるね~。せっかくだし、ちょっと行ってみよ~」
俺は潜水でその穴へと身体を滑り込ませる。
赤子の小さな身体でなければ、絶対に通れなかっただろう。
『覗きどころか、堂々と女湯に侵入しようとは……もはや変態を通り越して性犯罪者です、マスター』
『いやいや、俺はあくまで広い男湯内を探検してるだけだからね? この穴がもしかしたら女湯に繋がってるなんてことがあるかもしれないけど、それは不可抗力だよ。この先が女湯だなんて、どこにも書いてなかったしねぇ』
やがて穴の向こう側へ辿り着くと、お湯から勢いよく顔を出した。
「こっちも良い湯だね!」
そこには男湯に勝るとも劣らない広さの湯船があったのだが、
「っ、そなた、どこから入ってきたのぢゃ?」
「……あれ?」
ファナたちの姿はなかった。
代わりに湯船で寛いでいたのは、一人の若い女性。
年齢は二十歳前後くらいだろうか。
濡れそぼった黒い髪に、白磁のような肌、そして温泉なのだから当然だが一糸まとわぬ姿で、いきなり湯の中から現れた俺に驚いている。
何より俺の注意を引いたのが、白濁した湯の中で微かに見える、素晴らしい爆乳だ。
俺は即座に嘆願していた。
「ママァァァン、抱っこしてええええええええっ!!」
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