第285話 ちょっと賢いこと言った
将軍を乗せたカラクリ馬車が街道を進んでいく。
その前後左右を固めているのは、総勢三百人を超える同行者たちだ。
実はこれでも少ない方で、普通の御幸なら千人規模らしい。
というのもトウショグウは初代将軍が眠る神聖な地であり、大勢で賑やかに向かうのはあまりよろしくないとされているからだ。
そういう中にあって、護衛の兵士は百人を超えている。
それだけ敵の襲撃を警戒しているということだろう。
さらに護衛は人間だけではない。
平賀源子が作ったカラクリ兵が何体も配置されていた。
「面白い武器を持ってる人もいるわね」
「ん、初めて見た」
「あれは〝さすまた〟でござるな。敵を取り押さえる道具でござるよ」
長い棒状の道具で、先端部のU字になっている。
そのままだと簡単に逃げられそうだが、きっと何らかのカラクリが仕込まれているのだろう。
一行の上空には、小さな物体が飛んでいた。
地上を監視し、怪しいものが近づいてくると警報音を鳴らしてくれるという飛行型のカラクリである。
「羽を回転させることで空を飛んでるんだって。鳥とか昆虫とは、まったく違う飛び方だよ。よくそんな方法を発見したよね」
その仕組みに思わず感心してしまう。
「我が国には昔から〝竹とんぼ〟と呼ばれる子供のおもちゃがあるでござる。もしかしたら、それと同じ原理かもしれぬ」
「あれ、もしかして今、カレンお姉ちゃんにしてはちょっと賢いこと言った?」
「ふふん、そうでござろう」
ニコウは山に囲まれたところにあるそうだ。
そのため途中で峠を越える必要があり、忍者集団に襲われるとしたらそのあたりの可能性が高いと言われていた。
そうしていよいよ一行は、その峠へと差し掛かった。
当然あらかじめ偵察隊を行かせ、危険がないことを確かめているはずだが、それでも同行者たちの間に緊張が走る。
「……空からだ」
「師匠?」
最初にそれに気づいたのは俺だった。
念のため索敵魔法を使っていたからだが、それでも少し遅れたのは、予想していなかった上空から現れたせいだ。
つい先ほど、飛行型のカラクリについて話をしていたことを考えると、いただけないミスかもしれない。
もっとも、まさか人間まで飛行させられるとは思っていなかった。
ブーメランに似た形状の謎の翼を広げ、人間がゆっくりと滑空してきたのである。
それも一人だけではない。
同じような黒い装束に身を包んだ者たちが、次々と空に姿を現したのだ。
その服装は聞いていた忍者そのものである。
「気をつけて! 襲撃は空からだよ!」
俺が叫ぶと、みんなが一斉に空を見上げて息を呑む。
彼らもまた、こんな手段があるとは思っていなかったようで、
「空からだと!?」
「なんだあの翼は!? 何かのカラクリか!?」
「しかも数が多いぞ!」
その大半が空を呆然と見上げながら狼狽えている。
だが将軍の護衛というだけあって、すぐに適切な行動を取る者たちも少なくなかった。
「焦る必要はない! むしろ先に気づいた以上、こちらが有利でござる!」
「悠長に空から降りてきてくれている! 今のうちに矢で狙い撃て!」
「あのカラクリの翼を狙え! 身体よりも当たりやすい上に、破壊すれば地上まで真っ逆さまだ!」
彼らのお陰で兵たちが即座に戦闘態勢を整える。
そうして矢を放とうとしたときだった。
忍者たちが地上めがけて投げてきた球状の物体。
それが地面に当たった瞬間に猛烈な勢いで煙が噴出し、一帯に拡散した。
「まずいっ! 煙幕だ!?」
あっという間に視界が煙に覆われてしまう。
直後に着地音が聞こえてきて、兵士たちの悲鳴が響き渡った。
「あの高さから落下してきたのか。しかもこの視界の中で動き回っている?」
何らかの方法で、煙の中でも問題なく敵味方を見分けられるようにしているのだろう。
このままでは一方的に蹂躙されてしまう。
「ん、任せて」
ファナが魔法で突風を引き起こす。
見る見るうちに煙が風に流されていき、地上で猛威を振るう忍者たちの姿が露わになった。
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