第283話 煽ったりはしたけれど
俺が東方美女の抱っこを求めて四苦八苦する中、ファナとカレンは魔物討伐をしまくっていたようだ。
「まだ一千万圓もらってない」
……是が非でも一千万圓を徴収する気らしい。
「やはり一千万を稼ぐのは大変でござるな……適当に金額を決めたあのときの自分を殴りたいでござるよ……」
カレンがぐったりしているので、相当なハードスケジュールを強要されたのだろう。
一方のアンジェは、どうやら〝カラテ〟の道場に乗り込んで、勝負を挑んでいるという。
なお、カラテというのは東方独自の格闘技である。
「大半の道場は大したことなくて余裕で全滅させたけど、それなりに骨のあるところもあったわ。もちろんちゃんと事前に許可を取ってから勝負したわよ?」
「本当に? 挑発して怒らせたりしてない?」
「大丈夫よ。断られそうになったときに少しくらい煽ったりはしたけれど」
間違いなく怒らせていると思う。
リルはお留守番だ。
ただでさえ西方の人間は目立つというのに、獣耳まで生えている彼女は非常に注目される。
しかもこの国には、人間の若い娘に化ける能力を持った狐の魔物の伝説があるらしい。
リルは狼なのだが、幾度か狐の魔物が化けていると勘違いされてしまうことがあった。
「我を狐と勘違いするなど……」
まぁ普通の人には、狼と狐の耳の感じを判別するのは難しいだろう。
ちなみに俺たちは、エドウ城からほど近いところにある高級宿に宿泊している。
将軍から八岐大蛇撃破の褒賞の一つとして、タダで泊めてもらえることになったのだ。
この国のお金が乏しい状態なのでありがたい。
そしてこれがなかなか良い宿だった。
VIP専用の客室だというのもあるが、広い部屋がいくつもあって、風情のある庭までついているし、サービスも申し分ない。
しかもこの宿には温泉が湧いていた。
温泉というのは、地中から湧き出してくるお湯のことで、火山の多いエドウ国には温泉地が非常に多く存在するらしい。
「とても良い湯で、何度も入ってしまう」
リルはこの温泉が大いに気に入ったようで、お陰でずっと宿に籠っていても苦ではない様子。
もちろん俺も温泉が好きだ。
前世では日々の魔法研究で疲れた身体と心を癒すため、毎日のように温泉に入っていたくらいである。
前世の俺が健康で長く生きられたのは、きっと温泉のお陰でもあるだろう。
当然ながら入らないという選択肢などない。
「で、何であんたが女湯に入ろうとしてんのよ?」
「だって僕、赤ちゃんだよ? 赤ちゃんは一人じゃお風呂に入れないでしょ?」
「あんたは一人で風呂どころかダンジョンにすら潜れるでしょうが」
女湯に入ろうとしたらアンジェに止められた。
「大人しく男湯に行ってなさい」
男湯の方にポイッと投げ捨てられる。
「酷い! 児童虐待! 育児放棄だ!」
必死に抗議するも、アンジェは無視して女湯の方に行ってしまう。
だがこの程度で諦める俺ではない。
「ばぶーばぶーばぶー」
女湯の前の廊下に寝転がり、赤ちゃんらしい声を出す俺。
そう、女性客に拾ってもらい、そのまま一緒に女湯に入れてもらおうというのだ!
我ながら完璧すぎる作戦である。
すぐに足音が近づいてきた。
「あらあら、こんなところに赤ちゃん? パパやママはどこに行っちゃったのかしら?」
女性の声だ。
さあ、俺を抱きかかえるがいい!
「ばぶーばぶーばぶー」
「それにしても、すごくかわいい子ねぇ。なんとなく異国風の顔立ちだし……」
「ばぶーばぶーばぶー」
「うふふ、もしかして温泉に入りたいのかしら? それじゃあ、おばさんと一緒に入ってみる?」
「ば、ぶ……」
俺を抱き上げてくれたのは、五十代くらいと思われる恰幅のいい中年女性だった。
「ばぶうううううううっ!?」
『よかったですね。マスターの大好きな巨乳の方で』
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